「POP YOURS」は、毎年ラインナップそのものによって日本のヒップホップの今を語ってきた。3日間開催へとスケールアップする2026年、その中心にいるのがLANA、千葉雄喜、KEIJU、STUTS Orchestra、Tohji、PUNPEEだ。
いま最も鮮やかにポップを更新する存在、世界へ届く日本語ラップ、成熟を体現するムード、プロデューサーの拡張された存在感、標準となったオルタナティブ、そして歴史を現在へつなぐ翻訳者たち。開催を前に、この6組が意味するものから「POP YOURS 2026」の輪郭をひもとく。

【写真】ヘッドライナー&スペシャルゲスト

DAY1
Headliner:LANA 
Special Live:STUTS Orchestra

LANA──LANAが乗った瞬間にポップが生まれる

LANAがヘッドライナーを務める必然は、彼女がいま最も鮮やかにヒップホップのノリをポップミュージックへと接続している存在だからだ。ラッパーなのか、シンガーなのかという問いを軽やかに横断し、ときに演歌やブルースを思わせる切なさをもにじませる。ビートの選択肢がきわめて豊かで、どのようなサウンドにも自然に乗りこなせる柔軟さを持つ点も大きい。ポップスのフォーマットに合わせるのではなく、LANAが乗った瞬間にその楽曲がポップとして立ち上がる――そんな現象を生み出している、稀有な存在だ。また、その資質はライブでさらに拡張される。ラップのスキルとメロディの強度が高い水準で融合した楽曲は、ステージに立つとダンスや演出を含むショーとして再構築され、より大きなスケールへと変わる。コーチェラをはじめとする海外フェスを想起させるステージングと、日本独自のギャル的感性がハイブリッドに混ざり合い、視覚と聴覚の両面から観客の感性を揺さぶる。ヒップホップというカルチャーを軸にしながら、ストリートの物語だけでなく、自己表現の自由や身体性の解放と結びつけ、ポップへと昇華していく。昨年は武道館単独公演とアリーナツアーを成功させ、ストリートのリアリティとポップの華やかさを同時に体現した。そんなLANAがヘッドライナーを務めること自体、ヒップホップの表現領域が大きく広がっていることを象徴している。


STUTS Orchestra──ビートメイクの可視化

STUTSの歩みは、そのまま2020年代のヒップホップにおけるプロデューサー像の更新と重なっている。2020年、Shibuya WWW Xから始まった自主企画「90 Degrees」は、やがて日本武道館公演へと到達。その後もバンド編成やオーケストラ形式など、さまざまな形でビートを拡張し続けてきた。サンプラーを起点にしながら、演奏家たちとともに音楽を立体化させる姿勢は、ヒップホップの可能性を静かに押し広げている。2021年にはドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』主題歌「Presence」を発表し、お茶の間レベルでのヒットを記録。以降も数々のドラマ音楽を手がけ、ヒップホップの感性をポップカルチャーの中心へと自然に浸透させてきた。また、ZOT on the WAVEとのプロデューサーユニット「STUTS on the WAVE」としてアルバムをリリースし、ワンマンライブも成功させている。トラックメイカーが前面に立つことへの矜持と、その存在感をシーン全体に認知させる手腕は特筆に値する。今回のスペシャルアクト「STUTS Orchestra」は、ヒップホップの土台であるビートメイクを大編成で提示する試みだ。サンプラーを操るプロデューサーが、多数の演奏者をバックに音を鳴らす光景は、ヒップホップがいかに多層的な音楽であるかを可視化する。STUTS Orchestraが示すのは、ヒップホップはラップとビートの相互作用によって成立するという、根本的で豊かな構造だ。フェスの音楽的支柱として、単なる客演やサポートを超えた存在感を放つ佇まいこそが、いまのシーンにおけるプロデューサーの地位を雄弁に物語っている。


