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1月31日、高市首相は演説で「円安で外為特会の運用もホクホク状態」と発言。批判が殺到した

衆院選で歴史的大勝を収めた高市首相だが、実は経済分野に関して、選挙前より思わぬ面々から激しいツッコミを受けていたのをご存じだろうか? このまま突き進むと、"サナエ・ショック"の危機が!?

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【「ホクホク発言」の問題点】

「外為特会でホクホク発言」で、恐怖の「サナエ・ショック」"株&円&債券トリプル安!!!"がマジで来るぞ!!
衆院選が自民党の大勝に終わると、日経平均株価は急上昇。選挙後の2日間で計3396円もの上昇を見せた

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選挙後の2日間で計3396円もの上昇を見せた

空前の自民党圧勝で幕を閉じた衆院選だが、高市首相の経済認識について、各方面から批判の声が上がっている。

まずは日本経済新聞。衆議院解散が決まった1月19日以降、にわかに政権批判に転じたのだ。消費税に関する発言の変化を批判する記事を皮切りに、社説でも「大義みえない解散」と指弾。

さらに選挙結果についても「政党政治が溶解していく『日本型ポピュリズム』の一つの到達点」と評した。経済評論家の佐藤治彦氏は「異例の事態だ」と言う。

「日経新聞は本来、政権との軋轢(あつれき)をあえて生むような媒体ではありません。また、企業業績にプラスとなる経済環境を望んでいるため、積極財政を手厳しく批判することは珍しい。なのにここまで筆鋒鋭い記事が出たのは、よほどの危機感が社内で共有されたのだと思います」

危機感の中身は後述するとして、次の批判に移ろう。2月2日、3大メガバンクの一角を占めるみずほ銀行に籍を置く、著名エコノミストの唐鎌(からかま)大輔氏が「高市演説を受けて~危うい現状認識~」と題するリポートを発表。1月31日の衆院選応援演説における「円安によって外為特会の運用はホクホク状態」という発言を引用し、高市首相の経済認識に警鐘を鳴らしたのだ。

唐鎌リポートの要旨は大きく2点に集約される。

前半では、外為特会は非常時に使うための資金であり、儲かっているから流用してもよいわけではないと指摘。

そして後段では、演説全体を通して貫かれた「円安によって国内投資が活性化し、日本経済にメリットがある」という認識に対して、データを示して「前時代的な発想」と訂正したのだ。

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みずほ銀行も日本経済新聞も、高市首相の経済認識に対して疑問を投げかけるリポート・記事を選挙前に発表していた

みずほ銀行も日本経済新聞も、高市首相の経済認識に対して疑問を投げかけるリポート・記事を選挙前に発表していた

プロは唐鎌リポートをどう読んだか。金融ストラテジストのカツキタロウ氏に聞いた。

「内容は最初から最後まで、いたって正しい分析・提言です。一部のメディアやSNSで『みずほ銀行が、政権に対決姿勢を示すような異例のリポートを出した』と注目されましたが、これは定例のマーケットリポートであり、なぜここまで大ごとになったのかと不思議がる声も金融関係者の間で聞かれました」

レポートの内容をカツキ氏に噛み砕いてもらおう。

「外為特会は外国為替資金特別会計の略で、政府が一般会計とは別に管理している特別会計のひとつ。主に為替介入の資金として積まれているものです。一昨年には、急激な円安進行に待ったをかけるため、外為特会の米国債を売る『ドル売り・円買い介入』が行なわれました」

外為特会の米国債からは利息収入が得られるので、この額が円安で膨らむのは確か。そして、外為特会で毎年生じる剰余金のうち、7割までは政府歳入として使うことができると法律で定められている。

実際のところ、昨年の外為特会剰余金から、約3.2兆円が2025年度の一般会計に、約7800億円が26年度の歳入に繰り入れられている。

衆院選において自民党が選挙公約とした、食品にかかる消費税の2年間免除を実行した場合、歳入が1年で約5兆円減少するというのだから、外為特会からの収入増を喜ぶのはゆえなきことではないわけだ。

「なので、その部分だけを取れば、高市首相が『ホクホク』と言ってしまった気持ちもわからなくはない。とはいえ、円安がもっと進めば結局はその資金を使う事態になってしまうわけですから、唐鎌氏の懸念はもちろん正当。不用意な発言だったということでしょう。本気で取り崩して使うことまでは考えていないと思いますし、実際に首相は発言の釈明を行なっています」

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高市首相の「ホクホク発言」を受けて、片山さつき財務大臣は「教科書どおりで、特に円安メリットを強調しているわけではない」と火消しに回った

