〝もしも〟を美術に持ち込んで遊ぶ!  市川紗椰『びじゅチュー...の画像はこちら >>

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は『びじゅチューン!』について語る。 

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NHK Eテレで2013年から放送されてる美術関連のミニ番組『びじゅチューン!』。私は『井上涼の美術でござる』(毎日新聞出版)という漫画を購入してから、作者の井上さんが関わってる番組として視聴してみました。そしたら個人的大ヒット!音楽の中毒性、アニメの脱力感。だけど、込められた内容は、美術史の文脈を踏まえた深い解釈と再構築。真面目にぶっ飛んでる、大好物なスタイルです。

以前から人気の高いコンテンツなので、美術館でコラボをしているのは目にしてましたが、子供向けだとスルーしてました。ごめユニコーン(『びじゅチューン!』風にごめん)。

『びじゅチューン!』はアートの知識がなくても楽しく笑えて覚えられる、ユニークな教育番組。毎回、ゴッホや葛飾北斎、フェルメールなどの著名な美術作品をテーマにしたオリジナルソング&アニメを通して、美術をポップに紹介。難しい解説ではなく、ユーモアと想像力で作品世界を拡張している印象です。

作品に〝飛び込んで遊ぶ〟感覚で、美術の世界に「もしも」を持ち込むのが魅力。

もし「風神雷神図?風」のふたりが恋人同士だったら? もしムンクの「叫び」の人物が、ラーメンをすすってから叫んでいたら?とか。小学生でもわかるような内容である一方、美術史や文化を知っている大人は元ネタとの違いやオマージュにニヤリとできる、絶妙な内容です。

おふざけの中に、ちゃんと作品への理解やリスペクトがにじんでおり、例えば風神雷神の色使いや配置、叫びの背景にある不安感や強烈な構図が、ちゃんとアニメの中に溶け込んでいます。構図、モチーフ、光、色彩、空気感。どれもアニメで遊びながら、きちんと「本物」の文脈に根を張っているので、単なるパロディではない。美術を「知る」のではなく「遊ぶ」。この発想はまさに美術の本質かも。

さらにすごいのは、番組内のオリジナルソングの作詞、作曲、アニメーション、歌、声の演技を、ほぼすべて井上涼さんがひとりで手掛けてること。楽しいメロディ、クセのある歌声、センスあふれる編曲、不思議なストーリー。作品が生まれる過程すべてを、ひとりのアーティストが自分の体を通して紡ぐ。『びじゅチューン!』自体がもはや総合芸術と言えると思う。

初めての方にオススメの回は、「夏野菜たちのランウェイ」。

インスピレーション源は、アルチンボルドによる「四季」シリーズの「夏」。野菜や果物で顔を描く独創的な肖像画で知られており、名前でピンとこない人も「あーこれね!」となると思います。番組では、ナス・ズッキーニ・サヤエンドウなどの夏野菜たちが結託して、モデルとしてミラノのランウエーを歩きます。軽快な動きもいいし、曲が無駄にドラマチックで最高。原画の野菜たちのユニークな造形も生かされている。

伊藤若じやく冲ちゆうの「動どう植しよく綵さい絵え」をベースにした「動植綵絵で迷子です」も好き。超細密な国宝「動植綵絵」の世界に小学生が迷い込むストーリーで、サビのハモリがクセになる。

ちなみに『びじゅチューン!』の曲、カラオケにあります。興奮のあまり、私は某場末のスナックで熱唱。周りがシーンとしました。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。

父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。オフィーリアの曲を練習中。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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