――まずは企業や製品のブランディングが重要ということですね。

 「エコブランディング」は、急成長する中国市場においても日本企業が打ち出していくべき重要な企業戦略だといえます。
「環境ブランド」を制する者が中国市場を制する時代が到来しているのです。

 日本企業は自動車、電気製品、事務機器、デジタルカメラ、ゲーム機、化粧品、飲料などの分野で、すでにブランドイメージを確立しています。このブランドを強化する上で、さらに積極的に中国の消費者に対して環境に優しいイメージを持ってもらう必要があります。

 今後、BtoCにおける環境ビジネスの持つ意味は特に重要となっていきます。2007年9月訪中した御手洗氏は、温家宝総理との懇談を通じ、「エコプロダクツの普及や幅広い分野での日中協力の推進」を発言しています。「エコプロダクツ展」を中国でも開催し、日本の環境技術や環境製品の凄さを大々的に宣伝する機は熟しているのです。

――にも関わらず、日本の環境ビジネスは決して順調に進んでいるとはいえません。

 「良い物を作れば自ずと分かってくれる」という、「ハードに強く、ソフトに弱い日本人」的メンタリティが妨げになっているのでしょう。海外企業は、中国とのビジネスの進め方でも「売らなきゃもうからない」と、非常に合理的に考えて対応しています。ある意味、日本は真正直すぎるのですね。

 「中国は信用できない、先端技術を中国に持っていくと盗まれる」という固定観念や被害者意識も問題です。日本企業の知的財産を中国に持っていくと必ず盗まれてしまうという「神話」を信じている人々のほとんどが、実は中国とのビジネスをしたことがない人だといえます。


 確かに盗まれたとか盗んだという事例は山ほどあり、環境でも「どうせ協力しても微々たるもうけのために被害は甚大だ」という話を聞くこともあるでしょう。ところが、技術というのは賞味期限付きの食品のようなもので、今売らないと2年後にはもう誰も買ってくれないということが結構あるのです。中国に行ってリスクを冒して商売するのは大変だと思った次の瞬間に、実はビジネスチャンスそのものがなくなってしまうのです。

――環境ビジネスの成否は、いかに「時機」をとらえるかにかかっているのですね。

 環境に関する技術や製品を有しているだけではなく、どういうタイミングでどのような製品を売るかという戦略をもって適切に実行していくことが重要です。中国の政策の流れや市場の動きを常にフォローし、将来を先読みして戦略を立てていかなければなりません。

 中国には、2000を超えるシンクタンクがあるほどの勉強好きの国です。実行に移すのに時間がかかる時もありますが、中国政府は「聞く耳」を持って情報収集をしています。日本側からも情報をどんどん発信しないといけません。

 飛行機で2~3時間の隣国で、日本企業を待っている中国企業が実はたくさんあります。「今の環境基準だとクリアできないので、このままだと販売ネットワークはあってもつぶれてしまう」とか、「誰か日本の企業で助けてくれるところはないか」とか。ところが、日本企業は、知らない人から連絡を受けてもすぐには連絡しません。
そうすると次の瞬間に彼らは、日本企業を素通りして欧米の企業に行ってしまうのです。

 「環境ビジネス」とは、ただ単純に「環境関連技術や製品を売ろう」ということだけではなく、「環境」を切り口にして多くの日本企業や製品を中国市場で売っていくことをいいます。環境に配慮した技術や製品を通じて消費者のよりよい生活を提供するという、「モノではなく価値を売る」ことで日本企業の存在感を一層高めていくことに他なりません。

 写真は川崎国際環境技術展で基調講演をする阿部孝夫川崎市長。(情報提供:ウェネバー)

環境ビジネスの視点1:日中環境ビジネスを成功に導く8つの提言

「環境ビジネス」の切り口は通常のマーケティング活動と大差はない。ときには日本企業の中国に対する考え方や企業活動のあり方を見直すことが必要だ。

1.もはや改革開放初期ではない。中古の技術では通用しない。発想を転換せよ!

2.中国政府の政策動向にもアンテナを張り、情報収集力を研ぎすませ!

3.新しい中国人消費者像を的確に把握し、彼らの共感を得るために努力せよ!

4.技術力や品質ではなく、よりよいライフスタイルとしての価値を語れ!

5.競合がいることを忘れず、中国政府と消費者に新しい情報を常に発信せよ!

6.説得力を磨き、中国の利益にリンクするように思わせる「エッジボール」を打ち込め!

7.「井戸を掘った人を忘れない」は虚構ではない。粘り強く継続すれば実を結ぶ!

8.ありのままの中国をリアルタイムで語れる日中ビジネスの専門家を起用せよ!

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青山 周(あおやま めぐり)氏

社団法人日本経済団体連合会 国際第二本部 アジアグループ長、慶応大学経済学部卒業後、1982年に経団連事務局入局。経済、産業、国際部門を経て、2002年地球環境グループ長。上海復旦大学で留学経験もある。

専門は、中国経済、日中経済関係。研究テーマは中国環境ビジネス。『中国環境ビジネス』(2008年)、『環境ビジネスのターゲットは中国・巨大市場』(2003年)をはじめ著書多数(中文版が中国清華大学から出版)。日中環境ビジネス最前線の先駆者として、現在両国政府と業界から注目を浴びている。

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