新宿ロフトは僕にとって伝説のライブハウスだからです(細野)
樋口:昴珈琲店とご縁を持つことができ、今回、新宿ロフトオリジナルブレンドコーヒーが誕生いたしましたが、昴珈琲店さんがなぜ新宿ロフトのコーヒーをブレンドしようと思ったか聞かせてください。
細野:単刀直入に言うと、新宿ロフトは僕にとって伝説のライブハウスだからです。86年に上京し、その時に伝説すぎて怖くて近寄らなかったライブハウスだったからというのがありますね。
まずはそこが一番大きいです。
樋口:細野さんにとって伝説のライブハウス・新宿ロフトのコーヒーをブレンドするにあたって、どんなコーヒーにしたいと思いましたか?
細野:新宿ロフトは、東京のど真ん中、最もでかい街のライブハウスの印象がありました。田舎の人は東京の人に、「クールで冷たいよね」的な印象がありますが、それはちゃんと個人を持っているということだ、と上京してわかりました。とても熱いものがあって、長くやられているからこそ日本の音楽シーンにはなくてはならない存在。だから、ベースにならないといけないし、ちょっと複雑な味を表現したいと思いました。僕はロックが好きですが、ロックだけじゃなくいろんな音楽が集まるロフトは、いろんな味を集めて一つの味を創り出すというところでブレンドコーヒーとの共通項があります。ブレンドというのは最も自分が得意とするところなので、そういったものを表現したいというのがありましたね。
樋口:ブレンドでも苦味が強かったり酸味が強かったりと、いろいろなパターンがあると思いますが、新宿ロフトのコーヒーをブレンドするにあたって特にこだわった部分を教えてください。
細野:いろんな人が新宿ロフトに来るから、間口は広いけど迎合しないというか、一本筋が通っているからこそ50年もやっていると思うんです。コーヒーを飲んだ時に、「こういう味のものを創り出してみたいな」と思ってもらえたら…と思いました。新宿ロフトはいろんな人の目標でもあったりするので、象徴的であり飲み手を選ばず、飽きがこないようにして、飲む人によっていろんな顔を見せられるようなイメージでブレンドしました。
樋口:実際ブレンドしてみて大変でしたか?
細野:楽しかったですね。
そもそも音楽を聴いたり本を読んだりするとコーヒーの味がバッと頭に浮かんでしまうタイプなので、伝説過ぎて行けなかった新宿ロフトに、「ここで呼ばれるのか」と思いましたし、変な運命的なものも感じました。
樋口:私たちも、「ブレンドコーヒーをオリジナルで創ることができるんだ」と驚きました。普段から愛飲しているので、「どんな味になるのだろう」と本当に楽しみでした。実際に何回か試飲のやり取りしているうちに、「こういう感じになるのか」と思ってワクワクしていました。新宿ロフトのスタッフみんなからも、「美味しい!」と評判が良かった味を支援者の皆さんに提供出来ることは本当に嬉しいです。
細野:実際に新宿ロフトに足を運び、楽屋に入ると独特な匂いがあるでしょう。今回、コーヒー制作のご依頼を頂いて、頭の中では半分できていたのですが、楽屋に入ってコーヒーのピースがもうガチャンとハマって、これしかないなと。コーヒーのベースは奇をてらったことはやらないですね。「これ日本の音だぜ」と新宿ロフトから発信されているものが多く、僕らも日本人が作るコーヒーだということにはすごくプライドを持っているので、実際に新宿ロフトに行った時にピースがハマっている感じがしましたね。
樋口:歌舞伎町に移転した新宿ロフトに実際に足を運んだ感想はどうでしたか?
細野:共通していろんなライブハウスに言えることは、結局、未完成なものが見たいということです。まだ名もなきバンドや名前もついてない音、世に知れわたっていないものを見られる感動は呉じゃ難しいです。特にインターネットなんて影も形もなかった1986年の高校を卒業した時の僕には、まだ売られてない音楽を聴けることは独特の経験じゃないですか。
そういう意味でやっぱり、「東京」っていうのはあるかもしれないですね。
樋口:西新宿時代の新宿ロフトには行ったことはありますか?
