新たに始動したRYUSENKEI・クニモンド瀧口が語る、空前...の画像はこちら >>

2003年のアルバムデビュー以来、シティポップリバイバルの先駆者として活動してきた、クニモンド瀧口のプロジェクト・流線形が、RYUSENKEIと名義を改め、今年、創立55周年を機に再始動した伝説的レーベル「アルファミュージック」より、新アルバム『イリュージョン』をリリースした。

本作は、ソロとしても活動するシンガー・ソングライター、Sincere(シンシア)を正式メンバーに迎え、さらに圧巻の生演奏を取り入れ、よりスタイリッシュでよりパワフルなサウンドへと進化。

音楽的悦楽を全身で堪能できる一枚だ。

そこで、クニモンド瀧口に、今回のRYUSENKEIへ体制を変えた真意から、『イリュージョン』への想い、さらには昨今、全世界的なブームとなった、シティポップリバイバルまでについて話を聞いた。

新たに始動したRYUSENKEI・クニモンド瀧口が語る、空前のシティポップブームの先にあるもの。「音楽は夢を与えるものだけどハリボテにはしたくないんですよね」
RYUSENKEI(左から、クニモンド瀧口、Sincere)

RYUSENKEI(左から、クニモンド瀧口、Sincere)
ーーいやー。嬉しいニュースです! 流線形がRYUSENKEIと名義を変え、新体制へ。期待がかかる中、新作がリリースされ、しかもそれが、あのYMOや荒井由実さんらを輩出したアルファミュージックからだなんて!

クニモンド瀧口(以下、瀧口) いやー、そうなんですよね。僕自身もまったく予想しなかった展開です。

たまたまあのアルファが復活し、しかもそこからリリースすることが決まったことで、すべてが始動しました。

ーーすべてアルファがきっかけ?

瀧口 そういっても過言じゃないですね。"流線形"は僕のオウンプロジェクトってことで、メンバーを固定せずに活動していたんですけど、せっかくのチャンス。パーマネントなヴォーカルを決め、"RYUSENKEI"として、より腰を入れて活動しようと。

そこで迎えたのがソロとしても活動するSincere(シンシア)です。たまたまSNSで見つけて声をかけたんですけど、彼女は少女のように可憐な声の持ち主。

そこからミニー・リパートンやリンダ・ルイスのような70年代のヤングソウル系というか、しっかり声でリスナーに訴えていくものにしたいなとイメージが膨らんでいき、ついにはアルバムが完成しました。

ーーすべてがとんとん拍子に進んだ、と。

瀧口 そう。しかもアルファの復活は創立55周年がきっかけなんですけど、じつは僕も今年ちょうど55歳。なんだか"運命"さえ感じますよ(笑)。

ーーその新作『イリュージョン』はAOR、フュージョン、ソウルなどを鮮やかにブレンドした、じつにスタイリッシュで都会的なアルバムです。

制作の上で意識したことはあります?

瀧口 僕自身がプレイヤーではなく、アレンジャー、プロデューサーとしての立ち位置を意識したことですね。より俯瞰的に見て、完成度を高めたいなと。制作面で言えば、以前はスタジオでミュージシャンにコンセプトを渡し、アレンジまで委ねた作り方をしていたんですけど、今回は打ち込みでデモを作り、それを生演奏に置き替えてもらう形をとりました。また音色も楽器のチューニングから考えたりと、細部までこだわって作り込みましたね。

ーーなるほど。ホーンやストリングスなど素晴らしい生演奏のサウンドは圧巻です。

詞の面では?

瀧口 一番大きいのは社会的な出来事に触れていることです。「もしかしたら2人」という曲があるんですが、それは恋愛を歌っているようで、じつは戦争が裏テーマなんです。隣り合う国同士が争わず、解り合えればなって。また「モンキー・ビジネス パート2」では政治への疑問を歌ったり。いわゆる"シティポップ"的な曲って、豊かなライフスタイルへの夢や憧れを題材にすることが多いじゃないですか。実際僕らもそういうものを歌ってきましたし。

でも毎日うんざりするニュースが流れる中、ただそれらを歌ったところでリアリティがないと思って。もっと今の時代が伝わる楽曲にしたかったんです。音楽は夢を与えるものだけどハリボテにはしたくないんですよね。ただし重くなりすぎないよう、一方で軽やかなムードのラブソングも入れましたけど。

ーー初めてとなるSincereさんとのコンビネーションはスムーズにいきました?

瀧口 彼女とは親子ほど歳が離れているんですけど、多分、うまくいったと思います(笑)。ぼくの世界観を知ってもらうために、かつて愛読していた少女漫画を渡したりして。

ーー少女漫画! クニモンドさんが!? 一体、どんな作品を?

瀧口 えーと、くらもちふさこさんとか、あきの香奈さんとか。いや、そこは無駄に突っ込まなくていいので(笑)。

新たに始動したRYUSENKEI・クニモンド瀧口が語る、空前のシティポップブームの先にあるもの。「音楽は夢を与えるものだけどハリボテにはしたくないんですよね」
クニモンド瀧口

ーー失礼しました(笑)。ちなみに、クニモンドさんはシティポップ界のリードオフマンのように呼ばれることが多いですが、昨今のブームをどうご覧になっています? 海外のアーティストがこぞってサンプリングのネタにしたり、明らかにシティポップに影響を受けているバンドが現れたり、いまや世界的な規模にまで広がっていますよね。

瀧口 う~ん。というか僕自身、シティポップを意識して音楽をやってるわけじゃないので、そもそも「シティポップ界の~」みたく呼ばれることに正直、戸惑うところがあるんです。なんなら少し前までは自分の音楽をシティポップと呼ばないでくれと思っていたくらいで。

ーーえっ? そうなんですか?

