1.『Tranquilizer』は、間違いなくライブ映えする
昨年末にリリースされた、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの最新作『Tranquilizer』については、リリースの際に寄稿したレビューも改めてチェックしていただきたいが、これは間違いなくライブで活きる音楽だ。
『Tranquilizer』では、過去3作にあったオーケストレーションやポップスの要素は後退し、初期の荒涼としたヴェイパーウェイヴ/エレクトロニカに回帰し、ランダムネスに溢れている。まずこれがライブパフォーマンスへの期待が高まるポイントだ。アルバム前半の「Bumpy」や「Life World」で聴ける、『Replica』期に通じるリフレインの快楽。中盤の「Fear Of Symmetry」や「Cherry Blue」でのグリッチ&アンビエントで満たされるアトモスフィア。「D.I.S.」や「Rodi Glide」のようなIDMサウンドがもたらすダンスへの訴求が散りばめられた後半。アルバムの構造として完璧なのだから、トラックリスト通りに演奏されたとしてもきっと満足できるだろうし、過去の楽曲、特に初期のものと最新作がどのように接続されるかも非常に楽しみである。
OPNのライブでは、壁のように分厚いシンセサウンドとノイズ、こちらを張り倒すかのように強烈なビート、延髄にまで届くロー・レンジのダイナミクス、これらがマッシブな音響で出力される。つまりは、ベニューのスケールと音響によって大きく左右されるわけだが、東京公演のZepp DiverCity (TOKYO)は会場の規模感や音響設備に定評があり、間違いなく素晴らしい音楽体験となるはずだ。一方の大阪公演に使われるGorilla Hallは、関西で最高峰のベニューと言って差し支えないだろう。出音はクリアでバランスも良く、尚且つ全帯域のダイナミクスが圧巻。
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2.ライブ感の増幅が予想されるパフォーマンス
今回のツアーでは、音楽面で即興性の伸びしろがある『Tranquilizer』を踏まえ、機材面でも即興性が増すことが予想される。
前作『Again』ツアーでは、DAWソフトのAbleton Liveを軸に、CME Bitstream 3Xというロパティンが長年愛用し続けるMIDIコントローラー(過去にオウテカ等も使用)と、MIDIキーボードというシンプルなセッティングで、基本的にプログラムされたものを演奏するパフォーマンスであった。私も実際にそのパフォーマンスを鑑賞したが、新旧の楽曲が入り乱れるセットリストで素晴らしい内容ではあったが、演奏面に関してはやや平坦で、予定調和な印象も否めなかった。
最新ツアーにおける彼の手元を見ると、その点で大きなアップデートが施されているようだ。
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前回ツアーのセッティングに加え、定番サンプラーのRoland SP-404と、KORG KAOSS Replayが備えられている。SP-404はリフレインの多い今作ではグルーヴを作る軸となるだろう。KAOSS Replayは、パッドを指で上下左右になぞり、音を変化させるエフェクターで、シームレスでなだらかな変化をさせることもできれば、急激な変化を加えることもできるもの。有名な使用例で言うと、レディオヘッドが「Everything in Its Right Place」をライブで披露する際、トム・ヨークの声をグニャグニャと変化させている機材だ。ジョニー・グリーンウッドがヨークの声をリアルタイムでいじくる様子を見ていただければ、どういうものか分かりやすいかと思う。
ちなみに、KORG KAOSS Replayといえば、後継モデルのKAOSS PAD Vも発表されたばかり。もしこれが導入されるのであれば、よりアクロバティックなパフォーマンスが期待できる。
3.フリーカ・テットのヴィジュアル・ショック
前回の来日公演を含む『Again』ツアーで、マリオネットを駆使したVJも話題となったフリーカ・テットの映像演出。今回はさらにパワーアップしたものが期待できそうだ。
彼はOPNとのツアー以降、アムニジア・スキャナーとのコラボアルバム『HOAX』を〈PAN〉からリリース。ミュージシャンとしての蓄積が増えただけでなく、自身のパフォーマンスにおいても、(『Again』ツアーでも印象的だった)ギャスパー・ノエを想起させる、激しい点滅によるアシッドな演出が先鋭化している。
さらにその後、ザ・ウィークエンドとアニッタのコラボ曲「São Paulo」のMVもディレクションしているが、点滅とライティング、造形物での演出が推し出され、世界的なポップスターとの仕事でも、彼ならではのグロテスクでアンビバレントな表現を抑制することはない。
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昨年末のOPNスペイン公演での写真を見ると、何やら新たなマリオネットと、PS5のコントローラーらしきものを用いているようだ。コントローラーを用いてリアルタイムで操作する映像演出は、手法そのものは珍しくなくなってきたが、フリーカ・テットがやるとなれば、未知なる映像体験を期待せざるを得ない。上述したロパティンの即興性と同期したパフォーマンスにも期待したいところだ。
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4.『マーティ・シュプリーム』旋風の最中