細野:当時の自分からすると、本当にライブハウスを知っている人じゃないと、「新宿ロフトに行っちゃいけない」みたいな感じがありました。出演している人たちが半端ないじゃないですか(笑)。
あの頃の自分に言ってやりたいですよ(細野)
樋口:若かりし頃は足がすくんでハードルが高い場所ではあったライブハウスから、時代を経てコーヒー依頼がくるってすごい話ですよね(笑)。
細野:あの頃の自分に言ってやりたいですよ。例えば、普通に大ファンとして聴いていたhideさんの曲をコーヒーでトリビュートをしたり、学生時代に散々読んでいたバイク雑誌に自分が連載を持つことになるなんて思いもしなかったです。
樋口:hideさんのコーヒーブレンドは長年やられているのでしょうか?
細野:2004年の七回忌の会葬返礼品で終わる予定でした。気合い入れて作ったコーヒーが、「美味しいからまた飲みたい」と言って頂いてご要望があって、七回忌の『HURRY GO ROUND』から始まって『Pink Spider』、『ever free』という一連の流れがありましたね。
樋口:hideさんのコーヒーも楽曲のイメージから膨らませてブレンドしたのでしょうか?
細野:hideさんのコーヒーは『HURRY GO ROUND』から始まって、『Pink Spider』が十三回忌、築地本願寺で、ということだったんですよ。両方楽曲のイメージです。『ever free』は、楽曲よりPVのイメージですね。あのPVの中に混ざって一緒にぐちゃぐちゃやりたいみたいな感じの味にしました。10年経った今また聴くと当時とは状況も変わりますよね。
でも音楽って賞味期限はないので、今の子供らが聴くとかっこ良く疾走感もあって、何年も前の曲に思えないみたいな。コーヒーもそうありたいなというのはありますよね。
樋口:購入されるファンの方からはどんな反応を頂いていますか?
細野:とても好意的です。本当に僕がhideさんのことが好きだったとわかっているというか。hideさんが生前ご自身のラジオ番組で、「日本のコーヒーは美味いんだよ! 頑固そうな親父の店で飲むコーヒーの方が美味い!」と言っていて。それがすごく印象的に残っていて涙が出ましたよ。
樋口:パッケージもhideさんをイメージしやすく創られていますけど、パッケージのこだわりはいかがでしょうか?
細野:ファンの人達が見たらニヤッとするようなものですかね。「この人はhideをわかっている!」というのを素直に出せればと思っていますね。七回忌の時からスタートした「イエローハート」はひとつのアイコンですね。『ever free』は、ファンが見るとhideさんっぽいイメージですかね。色味なんかはセカンドアルバム『PSYENCE』のビジュアルからちょっと未来的な蛍光色を多用したサイエンスツアーみたいなところ。hideさんでも前期と後期があるので意識しました。
西新宿時代の新宿ロフトの香りも残しておきたい(樋口)
樋口:今回、新宿ロフトをイメージしたコーヒーをブレンドしてくださったこともあり、「これ新宿ロフトだよね!」とイメージが浮かぶようなパッケージにしたいというのはデザイナーさんに伝えていました。そういった意味では、デザインとオリジナルコーヒーがちゃんとマッチしたと思います。西新宿時代の新宿ロフトの香りも残しておきたいという思いもあったので、当時から足を運んでくださった方、青春時代を過ごしてくださった方にも喜んでもらえたら良いなと思います。前回、オリジナルマスクを制作した際に80年代、90年代のロックシーンをリアルタイムに聴いていた方にもたくさんご支援して頂いたこともあり、そういった方々にも感謝を忘れたくないなと思っています。
細野:バブルの絶頂で日本は無敵でした。BOØWYの『JUST A HERO』が出た時がバブルの始まりで、あの当時の歌詞は色んなアーティストがそうだけど、ゴージャス過ぎて何を歌っているのか分からないんですよね(笑)。80年代は、めちゃめちゃ日本は勢いあるのだろうけど、どっちに持っていいのか分からないエネルギーみたいなのがそこら中に溢れていましたね。音楽も実験的なものが多かったと思いますし。
樋口:歌舞伎町に新宿ロフトを移転したのは99年で、まさに新宿ロフトは過度期でした。当時の社長が歌舞伎町は西新宿ロフトよりも3倍近く大きい会場だし、今までのやり方だと会場を維持することはできないから、もうちょっとジャンルの間口を広げた方が良いのではとなりました。私の世代から、「新しいものを出してやるぞ!」という意気込みで取り組みましたね。それが00年代で出来たと思っています。00年代で作った基礎が10年代でまた変わって20年代でこのコロナなので、歴史を紡いできた新宿ロフトをコロナに負けじと守っていきたいです。
今回の新宿ロフトのコーヒーブレンドで甘みのパーツを見つけたという感じですね(細野)
樋口:昨年は新宿ロフトの代表がロフトの歴史本や自身の恋愛をベースにしたストーリー仕立ての小説を出版しましたが、その本を読んだ上でのブレンドポイントはありますか?
