ツアーの合間に制作を進め、じっくり時間をかけて練り上げたという『Wormslayer』は、ライブで見せるスポンテニアスな要素も反映され、多彩さを増している点が前作とは対照的。フォークからメタルまでありとあらゆる要素が混ざり合う万華鏡のごときサイケデリック・サウンドに圧倒される。組曲風のタイトル曲も含む野心作が生まれた背景について、フロントマンのクリスピアン・ミルズにじっくり語ってもらった。
メタルへの関心「僕はギター崇拝者だった」
ー前作『Natural Magick』は全英22位、日本のアルバムチャートでもトップ50にランクインしました。何が勝因だったと思いますか?
クリスピアン:あのアルバムは新しい始まりみたいな気分だったね。バンドにジェイ(・ダーリントン)が戻ってきて、レコーディングをすることにしたのも、アルバムをこれからも毎年出し続けようと決めたのも早かった。だからレコーディングするのも、演奏するのも、リリースするのもワクワクしたんだ。新鮮なエネルギーが満ちているような気がしたし、聴いてくれた人たちも好意的に受け取っていた気がする。『Wormslayer』でもその勢いが続いていて、ライブの回数も増えている。ジェイのキャラ立ち具合が、バンドの中で鮮やかに蘇っているんだ。そんな訳で、アルバムの中でも、遊び心や自然発生的な演奏が増えているよ。
ー昨年の来日公演も圧倒的な内容でした。『Natural Magick』ツアー全体を振り返った感想は? そこからどのようにして『Wormslayer』の制作に入っていったんでしょうか。
クリスピアン:日本に行ってプレイすることは、僕たちにとっていつもエキサイティングなことなんだ。オーディエンスにいつもとても感謝しているよ。みんなが観に来てくれると「忘れられない夜にしなくちゃ」と思うんだ(笑)。このバンドはいつだって命がけでプレイしている。今回が最後かもしれないという気持ちで、正念場だと思ってね。ライブでの興奮が、どんどん曲を書くことに繋がっていった。
そんな訳で新作ができたのは結構早かったんだ。後は時間を見つけてレコーディングするだけの問題だった。最初にレコーディングしたのは確か「The Winged Boy」だったかな。
クリスピアン・ミルズ(Photo by Mitch Ikeda)
ーちなみにタイトル曲「Wormslayer」はどのように生まれましたか? あのように組曲を思わせる展開の、7分を超える大曲になった経緯を教えてください。
クリスピアン:あの曲が生まれたのは、僕が(ギターの)E弦をDにチューンダウンしたことがきっかけだったんだ。それで、アロンザ(・ベヴァン)とすごくヘヴィなリフで遊んでいた。ジョークで、『Peasants, Pigs & Astronauts』に入っている「Timeworm」という曲をプレイしてさ。あれはアンビエントなフォーク・ソングで、サイケデリックな夢みたいな感じの物語があるんだけど、その曲をお遊びでプレイしていたんだ。そうしているうちに、そのリフに何かしら……パワーがあることに気付いた(笑)。それで、そのリフを中心に曲を組み立て始めたんだ。
ー「Wormslayer」で印象に残る重厚なギターリフは、これまでのクーラ・シェイカーのイメージからすると少し意外でした。ああいうヘヴィなロック、ヘヴィ・メタルとかもルーツにあるんでしょうか?
クリスピアン:僕はギター崇拝者だったからね(笑)。音楽を始めたのもギタリストとしてで、シンガーとしてでも、ソングライターとしてでもなかった。ただただ素晴らしいシュレッダー(速弾きの人)になるのが夢だったんだ。結局シュレッダーにはなれずじまいだったけど、リッチー・ブラックモアに夢中になった。メタルも一時期聴いていたよ。あれもギターの弾き方を覚える過程のひとつだからね。メタリカとか……あとはパンク、スケート・ロックも聴いていたけど、だんだんソングライティングや歌の方にフォーカスするようになったんだ。
うちの子たちにギターを教えるようになって……あれは10年くらい前、いやもっと最近、6年くらい前だったかな? そうしてようやく、すごいギタリストになりたかった若い頃を思い出した。それがソングライティングに影響していったんだ。そんなこともあって、バンドの中での僕のアプローチも、ギターを前面に出すことが増えてきたような気がするね。
ーあのリフを聴いた時、珍しくメタリカみたいだなと思うのと同時に、ウィッシュボーン・アッシュのようなブリティッシュ・ハード・ロックの古典も思い出しました。
クリスピアン:みんなおおもとは同じだからね。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、メタリカ、ブラック・サバス、ウィッシュボーン・アッシュ……誰もが掘り下げたくなるエネルギーがある。それを自分に合った形で表現する道を、自ら見出さないといけないんだ。
母と祖母の物語が与えた影響
ー「Wormslayer」ほど長くはないですが、「Shaunie」という曲も組曲のような構成になっています。あの曲はどのように生まれたんですか?