瀧口 僕は山下達郎さんの『FOR YOU』をリアルタイムで聴いて直撃された世代。達郎さん、あるいは大瀧詠一さんのようなスタイルの音楽に憧れ、それをブレることなくやっているだけなんですよ。

特に流線形のファーストアルバムが出た2003年当時は、シティポップは「はっぴいえんど」を含むなどフォーキーなイメージもあって、いまとは若干ニュアンスが違ったんです。それもありますね。でも確かに現在、シティポップは世界中で大人気で、達郎さんの音楽も含め、広義のものとしてとらえているので、まるで気にしていませんけどね。

新たに始動したRYUSENKEI・クニモンド瀧口が語る、空前のシティポップブームの先にあるもの。「音楽は夢を与えるものだけどハリボテにはしたくないんですよね」
クニモンド瀧口

ーーなんか、すみません(汗)。ただそこまで世界的な人気となったことで「シティポップ・ブームはそろそろ終わり」なんて皮肉を言う人もいますけど......。

瀧口 いやいや。終わりだなんてとんでもない。アニメなどと一緒で、ブームではなく日本の文化として定着していますよ。先日、中国へDJをしに行ってきましたが、あまりのシティポップ人気にビックリしましたから。しかもお客さんは若い方ばかりで、相当マニアックな方も多い。松原みきさんの「真夜中のドア」をかけようと思ったけど、定番すぎて恥ずかしくなりましたから(笑)。ただそうした中でいえば、日本はちょっと懐メロに終始している気もしますね。

ーー懐メロですか?

瀧口 いまのシティポップの人気って、90年代に流行ったフリーソウルや渋谷系に近いイメージだと思うんです。失われた音源をクラブでプレイしたり、サンプリングのネタにするなど、異なる解釈や聴き方で新しいものとして捉えるというか。でも国内ではあくまでレトロなものとして扱われ、それがリバイバルしている印象ですね。クラブイベントもあるけど、そこでも40代以上のお客さんが多いし。

ーー自国の文化だから、そこまで"新しい"ものと捉えるのは難しいんですかね。

瀧口 ただ素晴らしい音楽がたくさんあるのは確か。アルバム冒頭の「スーパー・ジェネレーション」は、そうした音楽シーンへメッセージが込められた曲でもあるんです。

ーー「スーパー・ジェネレーション」は往年の大歌手・雪村いづみさんの同名アルバムへのオマージュであるとか。

瀧口 そうそう。雪村さんの『スーパー~』は昭和の作曲家・服部良一さんの曲を、次世代の雪村さんが歌って、さらにその次世代のキャラメル・ママ(細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆によるバンド)が演奏するという3世代が関わった作品なんです。その、素晴らしい音楽が世代を越え、しかも時代にあった形で受け継がれているところに共感して書きました。詞で「New generation together!」と鼓舞しているんですけど、日本、そして世界中の新しい世代がシティポップを含めた素晴らしい音楽を受け継ぎ、どんどん新しいものに発展させてくれれればいいな思うんですよね。

ーーちなみに瀧口さんが考えるシティポップの「シティ」とはどんなイメージですか? ひと口にシティといっても時代などによって受け止め方はさまざまだと思うんですよね。

瀧口 僕にとってのシティは世代的にも、やはり夜の東京、それも高層ビルや首都高のイメージですね。でもだからといって、それを押し付けるつもりはないんですよ。夜でも昼でも、大阪でもニューヨークでも、80年代でも2024年だっていい。都会って、いつの時代も思い浮かべただけで何かが起こりそうなワクワクした気持ちになるじゃないですか。自分の中でその高揚感とともに想像力が膨らむ場所であればどこでもいい。そこをイメージしながら、音楽を楽しんでくれればなって思います。

ーー最後に今後のビジョンを聞かせてください!

瀧口 今回「月のパルス」「静かな恋のメロディ」という曲をSincereによる英語詞で作ったんですけど、ここ10年くらい、僕の曲の熱心なリスナーは海外の方が多いんです。Sincereはネイティブに英語詞を歌えるし、今後は海外も視野に楽曲を発信していければ。また機会があればライブも海外でやってみたいです。ただそれ以外は、まったくわからないです(笑)。ただ、これまでワクワクした気持ちに従って音楽を作ってきたので、そこは変わることなく、今後も世代を超える音楽を目指していければと思っていますね。

クニモンド瀧口(RYUSENKEI)
69年生まれ。2001年バンド・流線形を結成。03年にミニアルバム『CITY MUSIC』を発表し、06年から単身のプロジェクトへ。以降、江口ニカ(一十三十一)、比屋定篤子、堀込泰行らをゲストボーカルに迎え、流線形としての作品をリリース。2024年、シンガーソングライターのSincereを正式メンバーに迎え、RYUSENKEIと表記を改め、新たに始動した。またプロデューサー、アレンジャーとして一十三十一、古内東子、ナツサマーなどの楽曲に参加。2020年からはシティポップをはじめ、日本の秀逸な楽曲を発掘するコンピレーション『CITY MUSIC TOKYO』シリーズをレコード各社からリリースしている。
公式Instagram【@cunimondo】


新たに始動したRYUSENKEI・クニモンド瀧口が語る、空前のシティポップブームの先にあるもの。「音楽は夢を与えるものだけどハリボテにはしたくないんですよね」
『イリュージョン』RYUSENKEI(ソニーミュージックレーベルズ/アルファミュージック) 3300円(税込)

『イリュージョン』RYUSENKEI(ソニーミュージックレーベルズ/アルファミュージック) 3300円(税込)

取材・文/大野智己 撮影/井上たろう