日本版DOGEこと「租税特別措置・補助金見直し担当室」は、行政改革推進本部(本部長・高市早苗首相)の下に置かれた新しい組織だ
「租税特別措置・補助金見直し担当室」が11月25日、スタートした。アメリカの政府効率化省(DOGE/ドージ)を引き合いに「日本版DOGE」と呼称されるこの組織だが、掲げられた大目標「政府の無駄を削減」を達成できるのだろうか?
財務省関係者や官僚OBらに話を聞くと、霞が関はこの新しいコストカッターへの対策をバッチリ準備しているようで......
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【"本家"の突然の幕引き】政府は11月25日、「日本版DOGE」と呼ばれる新組織を発足させた。
この組織は、自民党と日本維新の会が10月下旬に交わした連立政権合意書で、「政府効率化局(仮称)」として創設が明記されていたもの。米トランプ政権でイーロン・マスク氏が率いた「政府効率化省(DOGE)」になぞらえ、政界やメディアでは「日本版DOGE」の呼称が定着した。
担当大臣は片山さつき財務相が兼任し、財務省や総務省などから約30人の官僚が配置された。片山氏は11月25日の記者会見で「精鋭ぞろい」と胸を張った。
トランプ米大統領(右)肝いりで今年1月にスタート、イーロン・マスク氏(左)がトップとなった「政府効率化省(DOGE)」だが、1年持たず解散となった
しかし、日本版DOGE発足の2日前、アメリカのDOGE「解散」がロイター通信で報じられた。本来は来年7月まで存続する予定だった"本家"の唐突な幕引きに、官邸周辺では日本版DOGEの行く末を不安視する声もある。
今年1月、アメリカのDOGEは大統領令により設立された。トップに抜擢(ばってき)されたマスク氏は2月、ワシントン近郊での保守派の集会にチェーンソーを掲げて登壇し、「これで官僚機構を切り倒す!」とぶち上げた。
実際にその後、連邦職員の大規模な解雇やLGBTQ関連施策の廃止が続々と進み、発展途上国援助や支援を担ってきた米国際開発局(USAID)も閉鎖に追い込まれた。
アメリカ在住のジャーナリスト・冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)氏はこう見る。
「USAID閉鎖には、かねて富裕層から『税金のムダ遣いだ』と批判があった途上国支援を打ち切ることで、その浮いた金を富裕層支援に回そうという意図が見えます。
そして、LGBTQ関連施策の廃止は、保守層に根強い『白人男性が不当に扱われるのではないか』という懸念が背景にある。単なるコストカットではなく、DOGEの動きには強いイデオロギー色がありました」
「DOGE」のロゴマーク。日本の柴犬がモチーフのミーム「Doge」から生まれた暗号通貨、ドージコイン(DOGE)と同じ略称であることからこのデザインに
では、なぜDOGEは突然解散することに? 冷泉氏は「実は、誰も実態がつかめていない」と前置きしつつ、こう続ける。
「米国版DOGEの肝は、マスク氏が卓越したエンジニアを招集し、省庁の基幹システムの"スーパーパスワード"を次々とこじ開け、データアクセス権限を奪っていった点にあります。
これによって、各省の事業の中身、予算の執行状況、補助金の流れが丸裸にされた。さらに、問題だと判断された事業については、システム上のワークフローに直接介入し、支出を止めるところまで踏み込んだとされます。実際、大学向けの研究補助金や助成も、このプロセスで次々と凍結されています」
しかし、マスク氏の強引な手法は反発を招き、テスラ不買運動が勃発。同社の売り上げと株価は急落し、株主から責任追及の声が高まった。
「その影響もあって、マスク氏は今年5月にDOGEのトップを退任しました。指揮官を失った組織は急速にしぼんだと見られています。ただし"マスクキッズ"と呼ばれる側近の技術者たちは今も政府内に残っており、アクセス権限の一部は保持しているともいわれます」
【日本版DOGEの"標的"】では、日本版DOGEの現状はどうか? 財務省の関係者がこう説明する。
「現在、財務省主計局・主税局、総務省の自治税務局や行政評価局から約30人が集まり、令和8(2026)年度予算の編成作業と並行して点検作業を進めています。政策効果の低い施策を見極め、来年度予算から反映していく予定です」
各省のムダ削減といえば、09年の民主党政権時代の「事業仕分け」や、現在も続く行政事業レビューがあるが、維新所属の衆議院議員、青柳仁士(ひとし)氏はこう強調する。
