今みたいに曲で感情を表現するバンドになると思っていなかった
──おとぼけビ~バ~は今年で結成10年目ですが、現在のようなワールドワイドな活動はイメージしていましたか?
あっこりんりん(以下、あっこ):こうなるとは思っていなかったですね。当初の目標は、大学でオリジナルをやるバンドを組んで、タワーレコードに音源を置いてもらうことと、京都の人に知ってもらうことだったので。
よよよしえ(以下、よしえ):大学のサークル(立命館大学のサークル「ロックコミューン」)に入ってミーハー心で「くるりを生で見たい」と思っていたら、サークルに入った次の日にくるりが取材で部室に来てたんでこれで目標達成や!って(笑)。
──ひろさんは2013年に、かほさんは2018年に加入しましたが、バンドのイメージをどのように捉えていましたか?
ひろちゃん(以下、ひろ):もともと私は大阪の「地下一階」というライブハウスで働いていたのですが、そこではじめて観たときからカッコイイなと。それまでガールズバンドでカッコイイと思えるバンドはそんなにいなかったし、前任のベーシストもすごく上手い印象があって。
あっこ:それはありがたい感想やわ。
かほキッス(以下、かほ):私はサークルの後輩なんですけど、サークル内で唯一好きなバンドだったし、大学外でやるライブにも行きたいと思える存在でした。あと、よしえさんのギターの位置が高くてカッコイイなって(笑)。
あっこ:位置が高いのはなんでやろね?
よしえ:あの位置にないと弾けないから、という真実はあるんですけど(笑)。最近は、「ギターは高い位置にあった方が踊れるでしょ?」という理由にしています。これはストロークスのアルバート・ハモンドJr.が言ってたのをパクってます。
──(笑)。ロックコミューンと言えばくるりやLimited Express(has gone?)などを輩出したことで知られますが、当時のサークル内ではどんな音楽が流行っていたんですか?
よしえ:当時はハードコアとかエモとかが流行っていて、そういうバンドがすごく多かった。あと、サークル内の女の子の割合も少なくて。
あっこ:最初は先輩ウケを気にして「スーパーカーみたいなバンドをやりたい」って言ってました。結果的にこんなバンドになって(笑)。
──結成当初の音楽性は今と変わらなかったんですか?
あっこ:結成当初は楽器の演奏がまったくできなかったんで、とりあえずバラードを3曲くらい作ったかな? でも、「これはちゃうわ、ほかの人がやった方がいい」と。
よしえ:何をしたいというよりは何をするにも手探りでしたね。
あっこ:最初はもっと普通に歌いたいな、バンドを組みたいなって思っていただけで、今みたいに曲で感情を表現しないとやってられない! みたいな人間になるとは思ってなかった(笑)。感情を表現するっていうとポエミーやけど。
よしえ:日々のフラストレーションとかストレスを曲にぶつけるとかね。
世界には、私たちを認めてくれる場所があるんやって思いました
──どこかのタイミングで、「これでいける!」って感覚はありますか?
あっこ:『目撃!ラブミ~・サイン』(2013/十代暴動社)をリリースして、少年ナイフと対バンしたときがおとぼけにとってひとつの区切りだったんです。よしえが東京で就職して、そのあと前のベースが抜けて、活動が止まったんですよ。そのときに『あきまへんか』(2015/Damnably)の制作がはじまって、そこが私のはじまりですね。
──なるほど。
あっこ:私が作るとどうしてもこういう音楽になるんやな、これが私なんやなって思ってやっていながら、まだまだ試行錯誤してて。
──メンバーの脱退や就職があっても、あっこさんがバンドを続けていこうと思った理由は何ですか?
あっこ:よしえがいない一年間、酒ばっか飲んでたんですけど(笑)。人のライブ見にいっても、ステージに立ちたい! わたしらの方がおもろい! って思うばっかりで、こんなにライブが生きがいだったんだと気づきました。酒のせいで記憶が定かではないですが、真剣に悩んでいた時期でしたね。
ひろ:そのタイミングでメンバーに加入したんですけど、メールで入りたいと(あっこに)送ってから実際に加入するまで、三ヶ月くらいかかりましたね。
あっこ:連絡ねぇなと思っていたでしょ(笑)。その頃は病んでてまったく連絡を返してなくて、いろんな人に迷惑をかけました。
ひろ:(笑)。そこからスタジオに月一回入る時期が一年くらい続いて。
よしえ:それで、私が戻ってきたくらいに海外リリースやツアーの話が来たんですよ。全文英語の怪しいメールが届いて(笑)。
あっこ:一回目(2016年)のイギリスツアーは自腹やったからね。
よしえ:あそこで行って良かった。
──海外での評価って、日本と違いましたか?
