SEX出来るということは奇跡的なこと
──『葵ちゃんはやらせてくれない』を観る前はもっとコメディ色が強い作品かと思っていましたが、青春が想像よりも強く油断して泣きそうになりました。
いまおか:それは油断しましたね(笑)。
──今作のアイデアはもともと温めていたものだったのでしょうか。
いまおか:2014年に『川下さんは何度もやってくる』という作品を撮ったんですけど、今作の川下先輩も同じ方がモデルになります。その方は僕の大学時代の先輩で40歳ころに亡くなった方ですが、先輩をモデルとして出した映画をもう一度違う形でやれないかなと思っていました。「死者が甦ってきて、その人が何とかして女の人とSEXしたいと戻ってくる」という基本設定は同じになります。死者が甦ってくるという設定自体が大嘘なので、そこにどう嘘を重ねても大丈夫ということでタイムリープする形にしました。あとは、音楽ものにしてみようという思いもありました。シンプルな話なんだけど楽しめる要素はいっぱい入れたいなということで、こんな話にしました。
――学生時代の実体験も盛り込みつつ制作されたということでしょうか。
いまおか:僕も映研だったので、昔の記憶を掘り起こして。
──男の夢を叶えるために奔走するというお話しですが、小槙さんは脚本を読まれていかがでしたか。
小槙:タイムリープするというのは王道の物語ですけど“SEXをするために”というワードがぶっ飛んでいて驚きました。そこはぶっ飛んでいるワードですが、お話自体は川下さんやみんなの思いがしっかり描かれていて、どんどん変化していく姿を見ていくのは面白かったです。
──いまおか監督は小槙さんに対しどういう印象を持たれてヒロインとして選ばれたのですか。
いまおか:オーディションで会った時に小槙さんはこの作品には凄く合うと思ったんです。表情が豊かな方で、それを見て撮影を通して何かしらつかんでくれるんじゃないかと思いました。
──葵はどのようなキャラクターをイメージして作られたのでしょうか。
いまおか:抜けているところもあるしどこが魅力かというとはっきりとは言えないんですけど、なぜかみんなから好かれてしまうそういうキャラクターですね。
──実際に居ますね、そういう方。
いまおか:何なんですかね。柔らかく、人を受け入れるということなのかもしれないですね。葵ちゃんはそういうキャラクターのつもりで演じてもらいました。小槙さん自身はそうか分からないですけど。
──小槙さんにそういう魅力を感じるのはわかります。
小槙:私のこと、よく解らないですか(笑)。
──小槙さんは葵をどういう風に捉えて、アプローチをされましたか。
小槙:撮影に入る前に私の中で色々考えていった部分といまおか監督から求められた部分で違ったところがあって、現場でガラッと変えたところもありました。演じていくうちに純粋さもそうですが、人を思う気持ちを大事にしている子だなと思いました。私も人が好きなので、その部分をリンクさせて演じていくことを意識しました。
──自然体で向き合おうとされたという事ですね。
小槙:そうですね。共演者のみなさんから受けるものを大事にしようとしていきました。
──共演者の存在も大きかったですか。
小槙:凄く大きかったです。
──松嵜(翔平)さんや森岡(龍)さんはどのような方でしたか。
小槙:松嵜さんは独特の雰囲気が役とマッチされていて、信吾そのままの印象でした。森岡さんは現場を見てくださる方で、二人のシーンが多かったこともあって演技のアプローチの仕方なども積極的に相談させていただきました。
──おっしゃる通り、お二人の雰囲気はそれぞれのキャラクターにあっていました。
いまおか:川下先輩はワガママばかり言うしめんどくさい先輩なんですよね。だけど、信吾は先輩がなぜか好きという不思議な関係性で。川下先輩と葵ちゃんは好き同士ですけど、なぜかうまくいかない。
──そうですね。
いまおか:普通は好き同士だとスグ付き合えると思うじゃないですか、でも現実はそうじゃない。好き同士でも何かがすれ違ったらSEXはできない。SEX出来るということは奇跡的なことだと思っているんです。だから、SEXに至る過程はなるべく安易にならないようにはしました。
──私は葵ちゃんと川下先輩というヒロインが二人いる感じで観ていました。
小槙:なんとなくわかります。
──葵ちゃんがファンという設定で三上寛さんが本人役で出られていますが、どういった経緯でご出演に至ったのですか。
いまおか:若者ばかりの作品なので、違う世代の方にも出てもらった方がいいんじゃないかなと思ったんです。そんな中で伝説のミュージシャンが出るのはどうだろうという案が出て、三上さんなら他の映画にも出ているのでもしかしたら出てくれるかもという事でオファーさせていただいたら快諾いただけました。
──小槙さんは実際に会われていかがでしたか。
小槙:凄くカッコいい人だなと思いました。歌を生で聞かせていただいたんですけど、歌に生き様が込められているようで、圧倒されました。上手いだけでなく、重みがあるように感じました。
いまおか:凄い方なのにこういった作品にもひょいっと出ていただけて、三上さんのフットワークの軽さにシビれました。こういう仕事を切っ掛けに憧れの人に会えるというのは嬉しいですね。

テーマは高尚に、やることはくだらなく
──葵ちゃんは軽音部に所属していて音楽活動をしているキャラクターですが、小槙さん自身は以前からギターはされていたのですか。