細野:もちろんありますよ。コーヒーに少し甘みをつけようと思ったのは、代表の方のとても素敵なロマンチック感ですね。リアルを知っているけどロマンチック感はずっと持ってくれればいいなと思いました。
樋口:自分はどんな会社で働いているのかを改めて知る上でも読みました。創業50年もやっている会社なのだということを実感させられましたね。
細野:その歴史本を読んで僕がわかるのは後半の1/3ぐらい。前半のロック黎明期は分からないです。自分がとても憧れていた新宿ロフトは、ページ後半ぐらいだなと感じたんですよね。
樋口:ライブハウスの歴史が1冊の本にまとまることに驚きました。あそこに書ききれてない珍事件はめちゃめちゃあると思うんです。自分が関わった97年から今に至るまで、覚えている限りでもたくさんあるから。あとは代表の恋愛本を読んで、結構ロマンチストな人だということを知るきっかけにもなりました(笑)。
細野:僕も読みながら、「切ないな」って2回ぐらい言いました(笑)。
大人になるっていろんなことを忘れていくのだけど、そういう感情は絶対必要ですよね。そこに、新宿ロフトのコーヒーブレンドで甘みのパーツを見つけたという感じですね。甘みはオリジナルコーヒーに必要だなと、代表の小説で気づけて良かったです。
樋口:代表の書籍やオリジナルブレンドコーヒーは、今回のドネーショングッズに繋がった感じがします。
細野:僕の中には新宿ロフトといえばハードなイメージがすごくありましたが、それは若い頃の刷り込み。それから出身アーティストを見ていても、新宿ロフトに行くという話になった時もやっぱりハードなイメージは東京にもありました。池袋、新宿、渋谷の並びですよね。並びのなんともいえない迫力。そこで醸成されていくものがあって、自分の田舎者の部分が出てしまってつい、「東京ってクール!」だと連想してしまうけれど、あの代表の恋愛本が甘みを出してくれました。隠し味レベルの甘みじゃないと思いますね。
ちょっとしたドキドキ感を味わった時の自分を思い出してもらえたら(細野)
樋口:今回のオリジナルコーヒーは、コーヒーをそんなに飲まない方でも楽しめますか?
細野:いけると思います。飲む人によって印象は変わるんじゃないかな。新宿ロフトに行くきっかけにもなればいいし、応援にもなればいい。今は遠くに住んでいるけど、「昔、行った新宿ロフト!」みたいな人たちが飲んだ時に、涙を流しちゃうのもいいし。 間違いなく日本の文化ですから、やっぱりロフトには頑張ってもらわないと!
樋口:オリジナルコーヒー購入者の方にはどんな風に楽しんでもらえたらと思いますか?
