安倍政権時代に「人生100年時代構想推進室」が設置されたのが8年前。その後、平均寿命はコロナ禍で一時やや下がったものの、今も世界最高水準にある
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
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2025年6月の名目賃金は前年同月比で2.5%上昇した。しかし物価上昇率は3.8%で、けっきょく実質賃金はマイナス1.3%となった。
さまざまな値上げの理由として、各社とも原材料費、エネルギー価格、円安、物流費、人件費を挙げる。
しかし、最後の「人件費」。高騰しているとよく聞くものの、多くのひとは自分の給料が上がっている感覚がない。仮に給料は上がっても、体感として統計以上に物価が上がり、実質賃金の統計以上に生活が苦しい。
最新の法人企業統計を調べてみた。全産業平均では、売上高における人件費比率は約12%となっている。単純化すると、100円で買う最終商品なら、12円相当が人件費になる計算だ。
仮に人件費が10%上がると、それが13.2円になる。この増加分を最終商品の売価に反映しても101.2円で、1.2%しか上昇しない。
そう考えると物価上昇以上の人件費上昇はありうるはずだし、行政はそうなることを願ってきた。
ただ現状では、人件費以外のコストが上がってしまっており、人件費は「あとまわし」にされている状況だ。
なお、人材の流動性の低さで、賃金が上がらない理由のほとんどが説明できるとする研究者がいる。多くの国では、魅力的な賃金を提示できない企業は労働者から見放され淘汰されていくため、人件費を「あとまわし」にできない状況だ、と。
流動化を進めようと思うなら、転職したら数年間は所得税ゼロにするとか、解雇規制を緩和するといった政策がありうる。
しかし、日本社会は大きな変化を嫌う。せめて社員の給与を上げた際の法人税控除の金額を、初年度だけでも現状よりドラスティックに上げるのはどうだろう。
経営者の動機になる。日本人の給与は下方硬直性といって、いちど上げるとなかなか下がらない(下げられない)ので効果が見込める。
ところでOECD加盟国の平均年収ランクでは、年により細かな変動はあるものの日本は38ヵ国中25位前後。
米国は世界4位だが、さらに上位の国は資源産出など特殊事情があり、実質的には1位だ。米国企業は世界でもっとも成功している。トランプ大統領にはさまざまな評価があるだろうが、日本からだけで80兆円の投資を引き出した。冷静に考えてすごいと思う。他国は勝てない。
いっぽう2024年の世界の長寿ランクでは、日本は堂々の1位。米国は46位とかなり低い。薬物、銃、肥満、高額な医療......多くの理由が混在し、この10年ほど、米国は先進国なのに平均寿命を縮めている。
政治の一つの目的が国民の生命を保つこととすれば、経済で失敗したように見える日本がそれをもっとも果たしているのは皮肉だ。この観点からの議論が必要ではないだろうか。
もちろん現実には「貧乏長生き国家」と「金持ち短命国家」の二者択一ではない。「単に長く生きてどうするのだ」という批判もわかる。
ただ、多くのひとたちが長く生きる国と短命な国とを比べれば、前者が望ましい。生活が大変だなあ、といいつつ職場にとどまれば、変化によるストレスも負担もない。
日本人は何を望んでいるのだろう。
写真/時事通信社