「牛乳で飲む」「高血圧の薬×グレープフルーツ」はなぜNG? 市販の鎮痛解熱剤と合わせてはいけないものは? 喫煙者が注意して飲むべき薬は?......etc.
新型コロナ以降もさまざまな感染症が広がり、最近では百日ぜきの感染拡大がニュースになった。風邪や痛みなどで、普段何げなく飲む薬。
■キホンのキ! 正しい薬の飲み方
コロナ以降もさまざまな感染症が蔓延している。最近では百日ぜきの1週間の全国感染者数が過去最多を更新。何かあったときのためにドラッグストアでせき止めや痛み止めなどの薬を準備しておくという人も増えているのでは!?
さらにオンライン診療でさまざまな薬が手に入りやすくなっている昨今。その薬、正しく飲めている? 飲み合わせは大丈夫? 効果が台無しになったり、副作用が強くなってしまったり。意外と知らない薬の話を薬剤師の菊池遥香先生に教わった。
――まず、飲み合わせの前に服薬の基本から。薬の「食前」「食後」の指示って厳守すべきでしょうか?
「適正なタイミングを逃したとしても、飲まないよりは飲んだほうがいいです。ただ、食前に飲むべき薬は効果が弱まってしまうので、なるべく空腹時に飲むことをオススメします。食後に飲むべき薬は胃への負担をなくすことが大切。
特に解熱鎮痛薬のロキソニンなど胃薬と一緒に飲むような薬は胃への負担が高めですが、しっかりとした食事を取る時間がなければ、チョコレート1個でもいいですし、多めの水で飲むだけでも負担を軽減できます」
――体調が回復した後も、処方された薬は飲み続けなければいけないですか?
「抗生剤や抗ウイルス薬(インフルエンザの薬など)は飲み切るべきです。医師が患者さんの症状や重症度を判断した上で適切な治療期間を決めているからです。
症状が改善されたからといって服用をやめると菌やウイルスが残り、薬に耐性を持つ形で増殖してしまうことがあります。
■牛乳、コーヒー、お酒で薬を飲むとどうなる?
――では、ここからは飲み合わせの話を。薬は絶対に水で飲まなきゃいけないですか?
「混乱を避けるためにも薬剤師は基本的に『ぬるま湯や水で飲んでください』と説明しますが、特定の薬と相性の悪い飲み物があるので、そう伝えているんです。
例えば、便秘薬のマグミットは大量の牛乳と一緒に摂取するとカルシウムが吸収されすぎてしまい、吐き気や食欲不振が起こることがあります。
ぜんそく薬のテオフィリンはコーヒーなどのカフェインと一緒に摂取すると作用が強まり、頭痛や動悸などの副作用が出やすくなってしまいます。一方、抗不安薬のジアゼパムはカフェインと一緒に摂取すると作用が弱まり、効きにくくなります。
また、胃薬と炭酸水もダメ。胃薬と炭酸を一緒に飲むと、炭酸飲料に含まれている炭酸の中和に胃薬が効果を発揮してしまい、胃酸を抑えるという本来の効果が減少してしまう可能性があります。また、炭酸水は胃酸分泌を促進するため、胃がムカムカしているときには炭酸水は飲まないほうがいいでしょう」

便秘薬と大量の牛乳はカルシウムの過剰吸収につながる恐れも

炭酸水と胃薬も効果が弱まる恐れあり
――お酒はさすがにダメ?
「アルコールもすべてがNGではないのですが、解熱鎮痛剤のカロナールと一緒に摂取すると、肝臓への負担が増大し、肝障害になりやすくなってしまいます。
また、せき止めのフスコデ配合錠、睡眠導入剤のデパスやハルシオンもアルコールで作用が強まり、眠気、ふらつき、意識障害といった副作用が強く出てしまうことがあります」
――ちなみにたばこは大丈夫ですか!?
「テオフィリン(気管支ぜんそくの薬)は、たばこを吸っていると作用が弱まってしまいます。気管支ぜんそくになっている時点でたばこは控えてほしいところではありますが、喫煙者だとわかれば用量を多く処方するケースもあるため、医師や薬剤師に正直に伝えてください」

