この9月にメジャーデビュー15周年、結成20周年のアニバーサリー・イヤーに突入したPerfumeが、渋谷の新たな文化発信基地として生まれたLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のこけら落とし公演として、10月16日から正味8日間に渡る「Reframe 2019」を開催した。通常のPerfumeのライブと異なり、「Reframe」はMCなしでクールに進行する1時間強のノンストップ・ショー。
「Reframe」誕生のきっかけは2017年に遡る。まずあったのは、エンターテインメントの可能性に照準を当てた「Perfume X TECHNOLOGY」というNHKの番組企画だった。そこに連動する公演「This is NIPPONプレミアムシアター『Perfume X TECHNOLOGY』presents "Reframe"」が行われたのが、2018年の3月のこと。演出・振付はMIKIKO、インタラクションデザインはライゾマティクス。前者はPerfumeのメジャー・デビューからの全振付と演出を、後者は技術面でPerfumeの革新的ライブを支え続けている。両者ともが、リオ・オリンピックのフラッグ・ハンドオーバー・セレモニーを成功に導いたキー・パーソンでもあったため、2018年の"Reframe"は内外に大きな反響を呼んだ。
「Reframe 2019」は、その同じチームによってさらに進化した最新バージョンというわけだ。そもそもの「Reframe」のテーマは「再構築」。楽曲、音声、ダンス・パフォーマンス、写真、映像といったノーマル素材から、MVやライブ制作のためライゾマティクスと記録してきたモーション・キャプチャーや3Dスキャンといった特殊素材まで、Perfumeがこれまで蓄積してきたさまざまなデータを、最先端の演出アイディアと技術で再構築し、Perfumeの今のストーリーとして見せるというのが大命題だ。歴史あるPerfumeだからこそできる「Reframe」と言える。
観客が息を飲んで待つ会場。そこに不意に耳障りなマシン・ノイズが鳴り出した。真四角に切り取られたたくさんのサンドストーム画面が現れ、鼓動のような音とリンクしてメンバーの唇、目、手が現れては消える。これまでのあらゆる映像や音声も、超高速でランダムにフラッシュバック。見えたのが錯覚か否か脳が追いつかぬ間に、目の前にはめくるめく「Reframe」の世界が広がっていた。
素朴に、あ、面白いなと思ったひとつが「Record」だ。ステージとリフター上と別々の三箇所に立つメンバーが、一人ひとり生声で「マイクチェック、ワンツー、アー」と言って自己紹介。そして、頭上の「REC」ボタンが点いた順に、流れているリズムのあるタイミングで正確に「ツ」、「タン」、「アー」などと発声する。すると、いわゆるルーパーのように声は録音されどんどん重なっていき、いつしかポリリズムのカオス的サウンドが生まれていた。これは、デジタルとアナログのPerfume的生コラボという意味でも、純粋に音楽的にも興奮したポイントだった。
「Reframe 2019」が観客参加型であったことも、特筆すべき点だろう。
今度はどこからともなく白い帳が降り、そこに蛍のような無数の仄かな光が宿る。やがてそれは揺らめくオーロラに。
「過去と深く向き合ってより愛おしく思えるようになりました。みんながそれを受け止めてくれるから、また新しい挑戦ができます」とかしゆか。「結成20周年。どこも否定せず、全部ひっくるめて新しいPerfumeになれてることに喜びを感じてます」とのっち。
(PHOTO:上山陽介 文:藤井美保) <SCENE NAME(セットリスト)と技術説明> Scene 1:Recollect(Reframe2019 ver) (Music credit :evala + Daito Manabe) 過去の振り付けから機械学習で姿勢の推定を行い、似ている振り付けのシーンを並べるシステムを開発した。 M1:DISPLAY(Reframe2019 ver) (Music credit :YASUTAKA NAKATA) 前回Reframeの演出を2019verにアップデート。人が動かしていたムービングトラックLEDシスエムをモーションキャプチャを用いて自動コントロールした。 Scene 3: Record(Reframe2019 ver) (Music credit :Setsuya Kurotaki) メンバーの生声を解析し、照明や映像にリアルタイムで反映させる演出を行なった。 Scene 4: Koe – Interlude (Music credit :Daito Manabe) メンバーの生声を解析し、照明や映像にリアルタイムで反映させる演出を行なった。 M2: VOICE (Music credit :YASUTAKA NAKATA) 歌声のデータビジュアライズをワゴンステージのLEDとメインLEDを効果的に使った映像 演出で表現した。 Scene 5: Pose – Analysis (Music credit : Hopebox) 「Pose analysis」 ブースを会場に設置し観客の撮影を行い、事前にキャプチャしたモーションデータに類似した画像解析データを元に観客が公演の演出に参加いただける試みを行った。 Scene 6: Pose – Perspective (Music credit :Daito Manabe) Photogrammetryと呼ばれる3Dデータ復元技術を用いて18個のポーズを3Dデータ化し、普段では見ることが出来ない様々な角度からポーズをレンダリングした。
しかも、着席での観覧がマストだ。いつもと勝手が違って戸惑いもあるのか、観客はちょっと緊張した面持ちで開演を待っていた。


