アルバム4作目にして遂に実現したバイアグラ・ボーイズ(Viagra Boys)の初来日公演は、1300人キャパのSpotify O-EASTが完全ソールドアウト。二階席までオーディエンスがぎっしりと詰まっており、たくさんの人々がこの瞬間を待ち侘びていたことが伝わってくる。
フロントマンのセバスチャン・マーフィーは「日本のファンがどんな反応をするか想像もつかない」とライブ前に不安と期待がない交ぜになった心情を語っていたが、蓋を開けてみると、冒頭の「Man Made of Meat」から凄まじい熱気が会場を覆い尽くした。

バンドの凶暴な爆音に感化されて叫び、飛び跳ね、ダイブをするオーディエンスを目にして、メンバーたちも確かな手応えを掴んだに違いない。90分間まったく弛緩することなく最後まで熱狂し続けた会場は、バンドが後日Instagramで書いていたとおり、まさに「exceptional shibuya meltdown(完全にイカれた渋谷の大熱狂)」状態だった。

ヘヴィなベースがグルーヴを牽引し、ときに耳を突き差すサックスが野蛮に暴れ回り、ボンゴがサイケデリックなカオスを増幅させるバンドサウンドも終始圧倒的だったが、やはりセバスチャン・マーフィーのフロントマンとしての存在感は格別だ。タトゥーでびっしりの上半身には何もまとわず、たるんだビール腹を晒し、ゴキゲンな酔っ払いのように踊りながら、猛獣を思わせる唸り声で歌う。その姿は世間の基準で見れば完全に「ヤバい奴」だ。だがその「ヤバさ=ウィアードネス」を一切隠さず、変わり者である自分を丸ごと曝け出すところにこそ、彼の美しさとバンドの本質的な魅力がある。バイアグラ・ボーイズのライブが自由で心地よい空間に感じられるのは、その飾らないリアルさが理由のひとつでもあるのだろう。

最新作『Viagr Aboys』のリリース時に続き、2回目となる今回のインタビューは、そんな大成功を収めた初来日ライブの直前に会場の楽屋にておこなわれた。サウンドチェック前で忙しないタイミングだったにもかかわらず、セバスチャンは最新作で標榜したサウンド、バットホール・サーファーズやDEVOの影響、マスキュリニティとの距離感、そしてバイアグラ・ボーイズがフリークスやウィアード──つまり「変わり者」のための音楽であることについて、一つひとつユーモアを交えながら丁寧に語ってくれた。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

セバスチャン・マーフィー(Photo by Kazumichi Kokei)

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

2026年1月27日、渋谷Spotify O-EASTにて撮影(Photo by Kazumichi Kokei)

―今回の初来日に合わせて、最新作『Viagr Aboys』にボーナストラック4曲を追加した日本盤CD/レコードがリリースされました(※ストリーミング・サービスでは、ジャパニーズ・デラックス・エディションとして世界配信)。バンド側の意向で発売が決まったと聞いていますが、なぜ今回日本盤を出したいと思ったのか、まずはそこから訊かせてください。


セバスチャン:単純に、日本だけで出すのがちょっと面白いからっていうのもあるんだよね。他の国に対して「ざまあみろ」みたいな、ちょっとした意地悪っていうか(笑)。でも同時に、俺たちは日本が大好きなんだ。日本の美意識とかが好きだし、日本語表記のCDの感じがすごく気に入ってる(※日本盤CDの帯を示すジェスチャーをしながら)。見てて「うわ、めっちゃいいじゃん!」ってなる。それに、日本でのファンベースももっと広げたいって思ってるしね。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

『Viagr Aboys (Japanese Deluxe Edition) 』ジャケット写真

―今回の初来日公演は1300人キャパのO-EASTがソールドアウトですし、あなたたちが来てくれるのを心待ちにしていた熱心なファンはたくさんいますよ。

セバスチャン:うん、でもまだ全然実感がなくてさ。(日本でのライブは)何が起こるのか想像もつかない。日本の人とはオンラインでちょこっとやりとりしたことがあるくらいだし。だからソールドアウトしたって聞いたときは「よっしゃ!」ってなったし、ここでライブするのはずっと夢だった。バンドを始めた時から「いつか日本でできたら最高じゃん!」って感じだったから。
でも、どんな人たちが来るのか、年齢とか雰囲気とか、まったくわからない。本当に予想がつかないよ。

―でも今夜のライブでそれがわかりますね。

セバスチャン:そう、遂にわかるね。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」


Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

Photo by Kazumichi Kokei

バットホール・サーファーズやDEVOに共感する理由

―では、『Viagr Aboys』リリース時にZoom取材をさせてもらっていますが、今回はもう少し突っ込んで、いろんな角度から話を訊かせてください。

セバスチャン:うん。

―改めて聴いても、『Viagr Aboys』はこれまででもっともポップでキャッチーな印象を受けます。これは意識的だったのでしょうか?