DAY2
Headliner:千葉雄喜 
Special Act:Tohji

千葉雄喜──日本語ラップが、世界語になる日

千葉雄喜がヘッドライナーに名を連ねる意味は、日本語ラップの純度と大衆性がいま両立可能であることを示す点にある。言葉数の多さやフロウの巧みさだけでなく、フックの強度、ライブでの合唱性、観客との呼応を設計できる力量。それらを高い次元で兼ね備えている。近年、その存在感を決定づけたのが「チーム友達」や「Mamushi」といった楽曲の世界的ヒット。とりわけ「チーム友達」は、シンプルな言葉選びと反復の強さによって国境を越え、SNSを通じてグローバルに拡散された。一方の「Mamushi」は、より攻撃的で中毒性のあるビートとラップで海外リスナーの耳を掴み、日本語ラップの可能性を一段押し広げた。ローカルなユーモアや語感を保ちながらも、サウンドの設計次第で世界に届くことを証明した点は大きい。さらに近年は、アンビエント寄りのビートや空間的なサウンドを取り入れた楽曲も発表し、ラッパーがアーティストとして表現活動を重ねていく在り方そのものを更新している。加えて、渡辺直美とのサプライズコラボ曲のリリースも話題を呼んだ。ポップカルチャーのアイコン的存在との共演は、ヒップホップをより広い層へと接続する試みでもある。だがそこでも彼は迎合するのではなく、あくまでラップの軸を保ったまま異なるフィールドと交差した。エンタメを受け入れ消費されたとしても揺るがない、彼の身体性こそが、現在の千葉雄喜の強みだろう。
彼のステージは、演出に頼らずともラップそのもので空気を支配する力がある。SNS時代の拡散力を追い風にしながらも、ラップという技芸を軽視しない。その姿勢が、いまのユースにとって確かな説得力を持っている。

Tohji──オルタナティブが、標準になった証明

Tohjiがフェスの支柱として機能する理由は、彼が”オルタナティブ”を特別な選択肢ではなく、当たり前の風景へと変えた存在だからだ。レイヴィなビート、エモーショナルなボーカル、そしてMall Boyz以降に築いてきたコミュニティ。SoundCloud世代の象徴として登場した彼は、いまやフェスの中心に立つ存在となった。そのTohjiは、周知の通り昨年『POP YOURS OSAKA』で今年いっぱいでの音楽活動引退を発表している。「やりきった、晴れ晴れとした気持ち」と語り、今後は「知らないことや分かっていないことに向き合い、新しい世界を見たい」と述べた。その言葉は、単なる区切りではなく、一つの時代の到達点を示しているようにも響いた。実際、今年のPOP YOURSにはPeterparker69をはじめ、Tohjiの影響を公言してきたアーティストが多数出演している。彼が蒔いた感性が、次世代の表現者たちに確実に受け継がれていることは明らかだ。さらに、今年新設されたTerminal 6 Stageに象徴されるクラブサウンドの強まりも、近年のPOP YOURSにおける重要な変化のひとつであり、その流れの先頭に立ってきたのがTohjiであると言ってよい。
かつて彼がヘッドライナーを務めたことは、SoundCloudやニュータウン発の感性がメインストリームへ到達した瞬間を意味していた。2026年、音楽的支柱として彼が配置されることは、その潮流が一過性のブームではなく、シーンの基盤として根付いたことの証明でもある。Tohjiは、革新をもたらした当事者でありながら、その革新が標準となった現在を象徴する存在なのだ。

DAY3
Headliner:KEIJU 
Special Live:PUNPEE

KEIJU──色気と余白で、フェスを掌握する

KEIJUのヘッドライナー起用は、ヒップホップが確かな成熟段階に入っていることを示している。KANDYTOWN以降のキャリアを通して、彼はラップの美学とR&B的感性を融合させ、洗練された都市的ムードを築いてきた。過度に声を張り上げることなく、色気と余白で空間を掌握するスタイルは、巨大フェスのステージでこそ真価を発揮する。近年とりわけ印象的なのは、コラボレーション楽曲のコンスタントなヒットだ。Awichとの「Money Baby」を筆頭に、Kvi Baba&tofubeatsとの「backseat」、LEX&7との「Mamas Boy」など、多彩な顔ぶれとの共演を通じて存在感を広げてきた。興味深いのは、どの楽曲でも自我を強く押し出すのではなく、相手の個性に寄り添いながらも、自身の色気やムードを自然に滲ませる点である。溶け込みながら、確実に楽曲の重心を引き寄せる。その柔軟さこそが彼のキャラクター性であり、世代やスタイルを越えて波及していく理由だろう。KEIJUの存在は、ヒップホップが若さや衝動だけで語られる段階を越え、洗練や持続という価値を内包しはじめたことを示唆する。
様々な経験を重ねてきたアーティストが堂々とヘッドライナーを務めることで、シーンは厚みを持つ。2026年のPOP YOURSが単なる若手の見本市ではなく、長期的な文化の蓄積を提示する場であることを、KEIJUは象徴している。