ある意味技術のショーケースでありながら、Perfumeの世界観自体も深みを増していくという、この両軸の進化が成立するのは、Perfume、MIKIKO、ライゾマティクスに、互いへの尊敬と信頼という蓄積があるからだろう。



開催期間中、LINE CUBE SHIBUYAの2階のロビーには「Pose analysis」というブースが置かれ、希望する観客はそこで20秒間の撮影に参加。その服装や動きの解析データが、演出の一部として使われた。そして、ポーズといえば忘れられないのが、人気曲の印象的なワンポーズを、3人が18曲にも渡って生で見せてくれたこと。ああ、そのまま美術館に飾りたいと溜め息が出るほど、生身の3人が創り出すそのポーズはアートなオブジェだった。 後半「FUSION」、「edge」と攻めの曲が続くと、もはや本物かバーチャルか見分けがつかなり、さまざまな種類のバーチャルPerfumeが徐々に人格を帯びるように感じられた。が、やがてそのバーチャルな3人は、どこか知らない宇宙の彼方に落ちていくように消えていく。聞こえてきたのは、3人の声のカットアップで再構築された「キミ」、「ボク」、「ヒカリ」、「印象」、「連続」といった言葉。気づけば薄明かりのステージに本物の3人が立っていた。そして、「無限未来」。暗がりを揺らぐ光と手を取り合うように踊るそのエレガントなダンスに、じっと目を凝らした。

始まったのは「Dream Land」だった。これを聴くのは2013年の東京ドームのラスト以来ではないだろうか。ディムライトのなか3人は、せつないメロディをひたむきに歌う。ふと、「このわずかな光を、君は光と感じられるかい?」と問いかけられている気がした。それは、テクノロジーと共存してきたPerfumeからのあえてのアンチテーゼのようでもあった。どんなデータの蓄積にも勝るのは、3人の心に蓄積されているけっしてデータにはできないもの。それこそが光なのだ、と、ハッと気づく感動のラストシーン。もしかしたら、そこにすべてを集約するための「Reframe」だったのかもしれない。

「テクノロジーを冷たく淋しいものに感じるかもしれないけど、あれも一個一個人間の手でプログラムされたもの。未来はきっと温かいものになっていくと信じていきます」とあ~ちゃん。3人の近い将来の夢は、日本のファンのみならず海外のファンも足を運びやすくなるような常駐公演だという。8日間の「Reframe 2019」は、そこに向けての確かな第一歩となった。

Scene 7: Body – Analysis (Music credit :Daito Manabe) リアルタイムで画像セグメンテーションを行い、人物のシルエットのみを切り出して様々な数値を計測、さらにリアルタイムで2D映像から深度推定を行い、のっちの姿を3D化したのちに複製を行なった。 M3: FUSION (Music credit :YASUTAKA NAKATA) 仮想光源を用いて仮想の影を生成する「バーチャルシャドウ」という技術を用い、またLEDとムービングトラックLEDを活用してメンバーの踊る姿の影を様々な形状で、表現した。 M4: edge (Music credit :YASUTAKA NAKATA) Photogrammetryと呼ばれる3Dデータ復元技術を用いて3人の踊る姿を3Dデータ化し、ムービングトラックLED、ダイナミックVRディスプレイと組み合わせた映像表現を行なった Scene 8: Kiseki – Visualization (Music credit :Daito Manabe) Reframe2019に繋がるこれまでライブ会場や歴史をデータビジュアリゼーション、楽曲、ダンスで振り返る演出。 M5:シークレットシークレット(Reframe2019 ver) (Music credit :YASUTAKA NAKATA) 前回Reframeの演出を2019verにアップデート。三角の紗幕スクリーンをリアルタイムでトラッキングしダイナミックプロジェクションを行なった。過去のメンバーの映像と現実のメンバーのダンスをシンクロさせた。 Scene 9: Lylic Analysis (Music credit :seiho) 過去の歌詞データの解析を行い、使用頻度の高い歌詞を活用し再構築した。 M6:無限未来 (Music credit :YASUTAKA NAKATA) 15台のレーザーを制御して指定した位置に照射するシステムを開発。結像による3D再構成によって メンバーの手の動きをモーションキャプチャ技術を用いてトラッキングし、その情報を用いて、ダンスにぴったりと合った位置にレーザーを投射した。 M7: Dream Land M8: Challenger(Reframe2019 ver)
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