
都内でも有数の“美食スポット”であり、注目の鮨店が増える麻布十番に、これまた気鋭の一店が2025年5月1日にグランドオープンした。〈みつい〉店主の三井祥さんは、〈ヒルトン東京〉で日本料理の基礎を学びながら、ふぐの調理免許を取得。

空間は、京都を拠点に多くの店舗デザインを手がける杉原明さんがプロデュース。白木の変形カウンターは付け台との距離が近く、付け場での所作を間近に鑑賞できる。2段の高さに組んだ網代天井に用いられているのは、ぬくもりのある竹と杉。親密感を生み出すために、あえて天井をやや低めにした。

女将の三井美紀さんは、沖縄県出身。日本の酒文化をこよなく愛し、店主の三井さんと共に握りにぴったりなペアリングを提案する。炭火焼きの一品料理やデザートを手がける料理長の君波真吾さんは、イタリア料理の名店で修業した経験もあり、三井さんとは幼馴染。このチームワーク完璧な3人が店を切り盛りする。
“おまかせコース”(2万7500円)は、5品程度のつまみの後に、12貫から13貫の握りが提供される流れ。長野県産のコシヒカリをはじめとした高地栽培の米を羽釡で炊く。

数ある鮨ネタの中でも、特筆するべきは小肌。“魚の目利きと魚体を見極めた仕事”を大切にする三井さんは、同じ魚でも個体によって“最適な仕事”を施す。小肌の脂の質や量によって、4段階に分けて丁寧に塩を当てるのは匠の技。はつらつとした酸と脂の旨味が見事に重なり合う。包丁の入れ方が美しく、小肌の幽香が開き、快味も倍増する。
この後は、取材時のコースの流れに沿って紹介しよう。



最初のつまみは真鯛。アサリの出汁と合わせて繊細な上味に仕上げ、花山椒が心地よいアクセント。福井県の蛍烏賊は、“名残”なので肝もしっかりとしている。炭火で串焼きにしているので、味わい深い。造りは甘海老と虎河豚。
ノドグロは炭火で焼いて、シャリと混ぜて食べる“焼き鮨”スタイルに。ノドグロの餡もこれまた妙味なので、木匙ですくって食べるのがおすすめ。千切りにした宮崎県の“みやざきワンタッチきゅうり”が、軽快なシャキシャキ感を演出する。
ここからが握り。三井さんはリズムやメリハリを大切にし、食感と味の変化で飽きさせないように工夫している。

神経締めしたあおり烏賊は甘く、包丁を丁寧に入れて、なめらかでしなやかなテクスチャーに。小樽のシャコは軽く炭火で炙って殻の香りを移した。やわらかな身と甘すぎない“煮詰め”が白眉。



本鮪は一本釣りした神奈川県の三崎産で、鮪仲卸の雄〈やま幸〉から仕入れた。152キロというまずまずの大きさで、脂は慎ましやか。中トロ、赤身、大トロと3貫続けて本鮪を握っていく。中トロは能登の藻塩をのせて、その旨味をシンプルに引き出した。赤身は握る直前に軽く漬けて、鮮味が感じられる絶妙な加減に。大トロは厚めのサイズで、口の中で脂の妙妙たる味わいを、たっぷりと堪能できる。

蕎麦の実のスープは、蕎麦の実が入った滋味にあふれた一品。ナガスクジラは25メートルもの巨躯で、脂を讃えた肉のような重厚感となっている。コリコリとした食感と酢橘の香りが豊かな北寄貝が続いて、ちょうどいいバランス。
車海老は、味噌がある頭にはしっかりと熱を入れ、食べ応えのある味わいに。パリっとした広島県の海苔で巻いた雲丹の軍艦は、重層的に磯の香りが広がる。


神経締めした長崎県対馬産の穴子はシャリとの一体感が抜群で、口福で満たしてくれる。
三井さんは酒ディプロマの資格も保有する。ほかでは味わえない日本酒に出合えるから、7杯のペアリング(7700円)を合わせておくのがおすすめ。

“七本鎗 スパークリング 日本酒 awaibuki”は、瓶内二次発酵の“スパークリング酒”。アルコール分は7度と低めで、甘酸っぱい味わいが、最初の一杯やつまみにぴったり。女将のルーツを汲んで、前割りの泡盛を提供。割ってもアルコール分25度とまだ強いので、濃厚な酒肴に心地よいパンチを返す。軽やかな甘味をもつのが、微発泡酒の“narai kinmon”。ハーブのようなニュアンスもあって、なかなか個性的。“伊根満開 古代米酒”は、濃厚で甘酸っぱい味わいが広がり、赤ワインのような深みを有している。ナガスクジラとの相性が抜群で、赤身魚に負けていない。
開業して間もないけれど、食通たちの間で話題を席巻している〈みつい〉。
INFORMATION
●みつい
住所:東京都港区麻布十番3-10-2 THE CITY 麻布十番 LIBERTA5F
営業時間:17:00~21:00最終入店
定休日:日曜、不定休
TEL:03-4400-3023
URL:https://omakase.in/ja/r/ng595754
※サービス料別
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文=東龍 text:Toryu
1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口でわかりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。