PUNPEE──ヒップホップの歴史を、いまに翻訳する

PUNPEEは、ヒップホップの歴史を軽やかに現在へと接続する稀有な存在だ。これまでのPOP YOURSでも、彼は幾度となく名シーンを生み出してきた。90年代ヒップホップへの深い敬意をにじませながらも、決して懐古にとどまらず、常に同時代的なユーモアや視点を持ち込む。そのバランス感覚こそが、彼の最大の魅力である。POP YOURSという場は、キャリアの転機をつかもうとするアーティストたちの緊張感がむき出しになる瞬間も多い。ヒリついたパフォーマンスが連続し、観客もまたその熱に呼応する。そうした空気の中で、作り込まれていながらもどこか肩の力が抜けたPUNPEEのエンターテインメントは、会場をあたたかく包み込む。緻密に構成されたセット、さりげなく挟まれるMC、世代を越えた引用やサンプリング。観客の緊張をほどきながら、自然と一体感を生み出していく力量は随一だ。単にヒット曲を並べるのではなく、物語としてライブを構築できる点も、PUNPEEならではだろう。
さらに言えば、彼はヒップホップを”わかる人だけのもの”にしない翻訳者でもある。内輪の文脈を保ちながら、初めて触れる観客にも開かれた空気を作る。その役割は、規模を拡大し続けるPOP YOURSにとって重要だ。2026年のPOP YOURSが単なるトレンドの集積ではなく、歴史の延長線上にある文化として機能していることを実感させる存在――それがPUNPEEである。

POP YOURS 2026
日程:4月3日(金)・4月4日(土)・4月5日(日)
時間:開場9:30 / 開演11:00
会場:幕張メッセ 国際展示場 展示ホール1-6
https://popyours.jp/

DAY1:4月3日(金)

LANA
Elle Teresa | guca owl
Benjazzy | Bonbero, eyden | ISSUGI | Jinmenusagi |
Koshy&Sonsi | kZm | Litty | Peterparker69 |
Pxrge Trxxxper | SEEDA | VaVa | WILYWNKA
SPECIAL LIVE: STUTS Orchestra
NEW COMER SHOT LIVE: AOTO | Siero | X 1ark
OPENING DJ: nasthug
MC: Isaac Y. Takeu、SAKURA
【TERMINAL 6 STAGE】
DJ U-LEE | GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE | I♡WAKA
(AtoZ)

DAY2:4月4日(土)

千葉雄喜
Daichi Yamamoto | Kvi Baba
BIM | DADA | DJ CHARI & DJ TATSUKI | Jin Dogg |
JUMADIBA | KM | Manaka | Masato Hayashi | 7 | ralph |
SALU | SPARTA | Worldwide Skippa | Yvng Patra
SPECIAL ACT: Tohji
NEW COMER SHOT LIVE:
Rama Pantera|Sad Kid Yaz|YELLASOMA
OPENING DJ: eijin
MC: Isaac Y. Takeu、SAKURA
【TERMINAL 6 STAGE】
MARZY | SEEDA×DJ ISSO×shes rough presents CONCRETE GREEN | Tohji Presents u-ha neo stage (AtoZ)

DAY3:4月5日(日)

KEIJU
Kohjiya | NENE
ACE COOL | ANARCHY | C.O.S.A. | G-k.i.d | Jellyyabashi |
Kaneee | lilbesh ramko | MIKADO | OZworld | ピーナッツくん |
柊人 | Tete | Watson | Yvngboi P
SPECIAL LIVE: PUNPEE
NEW COMER SHOT LIVE: 11 | HARKA | Kianna
OPENING DJ: uin
MC: Isaac Y. Takeu、SAKURA
【TERMINAL 6 STAGE】
AMAPINIGHT | MASATO & Minnesotah | YeYan
(AtoZ)
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