セバスチャン:うん、ある意味ではそう。俺たちは実験をして、どこまで突き詰めても自分らしさを保てるかを試すのが好きなんだ。「ファック、もっとやってやろうぜ!」みたいな感じで、もっと違うジャンルにも手を出してみるのが、俺たちにとっては面白い。一つのサウンドを決めて「これが俺たちの音だ、これに従うだけ」ってやるのは退屈なんだよ。そうじゃなくて、自分たちができることの境界を押し広げて、それでまだ本物として成立するところまで挑戦する方が、ずっとワクワクするんだ。


―前回のインタビューでは、アルバムはニルヴァーナに影響を受けていると話していました。ニルヴァーナが大ブレイクして、ソニック・ユースやバットホール・サーファーズなどがメジャーレーベルと契約した、90年代前半のUSインディのサウンドというのは念頭にありましたか?

セバスチャン:うんうん、完全にそう。たくさんの90年代のバンドにインスパイアされてるんだ。初期はすごく荒削りで実験的な音だったのに、次第にまとまりが出てくるっていう、あの幅広さが好きなんだよ。あるアルバムではすごくノイジーでガチャガチャしていたのに、次のアルバムでは美しい曲ばかりだったりね。俺は音楽なら何でも聴くから、そうやって幅を広げていくのが楽しいんだ。うん、だから確かに、このアルバムでは90年代のバンドとか90年代のサウンドからすごく影響を受けてる。1993年とかに生まれたような音にしたいと思っていたところもあるしね。

―今回そういった時代のサウンドにインスパイアされたきっかけはあったんですか?

セバスチャン:特に理由はない(笑)。ただ自然な流れでさ。わかるだろ? 俺たちっていつも新しいことをやりたくなるタイプなんだよ。それに、俺たちが最初に受けたオリジナルのインスピレーションは、ずっとそこに残り続けてる。
俺は今でもDEVOにずっと影響を受けてるし、あのバンドが大好きなんだ。だから曲を作ると、結局ああいうDEVOっぽいリズムになることが多い(※口でマシーナリーなドラムビートを真似る)。新しいアルバムで他のバンドや物事に刺激を受けたとしても、昔からの要素は常にそこにあるんだ。

―昔からの影響という話で言うと、あなたが最初に大きな衝撃を受けた音楽というのは何だったのでしょうか?

セバスチャン:子どもの頃に家で父親のレコードを漁ってたんだよね。で、たぶん最初に強烈だったのはデヴィッド・ボウイ。特に『Ziggy Stardust』はめちゃくちゃ刺さった。本当にヘヴィだったね。それからブラック・サバスも超デカかった。本当に大好きで、何年もずっと聴き続けてたよ。あとセックス・ピストルズも、若い頃はすごくデカかった。ジョイ・ディヴィジョンもすごく大きかったな。父親がそのへんのレコードを持ってたから、それをひたすら聴いてた感じだね。
あとハンク・ウィリアムズもめちゃくちゃ大きくて。カントリーが好きなんだよ。で、誰が一番かな?って考えると、たぶんピクシーズなんだよね。でも時期によって変わるから。今挙げたのは、たぶん10歳とか、そのくらいのときに好きだったものだよ。

―当時聴いていた音楽も、現在のあなたの音楽観に影響を与えていると思いますか?

セバスチャン:うん、完全に。全部影響してるよ。今まで聴いたものは全部どこかで混ざり込んでいるんだ。カントリーだって自然と音の中に入ってると思うし。歌う時にちょっと南部っぽい訛りが出たりさ(笑)。そういうのは間違いなく音楽に滲み出てるね。

―2ndアルバムの『Welfare Jazz』(2021年)にはカントリーの要素が入っていましたが、それはアイロニーとかではなく、純粋に好きだから取り入れたという感じ?

