投資の神様・バフェットも目をつけた「21世紀の商社」のパワー...の画像はこちら >>

世界で最も有名な投資家のひとりであるウォーレン・バフェット氏は2020年から日本の五大商社に本格的に投資。今年4月には、投資比率をさらに高める方針を明らかにしている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「21世紀の商社」について。

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「マンガかよ」。就職活動を控えた大学生のころ、いわゆる青田買いの一環で、商社勤務のOBらとの食事会があった。私もまわりも慣れないスーツで大阪・梅田の堂島に向かった。

先輩は「社内の女性と遊んでも、そのうち海外勤務になるので自然と縁が切れて都合がいい」と教えてくれ、帰り際には道路に飛び込み、体を張ってタクシーを停(と)めていた。「さあ二次会に行こう」。その姿はまるでマンガか冗談のように感じた。このモーレツな仕事で高給なのは当然でも、私には無理だと思った。

しかし印象的だったのは、誰かが「商社冬の時代といわれるが」と先輩に訊(き)いたところ、「そんなの数十年前からいわれてるよ」と呆(あき)れて答えた場面だ。そう、日本特有といわれる総合商社は、時代遅れといわれ続けながらも、ずっと輝いている。

社員も高給のままだ。

先日、大手商社の2023年3月期決算が相次いで発表された。それぞれ最終的な当期利益は、三菱商事1兆1807億円、三井物産1兆1306億円、伊藤忠商事8005億円、住友商事5652億円、丸紅5430億円。三菱商事、三井物産は初めて1兆円を超え過去最高になった。

また有名ヘッジファンドを運営するウォーレン・バフェット氏が2020年ごろから日本の五大商社の株式を取得していることから、氏の先見の明を称賛する報道ともセットになった。

利益トップだった三菱商事は、その理由にエネルギー関連事業の貢献を挙げ、オーストラリアの原料炭事業や欧州のエネルギー事業の好調さを喧伝(けんでん)している。

さらに重要な投資案件として炭鉱開発、銅資源、シェールガス開発を紹介している。

三井物産もやはりエネルギーセグメントを好調の理由としている。もちろん各社の違いはあるが、私たちが古臭いイメージとして持っている「国内顧客へ御用聞きをして海外から商品を輸入する」ような商社像は、もはや現実とはそぐわない。

現在の商社は、エネルギー事業などに多額の投資をしたり、海外企業の経営に参画したりしてインカムゲイン(配当による利益)やキャピタルゲイン(資産価値の上昇による売却利益)を狙うモデルだ。

名前は「商社」(=海外貿易や国内取引媒介業)となっているが、実際には商売自体の利益よりも投資先からの配当金が利益の多くを占めており、「売買など商売もやっている投資銀行」に近い。

そして、投資先が着実な利益を上げるように徹底した管理をしている。

満足できなければすぐに投資分を売却か清算する。

経済学者のトマ・ピケティは資本収益率が高い世界の実像を証明し、労働よりも資産運用による富の増殖を指摘した。

商社はまさに、商社マン・ウーマンに世界を徘徊(はいかい)させつつも、そこで人的労働をするのではなく、見つけた投資先への出資で利益を上げるモデルとなっている。『21世紀の資本』ならぬ「21世紀の商社」。

ところで現在、防衛予算の倍増が話題になっている。日本にそんな金ねえよ、と。

ただ、トヨタ級の企業が何社かあれば法人税で賄えると発想したらどうか。海外に投資してそのリターンで儲ける、日本の商社はその未来像では? 高給で女遊びが激しくても防衛費を賄ってくれるならいい。でもタクシーに轢(ひ)かれぬよう気をつけろよ。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。

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写真/時事通信社