(23)「耳を刺す」イヤな音
前回の「目障り」「耳障り」、中国語ではどう表現するのかなと考えていて、ふともう30年以上も昔のことを思いだした。
北京で日本語を教えていた頃の話。
「耳を洗う」「耳を疑う」「耳を傾ける」「耳を塞ぐ」……、耳をどうこうするという慣用表現は数多くあるが、「耳を刺す」という日本語はないような気がする。
中国語の「刺耳」をそのまま日本語に置き換えたなと、すぐに「耳を刺す」の出所を察することができたが、「そんな日本語はないよ」と訂正してしまうのは惜しいようなうまい表現だと、感心させられたものである。
この「刺耳」、きんきんした声や音のような物理的なものについてだけでなしに、「刺耳的話」のように話の中身についても使う。この点でも日本語の「耳障り」にピッタリ対応している。
「耳障り」が「刺耳」、つまり「耳を刺す」なら、「目障り」は「刺目」、つまり「目を刺す」か。「まさか」と言いたいところだが、その「まさか」なのである。もっとも、「刺目」よりも、より多くは「刺眼」を用いる。こちらは、ギラギラした光線やけばけばしい色彩などに使うのが主で、「目障りなやつ」のように人物について用いる場合は、「不順眼」を用いる。
(24)キザは「気障り」の略語
「目障り」「耳障り」のほかに「障り」の付く語があるかというと、あまり思いつかない。「気障り」「心障り」くらいだろうか。
もっともこの2語も、文学作品などでは目にするが、耳にすることは少ない。
ただ「気障り」の方だけは、いつ頃からそうなったのかは知らないが、「気障」と縮められた形で頻繁に使われている。
「気障」と書いて「きざ」と読む。キザなどと片カナで書かれたりすることが多いので意外に知られていないが、「気障」は「気障り」の縮略語である。「きしょう」と読んだ人を知っているが、名は伏せておく。例の総理大臣ではない。
(25)「手触り」「足触り」
もう一つの「手触り」「肌触り」の方はいろいろありそうだが、こちらも意外に少ない。
「歯触り」「舌触り」「口触り」……、思い浮かぶのは味覚や食感に関する語ばかりだ。
「手触り」に対する「足触り」は確かにあった。子供の頃、祖母が「この畳は足触りがいい」のように使っていた。辞書で確認してみたら、似たような例が挙がっていた。ついでに「畳触り」という語があることを知った。「畳触り荒き足音」のように挙惜の荒々しいさまをいうのに使うらしいが、もう死語だろう。
(26)歯触り・舌触り・口触りーどう違う?
「歯触り」「舌触り」「口触り」を中国語でどう区別するのだろうかと辞書に当たってみたが、いずれも「口感」「口味」「味道」などで、はかばかしい成果は得られなかった。
こちらは食感を表す形容詞だが、或いはさくさくした食感をいう「脆」あたりが「歯触り(がよい)」に相当するかもしれない。(執筆者:上野惠司)
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