小槙:全くしていなかったです。役が決まってから練習しました。
──オーディションの段階で歌を歌うということはお話しされていたのですか。
いまおか:そうですね。オーディションでは音楽をやっているという人もいましたが、そこはあまりこだわらなかった。振りでもいいかなと。それでも小槙さんにはかなり練習をしてもらいました。
小槙:オーディションで歌はなかったので大丈夫かなと思いました。色々とフォローしていただいて、何とかやりきることができました。
いまおか:何とかなるだろうと。小槙さんを信用してました。
──作詞をいまおか監督が担当されていますが、監督兼作詞家が目の前に居るというのは緊張しませんでしたか。
小槙:そういう面での緊張はなかったです。葵自身の思い出を歌にした楽曲だと感じたので、撮影での思い出を投影することを意識しました。
──いまおか監督は小槙さんの歌を聞かれていかがでしたか。
いまおか:いい歌だなと思いました。ストリートミュージシャンに見えましたよ。
小槙:ほんとですか。
いまおか:ゾンビにならなければいけないし、歌をやらなければいけないし、いろいろ要素が多いですけど頑張ってくれていました。
小槙:初めての経験が多くて楽しかったです。
いまおか:振り付けも現場で森岡君と二人で考えてもらったんです。急にその場でお願いしたら二人とも驚いてましたけどね。
小槙:そうなんです。いまおか監督にもアイデアをいただいて作っていきました。


──撮影現場で言われたことで印象に残っていることはありますか。
小槙:カニです(笑)。
いまおか:そんなに印象に残ってるんだ。
小槙:川下さんと意味深な会話をした中で、カニの真似をするんです。「悲しい部分でお茶らけると悲しみがグッと上がってくる」という事を伺ってそうかもしれないと思いましたが、最初にやった時は大丈夫か不安でした。O.K.をいただけたので安心しました。
──そうですね。現実でも緊張感がある時や不安な時にお茶らけてしまうことがあるので、その気持ちをリアルに表現されているいいシーンでした。
小槙:ありがとうございます。
──本当に今作はいまおか監督の思いが込められた作品だなと、お話を伺い改めて感じました。
いまおか:僕は本当に個人的な趣味で作っちゃったなと試写で観直して改めて思いました。
──個人的な趣味というのは。
いまおか:現場で川下先輩が信吾の事を「シンちゃん、シンちゃん」と呼びますが、僕も実際にシンちゃんと呼ばれていたので、ただその言葉を聞きたいがためにそういう設定にしました。
──信吾の名前はいまおか監督のお名前からなんですね。
いまおか:映画を撮るということはどんな作品でも理由があると思うんです。僕はその理由の一つに“いろんな制約の中で、少しでも好きなことをやれたらいい”というのがあります。僕とモデルの先輩の思い出があって、それを自分だけが持っているのはもったいない、嫌だなと思っていたので、その思いを今回の映画には反映しました。物事を残していくということは伝えていくという事だと思うんです。体験した人だけじゃなくて、伝えることで追体験してもらえると世の中が豊かになるのかなと思っています。
──そうですね。お話しを伺って作中でもある「結局未来は変わらない」という部分にいまおか監督の悲しさが投影されているなと感じて、今作がコメディである理由が何となくわかった気がします。
いまおか:深刻にやると観るのも創るのも辛くなりますから、観る敷居は下げたかったんです。「真実は直接目にすると太陽を見るのと一緒で目が焼けてしまう」と誰かが言っていたんですけど、だからこそユーモアでくるんで出す。それがフィクションの良さで、それだからこそ本当のことが言えるんだと思います。テーマは高尚に、やることはくだらなく、それはずっと心がけています。
──川上先輩と葵ちゃんの恋愛はもっと上手くいく展開にしてもいいのではと思ったのですが、あの結末にしたのは何故ですか。
いまおか:タイムリープして簡単にうまくいったら面白くないですし、人生はやり直しても上手くいかないという思いからですね。上手くいかなくても何か別のことを得ることが出来るとは考えています。願いが叶うという事も大事だけど、それ以外の事で世の中はいっぱいできているから大丈夫だよという事ですね。
──精神的なつながりという意味では強くなっていますからね。小槙さんはあの結末をどう感じられましたか。
小槙:葵ちゃんの中での川下先輩の存在が大きくなったというのと、川下先輩の中でも後悔はないのかなと思います。気持ちは凄く繋がってお互いの存在感が変わったので、可哀想や残念だったなというマイナスな感情はないです。
──最初に願っていた以上のものが叶っていますよね。
小槙:そうですよね。
いまおか:最後に信吾が「俺が代わりにやる」となるじゃないですか。それは意味ないと他の人から見たらなるかもしれないですけど、亡くなった人がやれなかったことを代わりにやるというのはあるなと思ってこのシーンに入れました。お父さんが志半ばで倒れたら息子が後を継いでとか、生き残った人が亡くなった人の意思を継ぐという気持ちは解ります。
──そうですね。近い人だと余計にその思いを繋いでいきたいという気持ちになりますから。
小槙:そういう気持ちが生まれるものなんですね。
──熱い話をありがとうございます。それを伺うと映画の見方も変わってきますね。
いまおか:僕の個人的な思いを盛り込んでいますが、楽しんで観ていただけると嬉しいですね。