セバスチャン:そう。
まあ、だいたいはその時に自分が何を聴いてるかによるんだよね。その時期はウェイロン・ジェニングスが数年間ずっと一番好きなアーティストだった。俺は何かを聴き始めるとめちゃくちゃ執着するタイプで、同じものを延々と聴き続けるんだよ。で、それが結果的にレコードの音にも影響するんだと思う。

バイアグラ・ボーイズがカバーした、ウェイロン・ジェニングス「I Ain't Living Long Like This」(作曲者はロドニー・クロウエル)

―前回のインタビューでは、バットホール・サーファーズに大きな影響を受けていると話していましたよね。実際、僕がバイアグラ・ボーイズを聴いて最初に連想するバンドも、バットホール・サーファーズなんです。

セバスチャン:ワオ、ありがとう!

―でも、具体的に彼らのどんなところに惹かれたのでしょうか?

セバスチャン:彼らがグレイトだと思うのは、ジャンルに縛られていないからだよ。何か特定のサウンドがあるわけじゃないのに、聴けばすぐにわかる。「あっ、これはバットホール・サーファーズだ!」ってね。で、彼らはちょっとポップ寄りの曲を作ることもあるけど、歌詞はいつも不条理だし、どこかドラッギーで、フリークスにしか作れないような音を出してる。聴けばすぐわかるじゃん、「あ、こいつら普通の人間じゃねえな」って(笑)。

―バットホール・サーファーズもバイアグラ・ボーイズも、フリークス、変わり者を祝福する音楽を作っているというのは共通点ですよね。僕はバットホール・サーファーズに関しては、凝り固まった常識に捉われず、そこから逸脱する自由さに一番惹かれるんです。聴いていると、くだらない世間のルールに縛られなくていいんだという解放感が得られるというか。で、バイアグラ・ボーイズにも同じものを感じるんですよね。

セバスチャン:そう、自由ってことだよね。たとえばスタジオにいるときも、俺たちは基本的に「こうしなきゃいけない」みたいな前提がまったくないんだよ。めちゃくちゃ自由だし、誰でもアイデアを出せる。誰かがファンクのレコードとかサンバのレコードを持ってきても、「これ好きだな」ってなったら、それを自分たちの音に取り込んでみるしね。うん、自由ってめちゃくちゃ重要だと思う。

―バットホール・サーファーズとか、さっき名前が挙がったDEVOとかって、悪ふざけとパフォーマンスアートのギリギリの線を突くような、独特のユーモアセンスを持っていたりするじゃないですか。ある意味、バイアグラ・ボーイズもそういうセンスを引き継いでいる部分があると思うんですけど。

セバスチャン:うん、本当にそうだと思う。完全に同感だよ。俺たちがいつもやっていることも、一種の風刺なんだ。ユーモアであり風刺だけど、同時に真剣でもあるっていう。わかるだろ? たとえばDEVOって、あれはロックンロール全体に対する風刺なんだよ。全体が一種のジョークなんだけど、同時に全然ジョークじゃない。で、彼らってリスナーを騙すんだよ。何も知らない人が聴いたら「うわ、キャッチーな曲じゃん」ってなるんだけど、その曲が実際に言ってることは全くぶっ飛んでるっていう。

―ええ、そうですよね。

セバスチャン:それに、俺が特に好きなのはDEVOが作る世界観なんだ。架空の世界を作るんだよ。彼の視点で見える世界で、そこには変な人たちがいて、政府があって、めちゃくちゃなことが起こってて。その偽物の世界って、実は本当の世界の鏡みたいになってる。で、俺はああいうストーリーテリングも好きなんだ。キャラクターがいて、そいつらを追いかけられて、別の曲にも出てきて、まるでドラマのエピソードみたいになってて。それが本当に好きでさ。架空の世界、あれが好きなんだよ。

―あなたたちも独自の世界観を作ることに意識的ですよね。バイアグラ・ボーイズはシュリンプテック・エンタープライズ(Shrimptech Enterprises)というレーベルを立ち上げていますが、それはただのレーベルではなく、企業体や資本主義を風刺するナラティヴの装置としても使われています。それに、初期から現在に至るまで歌詞に犬がよく出てきたり、あなたのエビへの執着が繰り返し強調されたり、アルバムをまたいで歌詞やモチーフの連続性が感じられるようになっていて、しかもそれをファンが楽しんでいるっていう。

セバスチャン:そうそう、俺はずっとそれ(架空の世界)をバイアグラ・ボーイズでも作りたいと思ってた。(DEVOとは)違う感じの世界観でね。で、ファンはそれをちゃんと拾ってくれてるんだよ。みんなシュリンプの話をするし、犬の話もするし、カエルも出てくるし、小さな動物たちの話をずっとしてる。でも実際には俺、今回のアルバムまで曲の中では一回もシュリンプって言ってなかったんだ(笑)。でもそれ以前からファンは勝手にシュリンプとか犬とかカエルとか言ってて、それって俺が曲の中でそういう小さな動物を登場させることが多いからなんだよ。

バイアグラとマスキュリニティ

―前回のインタビューでは、あなたが自己嫌悪について語っているところが読者から特に反響が大きかったんです。あなたの書く歌詞は、社会風刺と内面的な葛藤が複雑に絡み合っていると感じますが、そのバランスはどのように考えているのでしょうか?