今年、日本で公開される映画において、間違いなく最高の一本となるのが『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。今年の第98回アカデミー賞でも、作品賞の受賞こそ逃したものの、本命の『ワン・バトル・アフター・アナザー』に対抗しうる内容と評判は上々だ。
そんな作品の音楽を手掛けているのが、OPNことダニエル・ロパティン。アカデミー賞で作曲賞のノミネートにすら漏れたのは納得がいかないが、個人的には革新的なことをやってのけた映画音楽だったと思う。この劇伴と『Tranquilizer』は同時期に制作されたとロパティンは語っており、『マーティ・シュプリーム』のラストシーンを観た後に『Tranquilizer』を聴くと、開始から1分半で、2つが姉妹作であると分かるはずだ。
『マーティ・シュプリーム』の舞台が50年代なのにも関わらず、心象表現に用いられるのは80年代のポップミュージックで、舞台が東京に移ったりもする複雑な設計。監督のジョシュ・サフディの思想として、主人公のマーティが孫娘と80年代にティアーズ・フォー・フィアーズのライブを観ながら、自身の人生を振り返るという設定があってのことなのだが、ロパティンの音楽が楔となって、それら全てが接続されている。
下掲したプレイリストの後半では、サフディがインスパイア元の音楽をセレクトしているが、そこに細野晴臣や高橋邦之、オノセイゲン、ムクワジュ・アンサンブルといった日本の80年代ニューエイジ音楽が含まれているように、サフディはニューエイジというタイムレスな精神性によって、時代のギャップを埋める狙いがあったように思う。そして、それを実現するためには、ロパティン以上の適任者はいない。生前の坂本龍一と交流し、前作『アンカット・ダイヤモンド』の劇伴では冨田勲を最大のインスピレーション源に挙げるなど、ロパティンは日本の電子音楽に対する愛が深く、今回の劇伴でもそれは表現されている。
そもそもサウンドトラックである以前に、どれもが独立した楽曲としての魅力が強いので、特に日本の場面で用いられた楽曲が今回のセットリストに入ってくる可能性はゼロではないはず。
しかも今回の来日ツアーでは、『マーティ・シュプリーム』サントラにも参加した、ニューエイジ音楽の神ララージがスペシャルゲストとして出演する。ちょうど日本公開が始まった直後という理想的なタイミングでの公演だけに、劇中映像をバックにしての共演というのもありえるかもしれない。どうなるかは見てのお楽しみだ。
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ララージ
5.伝道者となったダニエル・ロパティン
ヴェイパーウェイヴの原点となった『Eccojams』の頃から数えると、すでに20年近いキャリアを歩み、43歳となったダニエル・ロパティン。個人の音楽家としての評価を確立し、スター歌手をプロデュースし、映画音楽家としても大成するなど、ひとしきりのことはやり遂げたと言えるだろう。
そんなロパティンは最近、School Of Songというオンラインのソングライティングセミナーの講師として、自身が培ったノウハウを後進に伝えている。元々、インタビューでも一を問えば百を返すような、フレンドリーでサービス精神を持った人物であるが、近年は言及を避けていたヴェイパーウェイヴについても最近の取材では再び語るようになっていたりと、『Tranquilizer』の内容も相まって、自らを顧みるタームにいることがうかがえる。
これほどまでに「仕上がった」OPNを体感できる機会はもう二度と訪れないかもしれない。この稀有なチャンスを、ぜひとも逃さないでほしい。
Oneohtrix Point Never
live visuals by Freeka Tet
special guest: Laraaji
2026年4月1日(水)大阪Gorilla Hall
2026年4月2日(木)東京・Zepp DiverCity
open 18:00 / start 19:00
前売:8,800円(税込 / 別途ドリンク代)※未就学児童入場不可
公演詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15467
ダニエル・ロパティン
『Marty Supreme (Original Soundtrack)』
発売中
購入特典:『マーティ・シュプリーム』オリジナル・ピンポン玉
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15596
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
3月13日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
出演:ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリ―、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター)
監督・脚本:ジョシュ・サフディ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2025年/アメリカ/英語/149分/原題:Marty Supreme/レイティング:G
©2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://happinet-phantom.com/martysupreme/


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