交流戦では7連敗を喫したが、6月は11勝11敗の月間勝率5割で締めくくった阪神・藤川監督
交流戦が終わり、折り返しを迎えたペナントレース。猛暑下で繰り広げられるセ・パの首位争いはどのような展開を見せるのだろうか?
* * *
【論点1】主砲不在のセ・リーグ
試合数では折り返しを過ぎたペナントレース。セ・リーグを見ると、首位の阪神が得点、盗塁、防御率でリーグ1位。
にもかかわらず、独走できない要因は何か? 現役投手を指導するピッチングデザイナーで本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏は次のように分析する。
「交流戦での7連敗が痛かった。きっかけは救援陣の主軸として開幕から奮闘していた石井大智(だいち)の負傷離脱です」
石井は交流戦2カード目のオリックス戦でライナーが頭部に直撃し、救急搬送。阪神の7連敗は次の3カード目から始まり、試合終盤に逆転されるケースが目立った。
「石井は昨季、自己最多56試合登板で30ホールドを記録。今季も離脱するまで防御率0点台で17ホールド、3セーブ。投手陣の層が厚い阪神の中でも代えが利かない存在でした」
このほか、今季の阪神は試合運びや細かいプレーの質でも物足りなさがあるという。
「藤川球児監督は采配面で大きなミスこそないものの、采配のおかげで勝てたケースも少ない。
また、岡田彰布(あきのぶ)前監督時代には徹底していた送球の軌道の意識など、相手の進塁を阻止するための気配りが欠けているように感じます」

交流戦で本塁打王に輝き、6月29日には両リーグ最速で20号に到達した阪神・佐藤輝明
また、1番・近本光司、2番・中野拓夢、3番・森下翔太、4番・佐藤輝明、5番・大山悠輔と続く主力野手陣は盤石すぎる一方、控え選手との差が大きいことも阪神の課題だ。
「中でも中野は代えが利かない選手です。
その阪神を追いかける筆頭候補としてお股ニキ氏が挙げるのは広島だ。交流戦ではセ・リーグ勢で唯一勝率5割を維持した。
「セ・リーグのどのチームも決め手に欠ける中、戦力のバランスが一番整っているのは広島です。
ただ、チームを勢いに乗せるような選手が見当たらず、投打共にいい選手はいるものの、"火力"不足な点は否めません」
巨人は左肘靱帯(じんたい)損傷で離脱中の岡本和真に加え、戸郷翔征がリーグ戦再開直前に2軍降格。投打の軸を欠く非常事態が続く。
「仮に戸郷が本来の投球をしても、そもそも今季は菅野智之(現オリオールズ)の穴があるわけで、これは厳しい。打線にしても、岡本がいないからといって吉川尚輝に4番を任せるのはあまりにも酷です」
明るい話題といえば、岡本が左手にグラブをはめてキャッチボールやノックを行なうまで回復してきている点だ。
「もし、岡本がシーズン中に復帰できるのならば、そこから一気に立て直せる可能性はあります。そこまでに最低でも勝率5割ラインをキープしておくことが重要です」
4番不在という点では、DeNAも昨季首位打者のタイラー・オースティンが右膝の違和感で2軍調整中だ。
「牧秀悟の調子がいいとはいえ、やはりオースティンの不在は痛い。実際、DeNAは走塁以外の数値は突出していない。
そもそも、セ・リーグ勢は阪神と広島以外、主砲を欠いて戦っている状態だ。
「5位の中日も細川成也が交流戦の大半を欠場。最下位のヤクルトも村上宗隆を欠いています。野手は毎日試合に出場するので、投手よりもチームへの影響力が大きいのです。
近年ほぼ互角だった交流戦で今季、セ・リーグが大きく負け越した要因のひとつと言えます」
【論点2】"2強"が競い合うパ・リーグ
交流戦で上位を独占したパ・リーグ。優勝こそソフトバンクに譲ったものの、日本ハムが2位となった。事前に新庄剛志監督が「11勝7敗ぐらいでいけたら交流戦後も乗っていける」と語っていたとおりの数字で終え、リーグ首位を維持して7月に突入した。
「日本ハムは本塁打王争いを演じるフランミル・レイエスと万波中正を筆頭に、リーグ1位のチーム本塁打数を誇ります。
打率は低く、打線がつながらないのが悩みでしたが、肉離れで離脱していた野村佑希が約1ヵ月ぶりに復帰した6月中旬以降、打線がつながり始めました。野村が鍵を握っているのがよくわかります」