クリスピアン:僕は、祖母(女優兼作家のメアリー・ヘイリー・ベル)が語ってくれた物語にとても影響を受けているんだ。祖母は脚本家であり作家でもあって、翼の生えた小さな男の子が主人公の、『The Winged Boy』というゴシック小説仕立ての素晴らしいおとぎ話を書いていた。僕はそれを映画化しようとして何年も取り組んでいたんだ。でも、結局その映画はハリウッドというダンジョンに引っかかってしまってね。実生活がアートを模倣してしまったというか……物語の中でもその男の子が罠に引っかかってしまうんだけど、『The Winged Boy』(翼の生えた少年)も同じように、ハリウッドのスタジオの悪いディールに引っかかってしまった。
それで、そういうしがらみから自由になるために、曲を書くという形をとってそのストーリーを伝えたんだ。
ー先にビデオが公開された「Charge Of The Light Brigade」は、ヴァンパイアに扮したメンバーの演技が楽しそうで笑いました。皆さん、まんざらでもなさそうでしたね。
クリスピアン:そうだね。僕たちがキッズだった頃は、MVが今よりずっと重要な役割を担っていた。
ー「Broke As Folk」もビデオが公開されましたが、とんでもなくスケールが大きい、ほとんど短編映画のような内容でしたね。さすがにCGを使った部分もあると思うのですが、あれはどこで撮影したんですか?
クリスピアン:あれは古い映像と、ここコーンウォールで撮った映像をミックスしているんだ。コーンウォールの端っこの端っこの端っこ。ペンザンス(Penzance)やランズエンド(Lands End)に近いよ。あとセネン(Sennen)とか、有名なビーチがたくさんあるんだ。海岸線がとてもドラマティックで、宝島があるとか、色々伝統的な言い伝えがある場所なんだ。それから旧ソ連時代の映画からも少し使った。すごく壮大に見えるしね。それにMVを作るときというのは、曲に新しい命を吹き込みたいと思うものなんだ。イメージの邪魔をするんじゃなくてね。曲に命を吹き込みたいと思った。僕はコスプレ姿で山を登ったよ。あとスペインのガレオン船が海岸沿いを航行している素晴らしい映像も使った。だけどコメント欄を見たら「AIじゃないか」って勘違いしている人が多かったんだよね(苦笑)。
ー迫力がありすぎて、本当にAI生成じゃないかと思いましたよ。
クリスピアン:いや、実写だよ、実写。と言う訳で次のMV「Good Money」を作るときは、逆にAIを使ってしまえということになったんだ(笑)。みんなを混乱させて、実写を見ているみたいな気分にさせようってね。
ーそう、その「Good Money」のMVについても訊きたかったんです。前回取材した時、ザ・ビートルズの新曲「Now And Then」について、AIを使った音楽作りには抵抗があるとあなたが言ってたんですが。「Good Money」のビデオはAIを駆使して作ったらしいですね。映像においては、AIの有益な活用方法を見つけられた?
クリスピアン:思うに、AIの誇大広告的な要素を分けて考えて、その本質をきちんと見れば、みんな間違った心配をしているってことがわかるんじゃないかな。みんなAIに対する心配の矛先が間違っている。例えば……「AIが意識を持つようになってしまうんじゃないか」とかさ。これはナンセンスな妄想で、現実には絶対にならない。SF的なナンセンスだよ。あと、AIが音楽や映画や書き物に取って代わるんじゃないかという心配もナンセンスだね。AIは単にネタのリサイクルや拝借をしているだけなんだから、フレッシュで自然発生的に生まれたものと同等の満足感を与えてくれる訳がない。誰に対してもね。AIを使うにはやっぱり職人が必要だし、ライター(書き手)が必要だし、フォトグラファーもサウンド・デザイナーも必要だ。AIはいずれ映画やアートで独自の居場所を見いだすことになるだろう。人々がツールとして使うからね。でも大半はショートカット(のツール)なんだ。
AIの大きな脅威は、それが社会構造に何を及ぼすかというところにある。社会をコンピューター監視国家にしてしまうかもしれないしね。何もかもが非人格化されてさ。そうなるとみんな人じゃなくて単なるデータになってしまう。もはや人間じゃなくなってしまうんだ。そうすると国家が個人のカネを盗めるようになって、その人を家に閉じ込めてしまう。……「電源を切りなさい」と言われたりして、スケジュールがまったくバグってしまうんだ。そうなったら恐ろしいから、みんな抵抗して闘わないといけないよね。それはスピリチュアルな戦争なんだ。……でも、AIがロック・バンドに取って代わるのでは、という心配はしていないよ(笑)。そこは一番心配していないところだ。
ー話を「Broke As Folk」に戻しますが、あの曲には「ネズミのために働いていた母」のラインが出てきますね。あれはお母さん(女優のヘイリー・ミルズ)から子役時代の話を聞いたことがヒントになっていますか?