細野:音楽と一緒で、好きに飲んでもらえれば良いのですが、最初にライブハウスに足を踏み入れた時やコンサートに行った時のわかっていないドキドキ感。そういう感情に近いものを思い出してもらえたら良いかな。ライブハウスに行って、チケットをもらってフライヤーをもらって、そういう一連の流れに慣れる時があるけど、一番最初に足を運んだ時って本当にドキドキしますよね。なにが起こるか分からない、どんな味が飛び出すか分からない…みたいな。そういうちょっとしたドキドキ感を味わった時の自分を思い出してもらえたらな。そんなイメージでコーヒーをブレンドしました。
樋口:今回、販売をしているドリップパックやペットボトルをおいしく飲むコツを教えてください。
細野:単純に濃さの調整は、コーヒーの量の多い少ないで出来ると思うのですが、まずブラックで飲んでみて、淹れ方に関しては普通にペーパードリップやコーヒーメーカーで淹れてもらって。ドリップパックは熱いお湯を使ってもらいゆっくり落とす、と。
このコーヒーが皆さまのお手元に届く頃には今より少しでも世の中の状況が良くなっていると良いなと思います(樋口)
樋口:今回は新宿ロフトのオリジナルブレンドコーヒーという形でご支援を募りましたが、私たちは新宿ロフトだけが残ればOKというつもりは全くなくて…。ライブハウス全体がそれぞれの考えや手法を持ってずっと営業してきたので、変わらずに営業をし続けていくために、最大限できる範囲でやらせて頂きました。今回、緊急事態宣言が出た中でやらせてもらっていますが、このコーヒーが皆さまのお手元に届く頃には、今より少しでも世の中の状況が良くなっていてほしいと思います。
細野:音楽をやる人にとって、演奏をしに行く・ライブを観に行く憧れの場所じゃないですか。チャンスの場所こそ元気じゃないと! と思いますよね。
樋口:コーヒーを飲む時にホッとする瞬間ってあるじゃないですか。こんな大変な状況の中でもそういった時間を持ってもらえたらなって思って考案しました。
細野:やっぱり匂いや温度って大事ですよね、音楽も同じで、パンク系ジャンルって、最初は睨みをきかせていて危ない奴らがたくさんいたけど、動き始めるにしたがって、そういったものが全然関係なくなっていく。「すげー、音楽ってやっぱりいいね!」と思いましたね。
樋口:新宿ロフトのオリジナルコーヒーを支援しようとしてくれている方の中で、このインタビューが決め手になる方もいらっしゃると思います。そんな方に最後にメッセージをお願いします。
細野:コーヒーのシチュエーションだけじゃなく…現役アーティストの方や、"解散したけれど僕の中では現役のアーティスト"から、ずっと元気をもらっています。だから新宿ロフトのコーヒーをつくらせてもらうことで、少しでも恩返しができればと思います。今、広島の呉でコーヒー店をやっていますけど、やっぱりあの時のあのパワーはいまだに自分の中でもずっと光っているんです。こんな時代ですけどこういうコーヒーが世の中にあるのだということを知って頂いて、たった一杯のコーヒーですが、そのコーヒーを飲むことによって皆さんのパワーが宿ればと思います。コロナを越えて、今度はぜひ満タンの新宿ロフトに拳を振り上げに行きたいです。
細野 修平(ほその しゅうへい)プロフィール 株式会社昴珈琲店代表取締役 1959年に両親が創業した昴珈琲店とともに、「コーヒーのある空間」で育つ。 大学在籍中に、単身ブラジル、ジャマイカ、ハワイのコーヒー農園で研修、従事し、ニューヨークでコーヒー相場について学ぶ。 基本を大切にしながらも、常に「独創性」を大切にし、日本人のためのコーヒーを念頭に今日に至る。 また、世界中のコーヒー生産国へ赴き、現地にて視察、カップテストを繰り返し、鋭い視点で現地の人々とセッションを行っている。 各生産国のコーヒーに関する資格を所有しているが、一昨年、日本国内で最も難易度が高いとされている「J.C.Q.A.コーヒー鑑定士」(日本で36名在籍・2020年1月現在)の資格を取得し、コーヒー生産国の情報や生豆鑑定、焙煎、品質管理、商品設計における全ての分野に精通する知識と技術が認定された。