たばこは気管支ぜんそくの薬の効き目が弱くなることもある■グレープフルーツに納豆、青汁も注意!
――食べ物との相性が悪い薬もあるんでしょうか?
「グレープフルーツなどのかんきつ類に含まれるフラノクマリンという成分はアムロジピン(高血圧の薬)の作用を強め、血圧を下げすぎてしまいます。
ほかにも、リピトール(高コレステロールの薬)の作用を強め、筋肉の痛みや倦怠感が生じたり、バイアグラ(ED治療薬)も作用が強まり、頭痛、めまいなどの副作用が出やすくなったりしてしまいます。
また、脳梗塞や心筋梗塞に対して処方されるワルファリン(血液を固まらないようにする薬)を納豆や青汁などビタミンKを多く含む食べ物と一緒に摂取するのもNG。薬の効果を弱め、血栓のリスクを上昇させてしまいます」

グレープフルーツは高血圧、高コレステロール、EDなど若いうちから飲みそうな薬と相性が悪い
■医師も処方ミスする? 薬の「混ぜるな危険」
――次は、飲み合わせNGな薬について教えてください。
「今までの経験の中で、医師がうっかり処方してしまうことが多く、若い方でも服用しているものでは、ベルソムラ(睡眠導入剤)とへんとう炎など喉の痛みの際に処方されるクラリスロマイシン(抗生剤)はNG。
ベルソムラの作用が増強されてしまうため、一日中倦怠感や眠気を感じるようになる可能性が。患者さんが申告しなかったことで併用してしまうケースもあるため、薬剤師に服用中の薬を聞かれたときは面倒がらずにすべて伝えてください。
また最近ではインフルエンサーやユーチューバーが薬のPRを行ない、サプリ感覚で医薬品を摂取する方も増えています。
例えば、風邪薬に入っているトラネキサム酸を美容や美肌のために飲む人が増えていますが、サプリではなく薬ですから。女性の話になりますが、トラネキサム酸と低用量ピルとの飲み合わせは血栓リスクを高める可能性があるので、注意してもらいたいです」
――先ほどから話に上がっている、解熱鎮痛剤は何か飲み合わせに注意が必要ですか?
「市販の総合風邪薬にはすでにカロナールと同じ成分(アセトアミノフェン)が入っていたり、違う成分の解熱鎮痛剤が入っている可能性があり、一緒に飲むと肝機能、腎機能に負担がかかる可能性があるので注意が必要です」
――市販のせき止めは?
「こちらもせき止めの成分が含まれている総合風邪薬との併用はオススメしません。また、大量摂取するのは危険です。
ニュースにもなっていますが、市販のせき止めには厚生労働省が指定する、「濫用等のおそれのある医薬品」の成分、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンが含まれているものもあります。
大量摂取で気分障害、幻覚など覚醒剤を使用したときのような副作用を引き起こすため大量摂取や長期服用には十分に注意しましょう。ドラッグストアで販売個数が制限されているのには理由があります」
――ちなみに、飲み合わせの悪い薬を飲んだ場合、どうすればいいでしょう?
「基本的に1回くらいであれば焦ることはありません。ただ、常用していた場合や副作用が強く出ている場合は医師、薬剤師に相談してください。薬は急に中断すると離脱症状が出てしまうこともあるので自分で断薬の判断はしないようにしましょう」
――薬剤師としてオススメの市販薬ってありますか?
「ロキソニンは処方薬でも市販薬でも同じ量の60㎎が入っているため、価格が割高でもよければ市販で問題ないと思います。
また、子供がインフルエンザの際にロキソニンを与えるとインフルエンザ脳症などになるリスクがあるので、小児の熱はカロナールで下げるようにしてください」
――逆に避けたほうがいい市販薬ってありますか?
「不要な成分も入っているため、薬剤師は市販の総合風邪薬を買わない方が多いと思います。せきならせき、鼻水なら鼻水とその症状を緩和する薬を選びます。私はせきならメジコン。痰が気になったらムコダイン。鼻炎(花粉症)ならロラタジンを買います。
また、先述のようにせき止めは依存性があり、点鼻薬も使いすぎると薬剤性鼻炎になる恐れがあるため長期服用はオススメしません」
健康でいるために、「薬」とうまく付き合っていこう。
*本記事は薬剤師による監修を受けておりますが、薬を服用する際は必ず医師や薬剤師にご相談ください
取材・文/かくしごと 写真/iStock