交流戦は優勝こそ逃したが、事前の宣言どおり「11勝7敗」で終えた日本ハム・新庄監督(左)
また、ハーラートップを争う伊藤大海(ひろみ)を筆頭に先発陣も盤石だが、救援陣には物足りなさがあるという。
「阪神同様、投打共に数字がいい割に独走できていないのは、勝てる試合を取りこぼすことが少なくないから。特に救援陣は大炎上こそしないものの、追いつかれることも多いです。
それでも、万波を6番、7番で起用できるほどの充実した戦力を抱えているわけで、優勝に一番近いのは間違いありません」
日本ハムの対抗と目されるのが交流戦優勝を果たしたソフトバンクだ。
「近藤健介が復帰したのがやはり大きい。相手バッテリーからすると、打線に近藤がいるだけで神経の使い方も含めて疲労度が違います」
しかし「交流戦優勝という短期的な成果だけで油断してはいけない」とお股ニキ氏は指摘する。
「昨季、日本シリーズで本来の力を発揮できなかったのは、レギュラーシーズンで中継ぎを疲弊させてしまったから。今季も中継ぎ陣はすでに登板過多。
本来は守護神のロベルト・オスナを配置転換したこともあり、杉山一樹(かずき)や藤井皓哉(こうや)への負荷が非常に大きくなっています」
現在のゲーム差を考慮すれば、オリックスや西武にも優勝の可能性はありそうだが、「戦力的に厳しいのではないか」とお股ニキ氏は分析する。
「オリックスは打線がいいものの、投手陣が心もとない。逆に西武は、守備や投手陣はいいのに打線が物足りない。Aクラス争いは最後まで期待できますが、優勝となると日本ハムとソフトバンクの2強の争いになっていきそうです」
【論点3】球界全体で向き合うべき酷暑問題
今後の戦いを展望する上では、「酷暑」への対応も重要なテーマだ。今季、お股ニキ氏も認める飛躍を遂げた今井達也(西武)が本拠地ベルーナドームでの試合途中に熱中症で緊急降板したように、不測の事態が起こる可能性もある。
実は昨年7月末、広島、阪神、巨人が三つどもえの戦いを演じていたセ・リーグの夏の戦いについて、「ドームが本拠地の巨人が優位」「"飛ばないボール"といえども、夏は飛びやすくなるので、広島や阪神のような投手主体のチームはどんどん厳しい戦いになっていく」とお股ニキ氏はズバリ予言していた。その言葉どおり、最終的に巨人が抜け出したのは記憶に新しい。
「もはや9月中旬までは酷暑と言っていい。

昨季、9月上旬まで首位をキープしていたものの、大失速してCS進出を逃した広島
さらに、高温で空気抵抗が減る夏場は、投手にとって受難の季節だという。
「変化球の曲がり幅が小さくなり、打球が飛ぶようになるため、打たせて取る投手ほど夏は不利に。8月上旬までに12勝しながら、その後7試合連続で勝てなかった2022年の青柳晃洋(こうよう/当時阪神、現フィリーズ傘下2A)がその典型。
昨年9月に大失速した広島も同様です。逆に、開幕から打球が伸びずに苦しんでいた中距離ヒッターは成績が上向きそうです」
屋外球場の酷暑問題は、試合そのものだけでなく、練習などの調整面でも影響がある。
「昨季の反省を踏まえ、広島は夏場のデーゲームをなくしたようですが、ナイター開始の18時頃でもまだ暑い。また、練習は日中にあるので、その疲労も蓄積していくはず。その点も涼しい屋内球場なら問題ありません」
もはや酷暑への対処は、球界全体で考えていかなければいけない問題かもしれない。
「ソフトバンクが昨季から練習時のハーフパンツ使用を解禁し、7月からは阪神も実施していますが、選手が過ごしやすい環境をどうつくっていけるのか、いいアイデアは他球団もどんどん見習ったほうがいい。
球界を代表する選手である今井が熱中症になったことをきっかけに、球界全体で危機感を抱いてほしいものです」
【論点4】さらなる爆発に期待がかかる今季ブレイク組
最後に、前半戦や交流戦で大ブレイクし、今まさに目が離せない注目選手を掘り下げたい。野手では交流戦本塁打王となる6本塁打、さらに両リーグ最速で20号に到達した阪神の佐藤輝明にまず注目する。
「野球ゲームのように『強振』か『ミート』かの2択ではないのが本来の野球。今季の佐藤輝は軽く振っても飛ぶ感覚を身につけたのが大きいです。やや力(りき)感を落としても精度が高く、なおかつパワーも伝わるバッティングができています」

