学習以外での電子機器使用について、「1日当たり累計1時間を超えないことが望ましい」――中国政府が8月30日に発表し、即日施行された「児童・青少年の近視予防実施方案」は、2030年に小学生の近視率を38%以下に抑えるという目標を掲げた。この目標実現のために「敵」と目されているのが、オンラインゲームだ。
8月31日には近視予防政策の一環として国家新聞出版署が「オンラインゲームの総量コントロール」を実施する方針。新作オンラインゲームの配信件数、未成年の利用時間などが規制されるという。規制内容そのものは、未だ明らかにされていないが、騰訊テンセント)など中国のオンラインゲーム業界をけん引してきた企業は、その対応に躍起になっている。

 さっそく、テンセントは9月6日、人気ゲーム「王者栄耀」に厳格な実名登録制度を導入すると発表した。新規ユーザーが最初にゲームを始める際、政府公安部門のデータベースに接続してチェックを行い、未成年かどうかを判断し、未成年の場合はプレイ時間を制限する仕組みだ。9月中にすべての新規ユーザーのチェックを行う予定という。

 対戦型ゲームの「王者栄耀」は2015年11月にリリースされ、ダウンロード数は2億突破と発表され、月間アクティブユーザーは最高で1億9900万人を記録した。その人気は社会現象にもなり、人民日報が「王者栄耀」を「負の影響ばらまく毒」と名指しで批判したこともあった。その時の記事によると、13歳の少年に親がゲームをやめさせようとしたところ、少年は『王者栄耀』のキャラクターのように空を飛べると思い込んで建物から飛び降り、両足を折る事件が起きたというもの。

 このような批判の高まりを受け、テンセントは17年6月に「健康系統(健康システム)」と呼ばれる未成年規制を導入。「王者栄耀」の1日当たり最大プレイ時間について、18歳未満のプレイヤーは最大でも2時間(12歳以下なら1時間かつ、21時以降翌朝8時までログイン不可)に制限した。制限時間を超えると、プレイヤーは強制的にログアウトされるようにしている。


 ただ、この独自規制については、登録時に親のIDを使うなどによってゲーム用のIDを作って遊ぶ子どもがいるなど、実効性に疑問を持たれてきた。今回のテンセントの発表は、本人確認について、より厳格なチェックを行う仕組みを取り入れるようだ。

 「王者栄耀」だけでなく、テンセントは他のゲームについても公安部門のデータベースによるチェックを導入していく方針。未成年保護のための新技術開発は継続していく考えだ。

 教育部、国家衛生健康委員会、国家体育総局など8部門は、近年、国内で子どもの近視率が高水準で推移しているほか、近視の低年齢化が進んでいる現状を憂慮し、国を挙げて近視率の引き下げに努める方針を示した。

 具体的な数値目標は、2023年までの期間、児童・青少年の近視率を毎年0.5ポイント以上引き下げる方針。また、年齢別の近視率について、30年に6歳児で3%前後、小学生で38%以下、中学生で60%以下、高校生で70%以下に抑える考えだ。そのための対策として電子機器の使用に関し、学習以外の使用で1回当たり15分、1日当たり累計1時間を超えるべきでないとしている。

 ただ、人民日報は9月4日の記事で「防ぐべきはのめり込みであり、ゲームではない」という記事も出ている。ゲームについては「eSportsとしてアジア大会正式競技にまで成長している」「全てのゲーム運営を取り消すのは現実的ではない」とし、総量規制についても「より客観的かつ合理性をもった細かな管理体制をもって臨むべきだ」とくぎを刺した。今後、どのような規制が発表されるか注目される。

 なお、教育部が14年に発表したデータによると、子どもの近視率は小学生で45.71%、中学生で74.36%、高校生で83.28%だった。
北京大学は15年発表のリポートで、このまま有効な対策が実施されなかった場合、20年には5歳以上の人口で近視率が51%前後まで上昇すると警鐘を鳴らしている。

 また、少し古いデータになるが、中国共産主義青年団中央青少年権利保護部、中央社会治安総合管理委員会青少年犯罪予防活動指導グループ弁公室、及び、中国青少年研究センターが2009年に実施した共同調査研究によると、都市の6歳から29歳までの青少年に占める「インターネット依存者」の割合は14.1%で、全国の都市の青少年の依存者は約2404万人と推定された。非依存の青少年の中でも、依存には至っていないが依存傾向にある者は12.7%で、約1858万人と推定している。

 年齢別の依存者の割合は、6歳から12歳が8.8%、13歳から17歳が14.3%、18歳から23歳が15.6%、24歳から29歳が14.6%である。全体の青少年の平日(月曜から金曜)の1日平均のインターネット利用時間(仕事及び学習のための利用を除く)は約80分で、60%近くは1時間以内だが、6時間以上の者も2%おり、重度の依存者の平均利用時間は135分であった。

 この調査で「インターネット依存者」は、キンバリー・ヤングのチェックリストを参考に実施され、(1)インターネットを利用していない時はいつもそのことを考えている、(2)より多くの時間をインターネットに費やさなければ満足できない、(3)インターネットの時間と頻度を減らそうと思うが、できない、(4)インターネット利用時間を減らすと、何をすべきかわからず焦燥感にかられる、(5)気分の良くない時や緊張している時に真っ先に思いつくリラックス方法はインターネットの利用である、(6)家族にインターネットの利用時間等でうそをついたことがある、(7)インターネットの利用は、自分の学習や生活に明らかに悪い影響がある、(8)予定より長くインターネットを利用してしまうことがよくある。このうち該当する項目が5つ以上あり、かつ、(6)から(8)の中に1つでも該当する項目があることとした。(イメージ写真提供:123RF)


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