日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。偏屈だったおじさんが
豊かさを取り戻していくストレンジ・ラブストーリー。
* * *『マルティネス』評点:★3点(5点満点)

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©2023 Lorena Padilla Bañuelos

「おじさん」という社会的存在の問題とは

「孤独で偏屈」なおじさんが、人間らしさをわずかずつ取り戻すお話である。「取り戻す」というより、「少しずつ人間らしい振る舞いができるようになっていった」と書く方が正確かもしれない。

きっかけは、アパートの階下に住む女性が人知れず孤独死したことだった。顔を合わせたこともない彼女が、生前、どうしたわけか自分にプレゼントを託していたことを知ったおじさんは、アパート前に積み上げてあった遺品を自宅に持ち帰り、そこからいろんなことを学び始める。

亡くなった人のスケジュール帳を他人が勝手に読むのはあまりほめられたことではないと思うが、ともかくおじさんは彼女の「やりたかったことリスト」をなぞり始め、また慣れない料理を始めたりするうちに、「少しずつ人間らしい振る舞いができるようになり」、それがおじさんの人間関係にも良い影響を与えるようになっていく。

わりとジェネリックな「いい話」ではあるが、しかしそもそもの問題は「おじさん」という社会的存在を取り巻く状況、すなわちコミュニケーション不足で愛想のかけらもない不愉快な人間が「でもまあ『おじさん』ってそういうもんだから」と甘やかされてきたことにこそあったはずなのだ。

STORY:メキシコで暮らすマルティネスは偏屈で人間嫌いな60歳の男性。ある日、アパートの隣人で同年代の女性が部屋で孤独死したことが判明。彼女の私物に自分への贈り物が残されていたことを知り、次第に彼女に興味を抱くようになる

監督:ロレーナ・パディージャ
出演:フランシスコ・レジェスほか
上映時間:96分

全国公開中

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