セバスチャン:たぶんその時の自分の人生の状況によるんだと思う。2ndアルバムの頃は、全部が自分のことと、自分が抱えてるクソみたいなことについてだった。当時はヘヴィなドラッグ中毒から抜け出したばかりで、躁状態で、自意識過剰で、しかも自分のことが大嫌いだった。まあ、今も自分のことを多少は嫌いなんだけど、時期によってその度合いが違うんだよ。で、自己嫌悪が少し弱まってるときは、目が外の世界に向くんだ。そうなると今度は、世界の方を嫌いになる(笑)。で、たぶんそのときは世界のことを書きたくなるっていう。だから、アルバムを書いてるときの状況によるんだよね。

―『Viagr Aboys』のとき、そのバランスはどうだったんですか?

セバスチャン:今回のアルバムに関しては、自分の人生が結構いい感じだったんだと思う。だから自分に対してそこまで深刻じゃなかった。ただ楽しもうとしたし、思いついたことを書いただけで、そこまで考え込まなかった。もっと無意識的だったと思う。昔はめちゃくちゃ自意識が強くて、歌詞を書くときも1000回は書き直してた。自分の言いたいことをちゃんと理解してもらうのがすごく重要だと思ってたから。でも今はもう気にしてない。「もうどうでもいいや」って感じ(笑)。たぶん自分がハッピーであればあるほど、気にしなくなるんだと思う。でも真剣にやってることは変わらないよ。ただ、昔は重要じゃないことにやたら時間をかけてたって気づいた。自分のことばっかり考え続けるのって本当に面白くないし、今は興味がない。今はこのイカれた世界の方に興味があるんだ。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

Photo by Kazumichi Kokei

―例えば、バイアグラ・ボーイズというバンド名や、初期の代表曲である「Sports」は、男らしさや有害な男性性に対するアイロニーなわけですよね?

セバスチャン:いや、俺たちがバイアグラ・ボーイズっていうバンド名にしたのは、そういう理由じゃないんだ。ただ、ジャーナリストたちがそうやって解釈したっていう。「ああ、これは有害な男性性への批評なんだろう」って。でも違うんだ、当時の俺こそ有害な男だったと思うよ(笑)。バイアグラ・ボーイズっていう名前にしたのは、単純にめちゃくちゃバカっぽく聞こえるから。ほんと、アホみたいに聞こえるだろ?

―そうですね(笑)。

セバスチャン:それに当時の俺たち──少なくとも俺はドラッグをやりまくってたから、バイアグラが必要だったんだよ。アンフェタミンをやるとペニスが機能しなくなるからさ(笑)。で、俺の友達もみんなドラッグ中毒で、ポケットにいつもバイアグラを入れてたんだ。そしたら友達が「お前ら、バイアグラ・ボーイズって名前にしろよ」って言ってきて、俺は「ああ、それいいアイデアだな!」ってなった。だから友達の提案なんだよ。

―「Sports」に関しては?

セバスチャン:「Sports」に関して言えば、まあ潜在的には男の有害な部分みたいなものをいじってるのかもしれない。でもそれは後から人に言われて気づいた感じで、最初から意識してたわけじゃない。最初にそういう解釈をしたのはジャーナリストの方なんだよ。で、俺はそれが知的に聞こえるから「そうそう、そういう意味だよ」って合わせた(笑)。でも俺にとってはただのバカみたいな歌詞だったんだ。ただ俺はバカみたいなものが大好きなんだよ。最初はジョークで作ったんだ。で、何年か経って振り返ると「これ意外と賢かったのかも」ってなる(笑)。でも俺は曲を書くときに「よし、社会が抱える男性像を解体する歌を書こう」とか、一切考えない。その時に頭の中にあることを書くだけなんだ。で、あとからそこに意味が生まれることがあるっていう。それは確かにあるよね。

