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3月1日付けでダイハツ工業のトップに就任した、トヨタ出身の井上雅宏社長。4月8日の記者会見では、認証不正問題からの立て直し案や事業方針などを語った

自滅ともいえる認証不正問題により、2023年度の軽の新車販売で18年ぶりに首位陥落となったダイハツ。

ここにきてようやく国内の全モデルが出荷再開に。気になるのは名門復活への道筋だ。不正問題で失った信頼を日本最古のクルマ屋はどう取り戻すのか? 

■コペンの生産再開で国内の工場はフル稼働

4月19日、国土交通省は出荷停止の指示を出していた「ムーヴキャンバス」など3車種について基準の適合や安全性などを確認できたとして、出荷停止の指示を解除した。この指示が出たことによりダイハツは、不正問題が発覚する前に生産していた国内27モデルの出荷が可能になった。

さらに5月7日には軽スポーツカー「コペン」の生産を本社工場(大阪府池田市)で再開する。これにより昨年12月下旬から稼働停止状態に追い込まれていた国内4つの工場が約4ヵ月半ぶりにフル稼働となる。現在、生産や出荷の状況はどうなっているのか?

「部品メーカーや販売会社などと連携し、準備ができ次第、順次生産や出荷を再開します。

安全・品質を最優先することを再徹底した上で、お客さまに一日でも早くお届けできるよう努めてまいります」(ダイハツ)

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?
5月7日にはダイハツが誇る軽のオープンスポーツカー・コペンの生産がダイハツの本社工場(大阪府池田市)で再開される

5月7日にはダイハツが誇る軽のオープンスポーツカー・コペンの生産がダイハツの本社工場(大阪府池田市)で再開される

だが、明治40(1907)年に創業したニッポン最古の自動車メーカーであるダイハツの、完全復活に向けた道のりは決して容易ではない。

全軽自協(全国軽自動車協会連合会)によると、2023年度の軽の新車販売台数でダイハツは18年ぶりに首位から2位へ転落。軽の国内新車販売で3割超のシェアを誇った"絶対王者"だったが、その座をスズキに明け渡してしまった。

ご存じのように昨年12月20日にダイハツは生産・出荷の停止を決定したわけだが、その代償はマジでハンパなかった。全軽自協によると、今年1月は前年同月比62.2%減、2月は前年同月比81.6%減。実は2月から一部車種の生産と出荷を再開したのだが、3月も前年同月比77.1%減と地獄のような数字が躍った。

とはいえ、23年度の軽の新車販売ランキングでは、主力モデルのタントが3位! ムーヴとミラが5位と9位にランクインしている。さすがは17年連続で軽トップシェアに輝いた名門ブランドである。

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?

だからこそ、今回の国内27モデルの生産・出荷の再開は反撃ののろしになりそうだが、ダイハツ関係者はため息交じりに首を横に振る。

「販売店からは『顧客や取引先の信用は失墜した』『顧客の信頼を取り返せるかは不透明だ』という非常に厳しい声が届いている。シェアどうこうの前に、まず地に落ちた信頼をどこまで回復できるか」

販売店にとっては生産・出荷停止のタイミングが最悪だったと指摘する声も。

「販売店は怒り心頭ですよ。

何しろ初売りや3月の決算セールは売り時稼ぎ時。ところが、例年なら年末年始に大々的に流すテレビの初売りCMも自粛。売るクルマもなく、何ヵ月も開店休業状態が続いていたわけです。言うまでもありませんが、これではおまんまの食い上げです」(自動車誌幹部)

週プレも販売店をいくつか取材してみたが、恨み節とボヤキ節のオンパレード。そんな中で、中堅のセールス担当からはこんな意見が。

「隣接するライバル店の決算セールが大盛況で(苦笑)。

その姿を指をくわえて眺めているのはキツかった。これからは売るクルマがあるので営業にも身が入りますが、新経営陣には世間に広がった不正や闇落ちのイメージを一刻も早く払拭してほしい」

■ダイハツの切り札は軽EV

新生ダイハツを率いるのは、親会社であるトヨタの中南米本部長を務めた井上雅宏社長だ。再起の具体的な道筋はどうなっているのか? 前出の自動車誌幹部が言う。

「新生ダイハツはトヨタグループの中で、いかにその強みを発揮できるかが問われています。今年2月にトヨタの佐藤恒治社長は、『ダイハツの原点は国民車である軽自動車。良品廉価なクルマづくりは本来のダイハツの強み。その原点に立ち戻り会社をつくり替える覚悟で、ダイハツらしさを取り戻してまいりたい』と指針を提示しています」

