どんな状況になっても必ず切り抜ける方法があるはず!
──5月リリース予定だったけどコロナ禍で延期になっていた『太陽はひとりぼっち』がいよいよリリース。おめでとうございます! 作品の話の前に、まずリリースが延期になりライブもやれなくなった、その頃の心境は?
NICKEY:ありがとうございます。やっと発売することができてホント嬉しいです! 『太陽はひとりぼっち』は去年の8月からレコーディングがスタートして発売までに1年かかりましたね(笑)。
──でもシングル「LOVE×HURTS」を急遽6月にリリース。素晴らしい瞬発力! きっかけは?
NICKEY:コロナの自粛期間中、早朝散歩するようになって、毎日15,000歩近く歩いてたんですね。もともと何かで行き詰まった時に、泳いだり散歩したり、リフレッシュして発想の転換をすることも多かったんだけど、「あーっ! そーだー! これだ!」と思いついたのが、「LOVE×HURTS」を緊急シングルとしてリリースすることだったんです。散歩しながら口ずさんでいるうちに、こんな時にこそ明るいポップな曲をみんなに聴いて元気になってもらいたい! と。もちろん、あたし自身を盛り上げる意味でもね(笑)。そしたら居ても立っても居られなくて、散歩中にスタッフサイドに連絡したんですよ(笑)。あたしって実は逆境に強いタイプなんです! 「LOVE×HURTS」は榊原秀樹がアレンジを詰めてくれた曲で、彼が一番驚いていましたね。「えー、シングル!?」と。今時シングルってあまりないですからね。
──カップリングの「EMPTY STREET~廃墟の街から~」は流麗なメロディで、夜の街を走っているイメージ。
NICKEY:「EMPTY STREET」は数年前から作っていた曲で、アコースティックでラフィンノーズのLINAがギターを弾いてライブでやったりしてたんですよ。何回かライブで試しながら徐々に固めていった曲。曲作りって、自分では「いい曲になる」と思っていても、ライブで反響がなかったりすると、だんだんと疑心暗鬼になるんだけど、所沢MOJOのライブで、楽屋で宙也が「あれ、いい曲だね」と言ってくれて、「そうでしょ!」って。
──「LOVE×HURTS」の“世界は悲しみでいっぱい”、「EMPTY STREET」の“争いや憎しみあう声が また 今日も 聞こえる”という歌詞があるけど、今の世界を歌っているようで。
NICKEY:なぜかコロナになる前から作ってた曲なのにね。“争いや憎しみあう声が”の部分は最初にクロスが作ってた時に詩になっていて。あたしの声質に合うフレーズをまず提示してくれて、そこからあたしが広げていくって感じかなぁ。
──「EMPTY STREET」の最後、“廃墟の街角に立ち あたしは ここから歌いはじめよう”って歌詞は決意表明って感じがしました。
NICKEY:そうですね。長くバンド活動してきて、うまくいかない時もあるし。でも、またリスタートだ! っていう気持ちを常に持っていたいじゃないですか。
──このシングルはポジティブな2曲だし、緊急リリースの発想や行動もポジティブ。
NICKEY:あたしは、どんな状況になっても必ず切り抜ける方法があるはず! って常に思っているんです。たとえ失敗に終わっても、じゃあ、次はこうしてみたらどうかな? とか、全く違う発想に転換したり。やっぱりタフでないと何事も続けられないなって思ってます。
──あと本誌Rooftopプレゼンツとして5月に新宿ロフトでトークに出演してもらって…。
NICKEY:そうそう、遠藤さんとのトーク配信! 楽しかったですよねぇ! 誘っていただけて凄く嬉しかったし、すべての予定が飛んでしまったあの時期に、素敵なプレゼントをいただけたような、そんな気持ちになりました。
──こちらこそ! 楽しかったよねー。8月のFlowers Loftでの「LOVE×HURTS」のレコ発では私が呼んでもらっちゃったし。その日のライブはアコースティックとバンドの二部構成。新しいライブのやり方や表現の方法を見つけたって感じで。コロナ禍においても活動を止めなかったですよね。
NICKEY:Flowers Loftでの遠藤さんとのトークも楽しかったし、楽しすぎてどんどん話題が違うほうに流れちゃって、それはそれで楽しい! みたいな(笑)。あたしも、遠藤さんにはとてもポップなパワーを感じているんですよ。
ウォリアーズでできなかったことにもチャレンジしたい!
