これまでのウーバーイーツ配達で私が感じた注文者の変遷を紹介します
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第98回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
* * *
私が初めてウーバーイーツの配達をしたのは2018年1月2日の朝。東京都港区にあるマクドナルド赤坂駅前店から六本木のマンションまでの配達でした。
当初は配達エリアが渋谷、新宿など東京都内のごく一部でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を経て、現在は全国47都道府県に拡大。いまや全国各地の大きな街へ行って配達員用のアプリを立ち上げれば、配達依頼が舞い込んできます。
配達エリアの拡大とともに変わっていったのは、ウーバーイーツを利用する人の変化です。18年にはかなりの頻度で配達していたのに、最近はその人たちからの配達依頼がまったくこなくなった、なんてこともあります。
そこで今回は、これまでの配達で私が感じた、注文者の変遷について紹介したいと思います。
あくまで個人の主観なので、厳密には違う部分もあるかもしれませんが「ふーん、そんな風に変化しているんだ」ぐらいの軽い気持ちで読んでいただけたらと思います。
18年、配達を始めた頃に多かったのは外国の方からの注文。欧米ではウーバーイーツのサービスが日本よりも早く始まっていた国が多く、ほとんどの人が母国で利用するのと同じ感覚で利用していました。
また、欧米での生活でウーバーイーツを使い慣れていたと思われる、高層ビルの最上階にあるレジデンスと呼ばれる場所に住む、石油関連のお仕事で私が100回人生をやりなおしても稼ぎ出すことができないであろうお金を持っている方への配達が多かったです。
今でも覚えているのは、当時港区の赤坂見附にあったタンクトップにピチッとした短パンをはいた女性スタッフが料理を運ぶスタイルが売りの店「フーターズ」のフライドチキンとポテトのセットを、高層ビルの最上階に住む石油で潤っているであろう男性が住む部屋まで運んだこと。あの店の女性スタッフを見ることなく、純粋に料理を楽しむとは、なんてストイックな方なんだろうと、煩悩の塊である私は感心しました。
19年頃になると東京の湾岸地区や下町地域まで配達エリアが広がります。この頃に増えたのがタワーマンションに住んでいる方と、ひとり暮らしの社会人の方への配達。
今でこそ、東京の湾岸エリアは有明ガーデンといった巨大なショッピングモールやスーパーマーケットが進出していますが、当時、東京の有明地区はタワーマンションがたくさん建つものの、スーパーや飲食店はごくわずか。タワーマンションに住まれている方の経済力と店の数を考えると、配達が増えるのは必然という感じでした。
ひとり暮らしの社会人の方の利用が広がったのは、19年8月からサービスが始まったローソンの商品の配達が大きかったと思います。下町エリアに住む人から缶ビールや缶チューハイの配達依頼が一気に増えました。
20年、コロナで外出が自粛となると一般家庭からの注文が増えました。これまでは1件の配達先に基本ひとり分、多くて2、3人分の料理を運ぶというのが基本パターンでしたが、5、6人分はある大量の料理を運ぶ機会が増えました。
21年頃になると、利用される方の多くが「料理はひとつの店で頼む必要はない」と気づいたのか、いろんな店からみんなが食べたいものを注文するというパターンが増え、配達先のドアの前で別の店から料理を運んできた配達員に出会ったり、置き配指定されている方のドアの前に各所から届けられた様々な料理が並ぶ光景をよく目にしました。
23年、コロナが第5類の感染症に移行してからは外食に行くようになったのか、一般家庭の方からの注文は減りました。
ですが、タワーマンションの方の注文は相変わらず多いまま。「多くのマンションは部屋から外まで出るのに5分以上かかること」「マンション近くにスーパーやコンビニができたものの、飲食店が遠いこと」「タワーマンションに住める経済力があること」などが注文の減らない要因なのでしょう。
タワーマンションの住人の方以外で最近多いのは、物価の安い日本で観光を楽しむホテルに宿泊する外国の方、受け取るときにいつも生気のない顔をしている外資系企業で働く人、親が支払うであろうクレジットカードを利用して注文する大学生といった感じです。
今後はどのような注文者が増えていくのか。トランプ大統領が関税措置を発動したことでウーバーイーツの配達にもなんらかの影響があるのか。オーバーツーリズムで特定の店に観光客が殺到する現象がフードデリバリーに与える影響は? そんなややこしいことはよくわかりませんが、淡々と自転車を漕ぎ、何か変化したなと気づくことがあれば、ここで書いていきたいと思います。
文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明