クリスピアン:僕の母は、子役女優として素晴らしいキャリアを持っていたんだ。特にアメリカではディズニーの大スターだった。ディズニー映画が公開されていた地域では世界中のどこでも有名だったけど、特にアメリカでは有名だったね。で、21歳まで契約していた。アカデミー賞も獲ったし映画もヒットしていたんだけど、21歳になったときにイギリスのタックスマン(徴税人)が母のトラスト(信託勘定)を狙って攻撃してきた。母がそれまで稼いできて手付かずになっていたお金の94%を徴収されてしまったんだ。
ー94%……。
クリスピアン:……と言うのが、わが家に伝わるホラー・ストーリーなんだ。それがどれほどひどいことなのか、数年前に母が子供時代の回顧録を書くのを手伝うまで、僕は気づいていなかった(2021年刊行の『Forever Young: A Memoir』)。その時、ようやく理解したんだ。その本はニューヨーク・タイムズのベストセラー・チャートに入ったよ。とてもいい結果になったし、僕もファミリー・ヒストリーの一部をよりよく理解することができた。
でも、それって子供からお金を盗むようなものだよね。それから子役の歴史や、彼らに対する扱いについて話し合った。スタジオや、時には実の両親から搾取されてしまうことについてね。そんな虐待的なことがまかり通っているんだよ……(苦笑)。うちの母はいつだって温かい心の持ち主だから、そのせいで辛辣になったことはなかったけど、母がその状況を受け容れたのはすごいことだと思ったよ。”あれはただの大惨事にすぎない、克服して次に進まなくちゃ”って割り切ってね。
そういう金銭的なトラブルが、うちのファミリー・ストーリーの一部になっている。「Broke As Folk」というのは財政的に厳しい状態になることだけを言っているんじゃなくて、古いやり方が壊れてしまった(broken)のを知ることでもあるんだ。もう後戻りはできないから、今の自分の立ち位置にいながら価値のあるものを見いだして、いい未来を作っていかないといけない。パーソナルな意味では、母はそうするために最大限の努力を払ったと僕は思っているよ。
ーその「Broke As Folk」が、ドアーズへのオマージュが詰まった曲になったのは、何か理由が?
クリスピアン:ああ、それは単に……僕たちが「Jerry Was There」をプレイしていたところから来ているんだ。ショウの最中にね。インプロヴィゼーションが続いて、曲が変な方向に行くことが時々ある。その時はだんだんドアーズみたいな音になっていった。ショウの後、みんなで「あれは良かったよな。あのグルーヴをレコーディングしてみようじゃないか」なんて話になったよ。
ドアーズはプエルトリコのソウル・ミュージックからヒントを得て、ああいうものを作り出していった。既に世の中にあるものから拝借していたんだ。そんな風にできる人はそれほど多くないけど、僕たちにはできた。きっとみんなにも楽しんでもらえると思ったよ。僕たち自身が聴いていていいなと思ったら……ほら、僕もジェイのああいうプレイを聴くのが好きだしさ。そうやって僕たち全員がワクワクするものをレコーディングすることになったんだ。
「変化の時代」が与えた影響、マニの記憶
ーアルバムの最後が、「Dust Beneath Our Feet」で終わる構成も気に入っています。この曲はどのようにして生まれたんですか?