あっこ:そもそも、それまで評価されてると思ったことがあんまりなかったので。
よしえ:うん。
あっこ:『あきまへんか』は良いものできたと思っていましたけど、褒めてくれるのは周囲だけで。それがイギリスではどのライブもソールドだったし、お客さんのリアクションもダイレクトにあって、こういう私たちを認めてくれる場所があるんやなって思いました。
よしえ:単純に音を聴いて踊りだしたり、サークルモッシュしてくれたり、そういうリアクションがあって。
──それからパフォーマンスが変わったりもしたのでしょうか?
あっこ:MCがカタコトの英語に変わったくらいですかね。あとは、あの曲のあの「間」が良かったから、それは続けようとか変えようとか。一体感が出るような感じは意識してるかもしれないです。
いかにうるさいかは、常に考えてる
──ライブや歌詞に触れると、「怒り」がまず原動力になっているように感じます。
あっこ:それはありますが、怒りなのか悲しみなのか自分でもわからないです。
ひろ:曲作りのときも、提示されたひとつのワードから作っていくんですけど、そこから派生した歌詞も合わさってどんどん面白くなってきていますね。
よしえ:歌詞もね、ある程度できてるのに、(あっこは)小出しにしてくるんですよ(笑)。
あっこ:最初から一曲分のフレーズはまとめているんですけど、まず小出しにして、それに合わせて演奏させて、「いけんな」と思ったら全部見せる。あかんかったら歌詞を入れ替えたり。
かほ:歌詞の中にもちろん怒りもあるんですけど、そこに皮肉というかユーモアというか、気づいたら「フフ」ってなるような。それに気づくか気づかないかで、曲作りの展開も大きく変わるんですよ。
あっこ:それはありますね。ちゃんと意図を気づいてくれるかどうかは。
──曲作りで意識していること、最近変わってきたことはありますか?
あっこ:あんまり意識してないですね。でも、いかにうるさいか、は常に考えてるかな。
よしえ:速くて、うるさくて、すぐにノレる感覚。
あっこ:あと、ステージ上でやりたいことを反映しているところはある。曲作りに関していうと、私は自分のことをアーティストだとかクリエイターだとか思ってないんです。鼻歌を歌えたらそれはもう作曲で誰でもできると思ってる。それをメンバーに伝えてバンドでやっているだけというか。それで今までうまくやってきたのはちょっと奇跡的だなって思いますけど。
──メンバーとこういう音にしたいっていう理想が共有されている感じはあるんですかね。
あっこ:どうなんですかね? 私は好きなことをやってきただけですけど、みんなにはふんわりあるかも。
よしえ:かもしれないですね。意識は全然してないですけど、完成したものを聴いたら、クセがだいぶ強い「おとぼけ」のサウンドになってるから(笑)。
ひろ:こういうことをやるべきかな、というのは最近わかってきた感じですね。今?って感じかもしれないですけど(笑)。例えば、ベースラインはこう動いたらええんかな、とか。
あっこ:最近だと、メロコアっぽい曲にチャレンジしてるんですよ。それを、おとぼけビ~バ~でやるんやったら、サウンドはしっかりしてて聴いてて気持ちが良いけれど、マジっぽくなりすぎず、ユーモアがあるものにしたい。
ひろ:良い意味での「イジリ」っていうんですかね? そこの域に至るにはどうしたら良いかっていうのを試行錯誤しています。

歌詞にはルー大柴的なファニーさを残したい
──話は変わりますけど、みなさんお笑い好きですよね。そういう話はするんですか?