──ありがとうございます! そのトークでNICKEYさん、「(コロナ禍で)できることは狭くなってるけど、楽しいことを見つけていきましょう!」って言ってて、私はホントにそうだって感動したんですよ。
NICKEY:自分のテンションを上げる方法って、みんなそれぞれいろいろあるでしょ? たとえば…、自分の例なんだけど、どんなに落ち込んだり、怒ってたり、悲しいことがあっても、お気に入りの服やバッグを見つけちゃうと気分が晴れちゃって、「あれ? さっきのあの気分は何だったのー?」みたいな(笑)。泣いたカラスがもう笑った? 的な(笑)。あたしって実に単純なんです。すっかり気分は直っているのに、恥ずかしいからちょっぴりだけ怒ったふりをしていることもありますね(笑)。自分を上手に飼い慣らすことは楽しいことですねー(笑)。
──自分を飼い慣らす! なるほど~。あと20代の頃に、ミチロウさんから言われた言葉が大きいそうで。
NICKEY:音楽の父、遠藤ミチロウさんが残してくれたメッセージは、多感な20代の頃に胸に響きました。多分、いろんなことで悩んでいる時期で落ち込んでいたんです。そしたら、「せっかく女の子に生まれたんだから楽しくしていなきゃダメだよ」、「楽しくしていたらみんなが寄ってくるんだよー!」って。その気持ちはこれからいくつになっても持ち続けていきたいなぁと思ってます!
──そして、マネージャーの黒田義之さんが癌で亡くなられるという悲しい出来事がありました。
NICKEY:黒さんとは30年前からの付き合いではあったけど、「俺が最後にマネージメントするのはNICKEYだ!」と、私を選んでくれたことに感謝してます。のんびり屋の黒さんとセッカチなあたしと随分意見も食い違ったり言い合いもしたけど、最終的には尊重してくれて歩み寄ってくれていましたね。黒さんの死はあまりに突然でショックでした。これからって時に亡くなってしまったから。黒さんはあたしの歌を買ってくれていて。パンクとかライブとかのイメージではなく、ボーカルとして。大切な理解者だったので、正直まだ整理はつかないですね。
──この数カ月はかなりヘヴィだったと思います。でも、たとえば私にヘヴィな出来事があったときに、NICKEYさんのキラキラして明るい存在と音楽は、絶対に励みになると思う。NICKEYさん自身、音楽に救われることは? 音楽をやること自体が救いになってるのかなぁ。
NICKEY:えー、そんなこと言っていただけるなんて、めちゃくちゃ嬉しいです! あたしはウォリアーズ始めた頃は、自分なりにカッコつけることに精一杯で、まだ全然何も考えていなかったけど、いつ頃からかなぁ? 多分15年とか20年前ぐらいから、あたしの歌を聴いたりステージを観てみんなが元気になってくれることが一番嬉しい! って感じるようになったんですね。

──うんうん。そしていよいよリリースの『太陽はひとりぼっち』。ソロとしては久しぶり。今ソロを出す理由は?
NICKEY:ソロをまたやろうと思ったのは、2年ぐらい前からまずいろんなタイプの曲を歌いたい! ウォリアーズでできなかったことにもチャレンジしたい! と思ったんですよ。曲作りのパートナーのクロスがどんどん良い曲を作ってくれるので、さらに音源としても残していきたいと思うようになりましたね。
──今回、ゲストボーカルに森重樹一さん。出会いって?
NICKEY:森重さんとの出会いは20歳のとき。知り合いのギタリスト(ジョーキッズ)に連れられて、新宿のウェンディーズで紹介されました。それからもう随分会ってなくて、歴代ギタリストのタキが森重さんのアコースティックのライブに参加したりで、タキがウォリアーズにゲストで出てくれたときに、森重さんがライブを観に来てくれたりして。あたしもZIGGYを観に行くようになったり。あと身体をメンテナンスしてくださる先生が同じで、そこのスパで偶然会ったりで、交流が深まりましたね。
──「太陽はひとりぼっち」は曲をまず作ってから森重さんが浮かんだ? それとも森重さんをイメージして曲を作った?
NICKEY:森重さんと一緒に歌うと決まった時に、クロスがぴったりな曲があるよって。
──「太陽はひとりぼっち」って、タイトルがまずいい!
NICKEY:「太陽はひとりぼっち」はアラン・ドロンとモニカ・ビッティの映画があって。あたしは「太陽がいっぱい」という曲もあるので、映画タイトルシリーズなんです(笑)。
──NICKEYさんも森重さんも、長年にわたりバンドのフロントマン。何か共感、共有する感じはありました?