クリスピアン:「Wormslayer」がアルバムのエンディングとしては自然な気がするけど、僕たちはアルバム制作の終盤になっても、ずっとレコーディングしているんだよね。いつも少しだけ余分にレコーディングして、自分たち自身を驚かせることができるか試しているんだ。で、「Dust Beneath Our Feet」は最後にレコーディングした曲だった。ストーリーに対するすてきなエピローグみたいなものになると思ってね。昔の人の言葉で「ひとつの物語の終わりは新しい物語の始まりである」みたいなのもあるし。歌詞がW.B.イエイツという詩人に由来しているのも気に入っているんだ。「Let us go forth you tellers of tales (物語の語り手たちよ 前に進もうじゃないか)」というフレーズがあってね。(訳注:『ケルトの薄明』の中の一篇、「話の語り手」より)。新しい旅の始まりみたいな肯定的な感じで、気に入っているよ。
ー前作との大きな違いは、曲によってプログレッシヴな要素がかなり入っていることだと思います。制作している間よく聴いていた他人の曲や、レコードは何かありました?
クリスピアン:僕たちは1枚たりともレコードを聴いていなかったんだ。アルバムのインスピレーションは、生身の世界で起こっていたことだった。曲を書いて、タイトなアレンジに集中して、本当の意味で音楽的なフックができるように……とやっていたけど、同時にそこから遊び心を持っていろんな領域を探索もする。そうやって、パフォーマンスに向けて生身のレイヤーをまたひとつ重ねるんだ。『Wormslayer』でみんなが耳にしているのは、そういった生身の要素なんだよ。サイケデリックな冒険……オリジナルのラインナップで、サイケデリックな冒険をさらに先に進めているということだね。
ーちなみに、2025年中に発見した面白い曲や映画で、何か思い当たるものがあったら挙げてみてもらえますか?
クリスピアン:そうだなあ……(しばし考える)……いや、ないね。……ただ、サイケデリック・シーンが再浮上しつつあることには気づいていたよ。それが僕たちに影響を与えていたのは確かだね。自分たちはサイケデリックなバンドだってずっと思ってきたし、それが顕著だった時期もあった。
このアルバムが受けた最大の影響は、今僕たちがいるこの時代だと思う。今の僕たちは大きな変化の節目に来ていると思うんだよね。音楽の共有の仕方、聴き方、プレイの仕方、それから人々が未来に求めているもの……どんな世界に将来棲みたいのか、選択肢が与えられている気がする。それが、このアルバムが受けた最大の影響だね。
音楽をプレイする側としてもワクワクする時代だよ。何しろ世界がエキサイティングな場所だからね。恐ろしいことだらけだけど、人々のスピリチュアルな意識が高くなってきているし、目覚めてきている。大きなムーヴメントが起こっている気がするよ。クーラ・シェイカーがキッズの時に歌っていたことの多くが、今はメインストリームになりつつある。テレビに出ているという意味じゃないよ。メインストリームの、集合体としての考え方。みんなそれぞれ独自の考え方を展開させながら、お互いそれについて語り合っているんだ。それにはスピリチュアルな切り口や願望があると思う。そんな訳で、クーラ・シェイカーは、まだまだ自分たちの時代だって思っているんだ。
ー最後にもうひとつだけ訊きたいことがあります。クーラ・シェイカーはストーン・ローゼスと同じジョン・レッキーのプロデュースでデビューしたバンドですが……先日ストーン・ローゼスのマニが亡くなってしまいましたよね。マニと会話を交わしたり、交流したりする機会は過去にあったのでしょうか。
クリスピアン:彼とは1回会ったことがある。エキセントリックないい人という印象だったよ。アロンザとジェイはもっと付き合いがあって、アロンザがジョニー・マーと一緒にやっていた頃はもちろんマンチェスターに居たから、そこでマニと会っていたみたいだよ。ジェイも同じくマンチェスターのバンド、オアシスをサポートしていたことがあるしね。マニについては、いい噂しか聞かないよ。彼も結構スピリチュアルな人で、ストリート・ライフにゆかりが深かったけど、人生のそっち方面の大切さを解っている人だった。
ストーン・ローゼスがブリット・ポップに絶大な影響を与えていたことは間違いないね。その影響はニルヴァーナよりも大きかったと思う。レトロなレコード・コレクション(の影響)を若い世代に波及させた人たちだった。それとギターサウンドやダンス・ミュージック、サイケデリック・ミュージックを組み合わせていたんだ。だから僕たちにとってもみんなにとっても、とても重要なバンドだったよ。
マニも……それから、オジー・オズボーンも逝ってしまって寂しいよ。世界は大きく変わってしまった。彼らは”モヒカン族の最後の生き残り”(ジェイムズ・フェニモア・クーパーの小説『モヒカン族の最後』にかけている)だったんだ。
クーラ・シェイカー
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