よしえ:めちゃくちゃしますね。
あっこ:スタジオ練習の合間とかはほぼお笑いの話ですよ。
よしえ:今年大ブームが来るのは、吉本興業だとコウテイとニッポンの社長じゃないでしょうか。タイタンやったら、シティホテル3号室。
あっこ:タイタン推しやな~(笑)。
ひろ:今は全然詳しくないんですけど、高校生の頃はbaseよしもととかワッハ上方にめっちゃ通ってました。かまいたちとか天竺鼠が若手やった頃ですね。
あっこ:ひろちゃんとかほちゃんはちょっと世代が下なんで。私とよしえはFUJIWARA、陣内智則、シャンプーハット(baseよしもとイチオシ組)、ロザン、キングコング、ランディーズ(WESTSIDE)の世代。
よしえ:番組で言ったら『?マジっすか!』、『吉本超合金』、『クヮンガクッ』とか。
かほ:私はお姉ちゃんがダイアンのファンだったんで、『爆笑オンエアバトル』の時代から、テレビでけっこう観てました(笑)。
──そういう要素が音楽に影響を与えている部分はありますか?
あっこ:歌詞の関西弁に関してはあんまり関係ないかなと思っていますね。関西弁は私の父親とおばあちゃんがコテコテだったんで、その影響がデカイです。あー、でも小さい頃から吉本新喜劇とかお笑いはルーティーンやったから、どうなんかな。
よしえ:ツッコミとか掛け合いのリズムとか「間」、かな?
あっこ:そうかも。漫才とかお笑いを見てて思うのは、「間」が少しずれただけで笑いの量が変わるじゃないですか。噛んだだけで熱量は下がるし、同じネタでも「間」次第でウケ方が全然ちがう。それを知らないうちに勉強していて、音楽にも反映されていることはあるかも。
──他の音楽から受ける影響も当然ありますよね。
あっこ:もちろんありますね。関西ゼロ世代とか。でも、音楽というより、コピー機がつまった音とか、人の話し声とか、そういう日常の中で鳴っている音すべてから影響は受けている気がします。
──それこそ、海外で感じたこととかも。
あっこ:そうですね。でも、前のルーフトップのインタビューでも言いましたけど、海外で売れてるから海外に住まないの? っていう質問は理解ができない。
よしえ:なんで? ってね。
あっこ:行きたくなったら行きますとしか。確かに英語はまったく話せないので話せるようにならないとやばいんですよ。でも、それは歌詞に反映しようとは思ってなくて、カタカナ英語で行きたい。そうすると、ちょっとアホっぽくなるというか、ファニーになる。曲を聴いているときやライブを見てもらっているときは、マジで重いとか暗いとかいう印象を与えたくないので。「ルー大柴イズム」というか、寂しいって書くよりも、「ロンリーやね」と表現するみたいな(笑)。
よしえ:(やしき)たかじんっぽさとも、上田正樹的とも言えるかも。「やっぱ好きやねん」とか、「悲しい色やね」とか。
あっこ:ライブで聴いたらノレるけど、家帰って歌詞読みながら聴いたら、刺さる人には刺さると思います(笑)。

今は己とめっちゃ向き合っている時期
──さて、海外ツアーが一段落して、日本ツアーもスタートしました。8月24日には、下北沢シェルターで、モーモールルギャバンと対バンです。
あっこ:それこそかほちゃんが大好きなバンドで。
かほ:そうなんです!
よしえ:普通にリスナーとして聴いていたバンドなんで、バンドをはじめた頃からしたら想像できない組み合わせで、楽しみです。
あっこ:シェルターでは、サーキットフェスも入れたら3回目かな?
よしえ:シェルターでやれるのもかなり嬉しいですね。
──8月には、オランダでビリー・アイリッシュやニューオーダーもラインナップされた『Lowlands Festival』に、9月には小籔千豊さんが主催する『KOYABU SONIC』にも出演されます。
よしえ:どっちも楽しみっすね~。そのあとにもいろいろ楽しいことが決まっていて、今はツアーしながら準備しているところで。早く次の私たちを見せたくてウズウズしてます。
あっこ:「わしらおとぼけビ~バ~やぞ」っていう曲は作り続けてるんで。
ひろ:そのために、もうちょっとだけ楽器うまくならないとなって。知識をつける時期かな。
あっこ:あー、今ね、みんな己とめっちゃ向き合ってる時期(笑)。
かほ:(音の)好き嫌いとか、自分の中で選別していたり。
ひろ:大きな目標っていうより、小さな、地道な目標があるって感じです。
よしえ:こんな地味な締めくくりですけど大丈夫ですか? オリンピックのテーマソングやりたいです! とか言った方がええかな?
あっこ:いらんいらん(笑)。それやったら、『KOYABU SONIC』でお客さんの心も芸人さんの心も掴みますって宣言するほうがええわ(笑)。
