消費者物価の上昇が続き、実質賃金がマイナス圏で推移する中、ガソリン価格の高騰が家計を圧迫
先月の参院選で歴史的大敗を喫した石破政権。野党8党は、選挙直後に、「暫定税率廃止法案」の再提出と年内の早期成立を目指す方針で一致した――。
「暫定」の名を冠したガソリン税の上乗せ分は、導入からすでに50年以上。もともとは道路整備のための〝目的税〟として始まったはずが、今では使途が曖昧なまま一般財源化されているという。この税金は本当に、クルマのために使われてきたのか?
■〝仮の税金〟はどこへ消えたのか!?
都内のガソリンスタンド店長(41歳)は、「ガソリン税って、どこに使われているんですか?」と疑問を投げかける。価格を1円でも下げれば客足は伸びるから、暫定税率の廃止は歓迎。だが、使途が見えないことに不満を抱く。
暫定税率は1974年、当時の田中角栄首相の「日本列島改造論」に基づき、道路整備の財源として導入された。当初は2年間の時限措置だったが、見直されることなく50年以上が経過した。2009年には麻生政権下で一般財源化され、現在は幅広い分野に使われている。
自動車評論家の国沢光宏氏が暫定税率の現状を語る。
「ガソリン税が一般財源化されて以降、教育や医療、福祉などあらゆる分野に使われるようになった結果、税金の使途が見えづらくなりました。ドライバーとしては納得しがたい構造です。この問題は長年取材してきましたが、制度の見直しはもはや不可避です」

一方、自動車ジャーナリストの桃田健史氏は、道路インフラの現状についてこう語る。
「近年は新設だけでなく、経年劣化した橋梁やトンネルの修繕費が増えています。
例えば、全国で頻発する道路の陥没事故。原因は地下の老朽化した水道管や下水道管であることも多く、暫定税率の廃止がこうしたインフラ維持にどう影響するか、注視が必要です」
暫定税率を廃止すれば、年間1兆5000億円もの税収が失われる―。こうした〝財源不安論〟は根強く、政府・与党内でも慎重論が根を張る。だが、国沢氏はこの懸念を苦笑いしながら一蹴する。
「ロシアによるウクライナ侵略などの影響でガソリン価格が高騰した際、国が投入した補助金額は8兆円超です」
■暫定税率廃止で見える地方の道路行政
自治体からは、暫定税率の廃止により「道路の維持が困難になる」との懸念の声が相次いでいる。
しかし、実態は一様ではない。09年の一般財源化以降、ガソリン税は必ずしも道路整備に充てられておらず、子育て支援や学校の耐震化など、道路とは無関係な分野に流用される例もある。そのため、ドライバーから大ブーイングが巻き起こっているのだ。


国沢氏は地方の道路行政の実態を鋭く批判する。
「全国の市町村の半数以上が過疎地域に指定され、日本の国土の約6割を占めます。そうした地域には、交通量が極めて少ないにもかかわらず、補助金頼みで建設された道路や橋、トンネルが多数存在し、それぞれに莫大な管理費用がかかっているのが実情です」
桃田氏もこう指摘する。
「道路に限らず、公共交通、教育、介護、福祉など、広い意味での社会インフラに対して地方税が正しく使われるべきです。
■ガソリン価格に今こそメスを!
暫定税率が廃止されれば「ガソリン価格は下がる」と複数の自動車関係者は語るが、落とし穴はないのか。
桃田氏は冷静に語る。
「消費者にとって、ガソリンや軽油の価格が下がるのは歓迎すべきこと。しかし忘れてはならないのは、これらの価格が大きく左右されるのは、海外依存の原油相場です」
政府はこれまで、紛争による原油価格の高騰に対応するため、石油元売り企業に補助金を投入してきた。
「現在は原油価格が比較的安定しているものの、国際情勢次第では再び高騰する可能性がある。その場合、暫定税率の廃止による恩恵は帳消しになりかねない」

参院選の与党惨敗を受け、野党8党が結集。暫定税率廃止法案を再提出することで一致した
さらに、国沢氏はガソリン価格の適正性そのものに疑問を投げかける。
「今のガソリン価格が本当に妥当なのか。その検証すら十分に行なわれていません。野党各党は、経済産業省を交えた第三者委員会を早急に立ち上げ、価格の構造にメスを入れるべきです。
例えば、なぜコストコだけがほかより明らかにガソリンが安いのか。
暫定税率は何に使われているか? その答えは、道路だけではない。教育、福祉......。そして問題は政治の信頼回復にまで及ぶ。〝暫定〟の名を冠して50年。その使い道を、問い直すべきときだ。
取材・文・撮影/週プレ自動車班