―では、違う訊き方をしますね。バイアグラ・ボーイズはそのサウンドも見た目も、一見、とてもマッチョな印象を与えますよね。僕は基本的にマッチョ過ぎる音楽は苦手なんです。でも、バイアグラ・ボーイズは大好きなんですよ。

セバスチャン:うん。

―で、そこから翻って考えるに、あなたたちの中には有害な男性性に対する自己批判や自己反省みたいなものがあるんじゃないか?っていうのが僕の見立てなんです。つまり、海外のジャーナリストが指摘しているような、バイアグラ・ボーイズは自分たち以外の男性の有害性を批評しているという話ではなく、その批判の矛先は自分自身にも向いているんじゃないかっていう。

セバスチャン:そうだね。俺たちは自分たちのことをちゃんと疑うし、問い直しているよ。それに、俺たちは全員すごく繊細なタイプなんだ、わかるだろ?(笑)外見とは違ってさ。で、そのあたりには政治的な部分も関係してると思う。俺たちはフェミニストだし、平等を信じてるし、それが大事だと思ってる。男がちゃんと話すことも重要だと思ってるし、実際、見た目よりずっと進歩的な連中なんだよ(笑)。

―ええ、ちゃんとわかってます(笑)。

セバスチャン:それに、俺らは自分の人生の中にいる女性たちとすごく近い関係にあるんだ。メンバーには子どもがいる奴もいるし、そういう経験を通しても考え方は変わってくると思う。で、やっぱり政治的な考え方も大きい。俺たちはめちゃくちゃ左寄りだし、世界を動かしてる男たちには本当に吐き気がする。世界を壊してる連中の大半は男だろ? そういうのが本当に嫌なんだよ。で、自分自身のことも嫌いだし、周りの人間のことも嫌いだし、でも同時にみんなのことを愛してる。結局は、自分を問い直して、より良い人間になろうとすることだと思う。少しでも自分のことが嫌いなら、何とかしたいって思うし、より良い人間になろうとするし、共感力を持とうとする。今の社会では共感力ってすごく大事だと思うんだ。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

写真はベーシストのヘンリク・ヘッケルト。初来日公演ではセバスチャンがMCで「フリー・イラン、フリー・パレスチナ、ファック・ドナルド・トランプ」と叫ぶ一幕もあった(Photo by Kazumichi Kokei)

「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

―では、時間も少なくなってきたので、幾つかランダムに訊かせてください。あなたが語る音楽的影響の中で一番意外に感じられるのがゴリラズです。彼らのどんなところに影響を受けていると思いますか?

セバスチャン:さっきも話した自由さだと思う。ジャンルを混ぜまくる感じ。パンクをやった次にヒップホップをやったりできる。まあ、俺たちがヒップホップをやることはないだろうけど(笑)。でも、あの自由さが好きなんだよ。で、彼らはどんな音楽をやってもちゃんとかっこよくなる。全然ダサくならない。実験的なことをやってるのにウザくならずに成立してる。そこが最高なんだ。

―あなたの歌詞は社会風刺的で、ユーモアがあって、ストーリー仕立てのものが多いですが、その書き方に影響を与えたアーティストはいますか?

セバスチャン:歌詞的にすごく影響を受けたバンドが2つあって。ひとつはブラック・ユーモアっていうバンドなんだ。80年代のバンドで、たぶんアルバムは1枚しか出してない。Spotifyにあるけど再生数1000いってないくらい。『Burn the Welcome Mat』っていうアルバムなんだけど、あれは俺の人生を変えた。で、もうひとつはディックス。彼らの「Dicks Hate the Police」って曲を初めて聴いたときは、マジで人生が変わったね。歌詞が本当に最高なんだ。俺が24歳くらいのときに、ベーシストのベンケがその曲を聴かせてきて。で、俺は「うおっ!」ってなった。ベンケは、俺の歌い方に似てるって思ったらしい。

―なるほど、チェックしてみますね。

セバスチャン:あと、もちろんDEVOは大好きだし、カントリーはストーリーテリングがすごく上手いんだよね。ちゃんと始まりと終わりがあるし、そこに教訓みたいなものがあって流れを追える感じだから、「次のヴァースで何が起きるんだろう?」って思わせてくれる。それから、一人好きな作家がいて、ドナルド・レイ・ポロックっていうんだけど、彼の『Knockemstiff』って作品は本当に好きで、かなり最近インスパイアされたね。すごく良い作品だった。それからニコ・ウォーカーの『チェリー』も俺に大きな影響を与えた。文体がめちゃくちゃいいんだ。ビートニクのウィリアム・バロウズも好きだね。で、あとは面白いもの全般。コメディアンにも影響されてるんだ。昔のコメディを聴くのがめちゃくちゃ好きなんだよ。とにかく俺は物覚えが本当に悪いから、今パッと名前が出てこないけど(笑)。

―今回のデラックス盤のボーナストラックは、いつ作られた曲ですか? アルバムと同時期?