「事業仕分けや行政事業レビューで踏み込めなかった聖域があります。それが、租税特別措置(以下、租特)。日本版DOGE設置の最大の意味は、まさにここにあります」
租特とは、特定の業界団体や企業に適用される減税措置のこと。代表例が、高い賃上げを実現した企業の法人税を減額する「賃上げ促進税制」だ。
ある政策目標の実現のために一定の条件を満たした企業の税負担を軽減する仕組みだが、その中身は極めて不透明といわれる。青柳氏が続ける。
「国会審議はほとんど行なわれず、対象企業が非公表である上、会計検査院による審査も限定的。租特が『隠れ補助金』と呼ばれるゆえんです」
そのメニューは200項目近くに及び、財務省の試算では、租特による税収減は年間4兆~7兆円に上るとされる。
税制に詳しいある野党議員は、租特の問題点をこう指摘する。
「精査すれば、首をかしげたくなるような租特はいくらでも見つかります。
しかも、こうした租特の新設や維持は長年、自民党の税制調査会の内部で議論され、議事録すら公開されないブラックボックスの中で決まってきた。その結果として、業界団体が陳情し、それを受けた族議員が動いて租特が積み上がり、既得権益化されていくという構図が延々と繰り返されてきたのです」
その聖域にメスを入れるのが日本版DOGEだ。そして、最初の標的になりそうな租特が、経済産業省所管の「研究開発税制」である。
企業の研究開発を促すため、試験研究費の1~14%を法人税から控除できる制度で、22年度は製造業を中心に計7636億円が減税された。中小企業も使える制度だが、現実には研究開発余力のある大手企業に偏る傾向が強い。
「ある大手自動車メーカーは22年度だけで900億円超の恩恵を受けたとされます」(前出・野党国会議員)
さらに、元経産官僚の古賀茂明氏がこう話す。
「研究開発税制は、海外の研究機関に依頼した案件も対象になっているなど運用に疑問があります。また、減税の効果検証も十分とは言えません」
政府関係者がこう続ける。
「まずは最も問題視される研究開発税制を是正し、数千億円規模の財源を生み出せれば、大きなアピールになります。日本版DOGEの存在感を示し、政権の支持率向上にもつながるでしょう」
「本気度が違う」
だが、こんな冷ややかな見方も存在する。ある財務省OBはこう語る。
「担当室に配置された30人の官僚が本気で租特の見直しに踏み込むとは思えません。本気でやれば、古巣に戻れなくなるリスクがある。租特や補助金は各省にとって、毎年、自動的に積み上がる既得権益。それを削った官僚は省内で疎まれ、出世も遠のく」
官僚側の抵抗は巧妙だ。
「まず、自分の担当する事業の予算を守るため、情報を出し渋ります。次に、査定者を混乱させるため、類似した資料や別種のデータを大量に出し、点検作業を複雑にする。基金に資金を移したり補正予算に紛れ込ませたりする"溶かし込み"と呼ばれる手法もあり、これを繰り出されたら実態はより見えにくくなる。
象徴的な租特ひとつ削るにも膨大な手間がかかるため、30人程度では、とうてい太刀打ちできない。霞が関はDOGEの体制を聞いて内心ほくそ笑んでいるはずです」
前出の古賀氏もこう指摘する。
「企業・団体献金の9割は自民党に流れ、その大口スポンサーが享受しているのが租特という既得権益ですから、自民党が本気で手をつけるとは考えにくい。結果として、反発の小さい中小・零細企業向けの補助金や支援策に矛先が向かう懸念があります」
一方で、霞が関の一部では警戒感も高まっている。
「今回は本気度が違う。
さらに、自民税調の異例の人事もあった。長年、そのトップである税調会長を務めていた宮沢洋一氏を外し、税制や予算に詳しいとは言えない小野寺五典氏を起用したんです。財務省OBがトップを務めてきた慣例を破り、租特を含む税制が首相の意向で動かしやすい状況になりました」(前出・財務省関係者)
その上で、日本版DOGEの実務を仕切るのは、元財務官僚の片山財務相だ。
「片山氏の陣頭指揮の前では、財務省も強く出られない。現・財務事務次官も片山氏より5年後輩で、逆らえる立場ではないと言っていい。長年の聖域とされてきた租特に本格的に斬り込む......そんな高市政権の強い意志を感じさせます」
日本版DOGEは"本家"とは違う道を歩めるのか。今後に注目だ。
取材・文/興山英雄 写真/共同通信社 時事通信社





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