交流戦では打率.397、出塁率.474の好成績を残し、MVPに輝いたソフトバンク・柳町
この佐藤輝を抑えて交流戦MVPに輝いたのは、打率.397で交流戦首位打者を獲得した柳町達(たつる/ソフトバンク)。お股ニキ氏が入団当初から注目してきた逸材だ。
「選球眼やバットコントロール、バット軌道は良いのに、外野手としては一発が少なく、足でも守備でも突出したものがなかった。左投手に弱いという印象を持たれていたことも出番が限られてきた要因で、今季も開幕2軍でした。
しかし、ケガ人が続出したことで出番をつかみ、左に弱い印象を払拭してヒットを重ねていきました」
実際、今季は対左投手のほうが高い打率を記録し、リーグの首位打者も狙える勢いだ。
昨季、同様に交流戦首位打者&MVPでブレイクした水谷瞬(日本ハム)は、今季も交流戦から調子を上げてきた。
「昨季は交流戦がピークでしたが、今季はこのまま後半戦に向けて調子を上げていきそう。たとえが古いかもしれませんが、往年の山本浩二(元広島)さんを彷彿(ほうふつ)とさせるポテンシャルを感じます」

交流戦から4番を務めるロッテ・山本。6月までに8本塁打、交流戦だけで5本塁打を放った
野手ではもうひとり、交流戦からロッテの4番を務める育成出身の山本大斗(だいと)にも注目。6月までに8本塁打、交流戦だけで5本塁打を放った、ロッテ待望の和製大砲候補だ。
「突如良くなったわけではなく、昨季2軍では本塁打と打点の2冠に輝くなど、結果を残していました。速い球に遅れがちな打撃フォームが課題でしたが、スピードがやや落ちるセ・リーグの技巧派投手相手にはよくハマりました。
変化球を泳ぎながら前でさばく技術は天性のものを感じます。あとは、課題の速い球に対応できるかどうか」

交流戦の巨人戦で9回1死まで無安打投球を継続した日本ハム・北山。防御率1.15を誇る
投手では、交流戦の巨人戦であと一歩でノーヒットノーランの投球を見せ、一時、防御率リーグ1位に立った日本ハム・北山亘基(こうき)の名を挙げる。
「中8~10日の登板間隔が多く、規定投球回になかなか達しませんが、投げれば安定した投球ばかり。
もともとはストレートが武器でしたが、今季は変化球も進化。特にフォークは落差が大きく、鋭く落ちるスプリットとの投げ分けもできる。カットボールもあるため、相手打者はスプリットとカッターを意識せざるをえず、結果的にますますストレートが刺さります」

「すべて先発でのデビューから6連勝」というプロ野球史上初の記録を達成した日本ハム・達
この北山以上の安定感を誇るのが同じ日本ハムの高卒4年目、達(たつ)孝太だ。
「6月最終登板でプロ初完投を飾り、2022年のデビューから『すべて先発でデビュー6連勝』というプロ野球史上初の快挙を達成。まだ登板機会が少ないとはいえ、プロ入り後8試合で通算防御率0.54は驚異的。
快投の鍵を握るのが投球の40%以上を占めるフォーク。身長194㎝と上背があり、そこからフォークが真下に落ちてくる。打者からするとバットの接点が少なく、対応が難しいです」
日本ハムからはもうひとり、交流戦で抑えに抜擢(ばってき)された育成出身の柳川大晟(たいせい)。交流戦6試合に登板して防御率0.00、2セーブを記録した注目株だ。
「身長191㎝の長身ですが、上から投げ下ろすというよりも北山同様のやり投げスタイル。カットボールとフォークで空振りを奪う投手で、交流戦では3試合にまたがり9アウト連続三振を記録。圧倒的な奪三振力を発揮し、田中正義から一時、抑えの座を奪いました」

34歳ながら今季覚醒した中日・松葉。巧みな投球術で最多勝と防御率の2冠を狙う
一方、セ・リーグ勢では34歳ながら覚醒して防御率1点台を維持する松葉貴大(たかひろ/中日)に注目。最多勝と共に投手2冠の可能性を秘めている。
「私は以前から、135キロ前後の投手は無理に140キロを目指すよりも133キロ程度に落としたほうが打たれにくい、と提唱してきました。
それを実践して成果を出しているのが松葉です。変化球の才もあり、あらゆる球種を器用に投げ分けられるため、打者に的を絞らせません」
いよいよ夏本番。暑い季節にプロ野球をさらに熱くするプレーに期待したい。
文/オグマナオト 写真/時事通信社