日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。20世紀後半を駆け抜けた、悪名高い実在の人物の愛と破滅のシネ・バラード。
* * *『リモノフ』
評点:★4.5点(5点満点)
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© Wildside, Chapter 2, Fremantle España, France 3 Cinema, Pathé Films.
滅茶苦茶と矛盾の内にこそ「人間性」がある

ソ連時代のロシアに生まれた「パンク」な詩人・作家であり、さらにラジカルで危険な政党を立ち上げて投獄されたエドワルド・リモノフの破天荒でクレイジーな人生を、映画的な技巧を凝らしたイメージの奔流として描いた超・意欲作である。

監督は『チャイコフスキーの妻』でもその卓越したビジュアル・センスを見せつけたキリル・セレブレンニコフで、1960年代から2000年代に至る激動の時代を通じ、ソ連、アメリカ、フランスと世界をさすらうリモノフを鮮烈な印象と共に映し出す。

そこに浮かび上がるのは歴史と状況と思想が渾然一体となった、「おそろしくロシア的であると同時に果てしなく反ロシア的でもある」きわめて特異な精神性である。

主人公リモノフは繊細で粗雑で、クールでありつつどうしようもなくダサく、知的で愚かしい、矛盾そのものを擬人化したような人物として描かれる。

しかし、やることなすこと全てが滅茶苦茶なリモノフの姿が強く心を揺さぶるのは、そこにひとつの、どこまでも誠実な魂のあり方が垣間見えるからだ。

誤解を恐れずに言うならば、筆者は人間は「この映画内の」リモノフのようにあるべきだと、心のどこかで確信しているのである。

STORY:詩人であり革命家、いくつもの顔を持つ実在の人物エドワルド・リモノフの激動の人生を描く。ソ連から亡命し、名声と自由を求めアメリカ、フランスへと渡る。孤独と挫折を繰り返しながらも、自らの言葉で世界と闘い続けた男の物語


監督:キリル・セレブレンニコフ
主演:ベン・ウィショー 
上映時間:133分

全国公開中

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