愛知県西部、名古屋市の南東に隣接する豊明市は人口約7万人。戦国時代に織田信長が今川義元を破ったあの「桶狭間の戦い」の史蹟がある
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
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愛知県豊明市が全国初の「スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例(案)」を議会に提出。またたくまに話題となった。
スマートフォン等の過度な使用が家庭環境に影響を与えるとし、余暇時間における使用を「一日当たり2時間以内を目安とするよう」促す内容だったからだ。
全国から批判が殺到し、SNSでも否定的な意見が相次いだ。
時代遅れだ、とか、個人の自由を剥奪するな、とか、家庭しだいだろ、とか。条例が強制力をもつものだと誤解したひとも多かったのだろう。
ただ、条例(案)の全文を読んでみると、思った以上に個人の行動を縛るものではなかった。罰則はない。あくまで市や保護者、学校等が「家庭でのルールを決めるよう」ゆるやかに指導するものにすぎない。
保守的な価値観をもつ勢力が、市民へ家庭内でのスマホ使用の再考を勧めるていどの内容だ。一日2時間超の使用が「悪い」とする科学的根拠もなく、目安だ。失礼だが、目立ちたかっただけなのかな、と思えた。
なお、豊明市長はメディアの取材に対し、自身の一日2時間を超えるスマホ使用を告白した。市長だけではなく、全豊明市議のスマホ使用時間も公表したら面白い。
もし議会で居眠りをしている豊明市議がいるのであれば、「居眠りは月に2時間以内」といった規制をつくったうえで、子どもたちよりも市議のほうのスマホ利用を禁じたり制限したりしたほうが生産的かもしれない。
ところで、ここからは一般論だ。大都市の周辺にあるベッドタウンでは、議員の多くが住民の不登校対策に取り組む。あるいは教育問題に取り組む。有権者からの陳情があるし、票になるんだもん。
赤ちゃん連れの母親がスマホに目を落としていると、それがまるで乳幼児をないがしろにしているかのように見える支援者もいる。もしかすると、母親は電車やバスの乗り換えを検索しているだけなのかもしれないのに。
あるいは、赤ちゃんにスマホを見せることに嫌悪感を抱く支援者がいる。母親は動画を見せることでつかの間の休息を確保しているだけなのかもしれないのに。
それでもなお、スマホやタブレットによって、乳幼児の身体的・情緒的な発展が妨げられると心配する有権者も多い。
また、不登校の児童はスマホやタブレットなどへの依存が多いという意見を漏らす住民もいる。おそらく実際には因果が逆で、スマホを見ているから不登校になるのではなく、不登校だからスマホを見ているのだと思うが。
ただ議員としては市民の相談を受けた以上、科学的な根拠が薄弱でも、票になるのだから対応する価値がある。市議は「当選しなければただのひと」だからね。
繰り返すが、これは一般論であり、豊明市を指しているわけではない。
ところで、中長期的にはどうなのか。同種の条例を避けたほうが新規住民の呼び込みにはプラスだと私は思う。デジタル人材からは敬遠するべき地域とみなされるはずだ。私も引っ越そうとは思わないけど、市も歓迎してくれないんだろうね。
この際、豊明市は「市内での会議も2時間以内」という条例を作って挽回(ばんかい)してほしい。退屈な会議より、子どもの見る動画の方がよっぽど有意義だろう。動画とちがって会議には倍速ボタンがないし。