そんな中、4月8日にダイハツは新たな経営方針を発表した。

会見では、今後、小型車の事業に関しては、親会社であるトヨタが開発から認証までの責任を持ち、ダイハツはその委託を受ける形に切り替えるという。つまり、ダイハツはトヨタグループの軽自動車部門を担うという話だ。

「会見でダイハツの井上社長も軽を中心に据えたモビリティカンパニーを目指すと掲げていました。その上で、将来的には軽EVへのチャレンジを宣言。軽EV市場は日産サクラが独占している状況ですから、そのシェアを狙うのは当然です」(自動車誌幹部)

軽EV市場は風雲急を告げている。実は3月15日にホンダと日産がEVの分野での協業を検討していると発表したのだ。

軽の国内シェア3位と4位がタッグを組めば一大勢力となる。つけ加えると、5位は日産とアライアンスを組む三菱だ。

ダイハツの星加宏昌副社長もこの会見で、開発を進めてきた商用の軽EVの開発の再開に言及している。

「もともと商用でお客さまのラストワンマイルを支えられるのでないかということで開発を進めてきた。それが今回の問題を受けて、いったん開発をストップしている。ニーズは非常に高いと思っているので、再発防止を徹底してやり切ることを前提に開発も再開するステップに持っていきたい」

トヨタ、ダイハツ、スズキが共同開発していたその軽商用EVは、不正問題の影響で販売は未定となっているのだが、実はダイハツには隠し玉がある。

「昨年10月に開催されたJMS(ジャパンモビリティショー)2023にダイハツは軽EVを4車種出展しています。具体的には商用軽EVのユニフォームカーゴ&トラック。そして、軽オープンEVのオサンポと乗用軽EVのミーモです。その出来栄えの良さに早期の市販化を予想する専門家もいました」(自動車誌幹部)

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?
「ユニフォームカーゴ」ダイハツの軽商用EVコンセプト。ボディサイズは全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1920㎜。この見た目での市販化を希望!!

「ユニフォームカーゴ」ダイハツの軽商用EVコンセプト。ボディサイズは全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1920㎜。この見た目での市販化を希望!!

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?
「オサンポ」コンパクトオープンカー。ボディサイズは全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1330㎜。車高が高いので開放感もあるという

「オサンポ」コンパクトオープンカー。ボディサイズは全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1330㎜。車高が高いので開放感もあるという

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?
「ミーモ」3Dプリンターを使って外板パネルを製作した意欲作。ボディサイズは超ミニマム。全長2955㎜×全幅1475㎜×全高1590㎜

「ミーモ」3Dプリンターを使って外板パネルを製作した意欲作。ボディサイズは超ミニマム。全長2955㎜×全幅1475㎜×全高1590㎜

■復活の象徴はビジョンコペン!?

ダイハツ復活のアイコンとなるのは軽EVなのか? 前出の自動車誌幹部はこう語る。

「反転攻勢の嚆矢は、昨夏、フルチェンを受ける予定だった新型ムーヴになると思います。ただし、"復活のアイコン"にふさわしいのは、JMSに出展されたビジョンコペンではないでしょうか。倒産寸前の日産をV字回復へ導いたアイコンは、2002年に登場したフェアレディZです。スポーツカーの持つ力は大きいと思いますね」

ついに全車種が出荷再開。ダイハツがもくろむ「再起のシナリオ」とは?
コンセプトモデルとは思えぬ仕上がりだったビジョンコペン。1.3Lという排気量も絶妙。市販化されたら爆売れ確実の逸品だ

コンセプトモデルとは思えぬ仕上がりだったビジョンコペン。1.3Lという排気量も絶妙。市販化されたら爆売れ確実の逸品だ

確かにJMSのダイハツブースのど真ん中に置かれたビジョンコペンは圧倒的な存在感を放ち、観客を魅了していた。コンセプトカーというよりも、開発中の車両という感じの見た目でもあった。それが証拠に、ビジョンコペンについてJMSで話を聞いたダイハツ関係者はやる気満々でこう語っていた。

「ダイハツが現在取り組んでいる"モータースポーツを起点とした、もっといいクルマづくり"の知見を生かし、走る喜びを追求しました。また、海外での販売も視野に入れています」

実はダイハツ、意外にもモータースポーツ活動に積極的で、GRコペンをベースにした車両でラリージャパンなどにも参戦している。

「ビジョンコペンは、1.3Lの後輪駆動です。軽のコペンよりモータースポーツを楽しんでいただけると思います」(ダイハツ関係者)

自業自得とはいえ、逆風の船出となった新生ダイハツ。消費者の信頼を取り戻し、V字回復となるか注視したい。

取材・文/週プレ自動車班 撮影/望月浩彦 写真提供/トヨタ自動車 ダイハツ工業