セバスチャン:いや、全部違う時期に作られたものだよ。例えば「Cumboy」は、『Cave World』のB面用に作った曲なんだ。だから、あれは数年前のもの。「なんで出してなかったんだ?」って自分でも思ったくらい好きな曲だよ。「Middleage(d) Humanoid」は『Viagr Aboys』に入る予定だったんだけど、カットされてた曲だね。

―ボーナストラックのうち「Therapy II」「Middleage(d) Humanoid」「Watching You」は、どれも主人公が強迫観念に捉われていて、ほとんどパラノイア状態の曲ですよね。社会風刺より内面性が強調されているという点では、『Viagr Aboys』とはまた違う、新しいモードの曲かと思ったのですが、そういうわけではないと。

セバスチャン:いやでも、まさにそれ、パラノイアだよね。あれは全部バラバラの時期の曲だけど、俺はいつでもパラノイアだからさ(笑)。

―なるほど(笑)。あなたは前回のインタビューで、「Man Made of Meat」の〈俺は目に映るものほぼすべてが嫌いだ/ただ消え去ってしまいたい〉というラインは、「いまのめちゃくちゃな世界を見ていると消え去ってしまいたい気分になるときがある」という気持ちを歌っていると言っていましたよね。ただ現在は、アルバムを出した時よりもさらに世界は混沌として酷くなっています。そのような状況下で音楽家には何が出来るのだろうと考えることはありますか?

セバスチャン: 最近アメリカのことをすごく考えてるんだけど、本当に頭に来るし、気持ち悪くて泣きたくなる。スマホを見るたびに「なんなんだよ、この世界!」って気持ちになるんだ。で、「もう二度とアメリカなんかで演奏するかよ」と思う瞬間もある。「あんな国なんかボイコットしたい!」ってね。でも同時に、その国にも自分たちと同じ気持ちを抱えてる人たちがいるってことも分かってる。そういう人たちのところに行って、彼らを励まして、ひとりじゃないって伝えることが大事なんだ。音楽ってそういうものだと思う。人に「自分はひとりじゃない」と感じさせるものなんだよ。

―その通りだと思います。

セバスチャン:少なくとも俺にとってはそうだった。子どもの頃、学校でいじめられて、自分はウィアード、変な奴なんだと思っていたとき、音楽が「他にも変な奴はいるんだ」と教えてくれたんだよ。だから、演奏を続けるのはめちゃくちゃ大事だと思う。必ずしも現実に起きていることをそのまま歌詞にする必要はなくて、ただ感情を呼び起こすだけでも十分に重要なんだ。だって、音楽は人をインスパイアできるし、音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある。だからこそすごく大事なんだよ。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」

Photo by Kazumichi Kokei

―素晴らしい答えだと思います。では最後に、次のアルバムについて既に何か考えていることがあれば教えてください。

セバスチャン:できるだけ早く作り始めたいと思ってるよ。今はどのプロデューサーとやるかってところを考えてて、いろんな人と会ったりしてるところ。でも確実にいくつか計画はあるんだ。

―具体的にこんなものを作りたいというアイデアは、ぼんやりとでもあったりしますか?

セバスチャン:いや、まだ特にないかな。ただ、とにかく良いものにしたいっていうだけ。で、たぶん今よりさらに自由度を上げたいと思ってる。それからもっとヘヴィな要素も入れたい。クラストパンクっぽい感じとか、DB(※ディスチャージが確立したハードコアパンクのサブジャンル)みたいな感じ。短い曲を長い曲の間に挟んだりとかね。最近はディスチャージとかアンチ・サイメックスとか、そういうバンドが本当に好きなんだ。でも今の俺たちの音ってもっとポップ寄りだから、それを混ぜ込むのは難しい。でも全部まとめて混ぜて、誰もやってないものを作りたい。そういう感じかな。うまくいけば、だけどね。

Viagra Boysがバイアグラを名乗る理由、「変な奴」を祝福するロック「音楽は俺を泣かせるし、感情を揺さぶる力がある」


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Photo by Kazumichi Kokei

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