NICKEY:うーん、そうですね。いろんな危機や時期を乗り越え、今もこんな時期で活動範囲は狭まってしまっているけれど、お互いとても充実しているんじゃないかな。一緒にレコーディングして思ったことは、森重さんはホントに引き出しが多い! 直感や判断力も素晴らしく、集中力ももの凄い! そしてすべてに自分を出し切る! 感動のレコーディングでした。あとね、出前の夕ご飯を食べる時間がなくて、好物のイカフライ弁当を持って去っていったんだけど(笑)、歌入れでジャラジャラとマイクで拾わないようにって、お財布とキーを置いておいたのを忘れて帰ってしまったんですよねー(笑)。
過去なんてどうでも良くて、今が一番大事!
──あはは。ゲストが参加するのもソロならではだと思うけど、ソロならではの曲、ソロならではの歌い方やアレンジもたくさんありますね。
NICKEY:ソロは音がソフトなのでニュアンスを伝えやすかったり、言葉、歌詞をより伝えたいという気持ちはありますね、今まで歌ったことのないような曲に挑戦していくことは喜びに繋がります。
──「フリージア」はマイナー調のスケール感あるバラード。
NICKEY:基本、マイナー調の曲は好みではなく今まで避けてきていたんだけど、多分私が歌ってもドーンと暗い感じにはならないし、今だったら良い雰囲気を出せるのではないかなと思って。アルバムの中で一番好きな曲になりました! 礒江俊道がダークなオルガンをダビングしたところに、YUKINO(AUTO-MOD)がエンディングにカッコいいギターフレーズを入れてくれて、ドラマチックな仕上がりになりました。
──「ALL KIDS LOVE ROCK N' ROLL」は森重さんとデュエットのブギーなロックンロール。こういう曲、普通なら懐かしいって感じになりそうだけど、NICKEYさんと森重さんは「今」って感じなんですよ。懐かしいロックンロールをやってるんじゃなく、かといってキッズになりきってるわけでもない。なんていうか、当たり前にロックンロールをやってるって感じなのがカッコイイ。
NICKEY:森重さんが歌うのを想定してクロスがバッドボーイズ風に仕上げてくれたんです。森重さんにピッタリでしたねー! あたしには到底似合わないだろうと思ってたけど、不思議なことにあたしが歌うとサディスティック・ミカ・バンドのミカのようなイメージになって、全然違うーって(笑)。「太陽はひとりぼっち」とこの曲は、澄田健がギターで、彼はあたしのアコースティックライブでギターを弾いてくれたこともあって。ベースはCRAZY COOL JOE。この2人はよく一緒にライブもしてる。ドラムは牟田昌広。曲中でも彼らの名前をあたしが叫んでるんですよ(笑)。
──ロックンローラーだ!(笑) なんかNICKEYさんっていつでも「今」の人だよね。流行りのことをやってるって意味じゃなくて。ずっと変わらないのにいつも今。
NICKEY:えっ? 今の人って? よくわからないけどありがとうございます(笑)。あたしには過去なんてどうでも良くて、今が一番大事! ブロンディーのあたしの大好きな曲「Presence Dear」って曲の日本語タイトルは、「今が最高!」なんですよー! 自分の思い方ひとつで人生が変わる? なんちゃってー!(笑)

──NICKEYさんと話してるとホントにそう思えてくる。最後の「APRIL FOOL」はザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Sunday Morning」の雰囲気。
NICKEY:「APRIL FOOL」は最初から「Sunday Morning」を意識して作った曲なんです。磯江俊道の優しいオルガンも凄くいい感じに仕上がっていて、大好きな曲です。ほとんどリハなしで、あまり考えずにクロスと2人でセーノ! で録って、凄く良い雰囲気に仕上がったなって。あの空気感はあのときだけのもののような気がしてます。
──今作のいたるところに通好みのロックの雰囲気があるけど、凄くポップ。NICKEYさんらしさが凄く出てる。なんか、どんどん自由になってるよね。
NICKEY:あたしは常に自由になんでも演れないと、力を発揮できないタイプなんです! 縛られるの大嫌い! 30歳の頃からイラストのモデルの仕事をしてるんですけど、それまでは、ちょっぴりブルジョア志向のパンクなあたし、だったんですよ。ずっと一つのイメージに囚われたり、「NICKEYっててこういう人だよね」とか。そうやって型にはまることが嫌だったんです。それがイラストモデルの仕事で、とても自由に自分を表現していけるようになりました。もしかして、自分が表現したかったことがマッチしたような、凄く自分に向いている仕事だと感じて。ライブでの魅せ方やパフォーマンスにも広がっていったと思ってます。人生の転換期というには大袈裟かもしれないけど、私にとってはとても重要なことだったと理解してます。パンクももちろん自由なんだけど、その枠の中だけでの表現ではなく、いろんな自分をもっと打ち出していきたいと思ってますね! あと、まだ見ぬ自分を発見していくことも楽しい。これからも楽しみがいっぱい! って思っています!