高市首相の「ホクホク発言」を受けて、片山さつき財務大臣は「教科書どおりで、特に円安メリットを強調しているわけではない」と火消しに回った

国内投資を喚起するための円安容認、というくだりについてはどうだろうか。

「高市首相のロジックは①円安によって日本国内の土地や設備、人件費などがお買い得になるので、国内外の企業が日本に投資しやすくなる、②この動きは国内産業を振興するため、円安は望ましい、というもの。ただ国内投資の統計を見ても、アベノミクス以降の円安局面において投資が増えていない点を唐鎌氏は指摘したのです」

【みずほ銀行の危機意識】

後に唐鎌氏本人からも、リポートに政治的意図はないというコメントが出ている。ただ、前出の佐藤氏は「うのみにはできない」と首を振る。

「銀行業は金融行政の監督下にある、ガチガチの規制産業であることを忘れてはいけません。その上、選挙期間中という最もセンシティブな時期に、高市首相に相当なダメ出しをするリポートが世に出ることを、みずほ銀行は容認した。この意味を考えると、みずほ銀行は高市政権に対して、よほどの危機意識を持っているんじゃないかと思ってしまいます」

どういうことか。

「唐鎌さんは政治的な意図はないとおっしゃった。別に野党を応援したかったとか、そんな話ではまったくないでしょう。

ただ、日本経済や国民生活にとって明らかに厳しい円安が続く環境において、著者も所属先も強い不安を抱いて、言わざるをえなかったんじゃないかと思います」

リポートの内容は完全におっしゃるとおりと、佐藤氏も賛意を示す。その上で、今回の問題の核心である、高市首相のメリットなき円安志向についてこう言う。

「結局のところ、円安は輸出企業の利益を増やす働きはあっても、日本国民が実感できるような経済成長にはつながってこなかった。それどころか生活実感はずっと悪くなっている。こんな状況で、まだ円安メリットの幻想にすがって積極財政を掲げ、利上げを牽制して金融緩和を求めていることが大問題なんです」

【トラス・ショックが日本にも!?】

すっかり生活に定着した感のあるインフレは、特に食品において顕著だ。昨年12月の消費者物価指数は前年同月比でプラス2.4%となっているが、「生鮮食品を除いた食品」で見ると、プラス6.7%とまだまだ高い。平均的には賃上げもまだまだ追いついていないのが現状なのだ。

「メディアでは円安といってドル円レートだけを追いかけていますが、実はドルも他の通貨に対して安くなっています。つまり、現状はドル安・超円安なんです。だから、アジアや欧州の通貨と円のレートを見れば、目がくらむほどの円安になっている。ドル円レートだけを見て、『150円台で落ち着いている』なんて考えていたら、水面下の円安は止まらないですよ」

実際のところ、日本の輸入総額のうち、米国以外からの比率が8割強を占めている。その上で、世界各国の通貨に対する日本円の価値を表す指標「実質実効為替レート」に目を向けると、日本円の価値はなんと半世紀前よりも低くなっている。

当時が1ドル=300円前後だったことを考えれば、やはりドル円レートだけを見ていても、円の価値を知ることはできないことがわかるだろう。

「外為特会でホクホク発言」で、恐怖の「サナエ・ショック」"株&円&債券トリプル安!!!"がマジで来るぞ!!
米ドルを含めた他通貨と比較した円の価値を示すグラフ。現在は50年前を下回る水準まで通貨安が進行していることがわかる。日銀データから編集部作成

米ドルを含めた他通貨と比較した円の価値を示すグラフ。現在は50年前を下回る水準まで通貨安が進行していることがわかる。日銀データから編集部作成

「この超円安は、金融市場からの高市政権への警告であることは明らか。日本国債の信認を示す10年国債の金利も、昨秋の自民党総裁選で高市さんが勝利して以降、上昇スピードが加速しています。

唯一順調なのが株式市場ですが、これだって金利動向や海外の事情によって、いつ崩れるかわかりません。そうなれば株・円・債券の『トリプル安』になって、日本発の経済ショックが世界を襲うことになりかねません」

2022年、英国のトラス政権が打ち出した財源なき大規模減税が金融市場の不信を買い、トリプル安が起こった。この市場パニックは「トラス・ショック」と呼ばれ、トラス首相は減税撤回の末、就任44日で辞任に追い込まれたのだ。

この再来となる〝サナエ・ショック〟こそが、日経新聞やみずほ銀行が恐れているものだと佐藤氏は言う。

「2016年、当時の高市総務大臣は〝政治的に公平性を欠く放送〟が繰り返された場合、電波法に基づき電波停止を命じる可能性があると発言しました。民間企業に公権力をちらつかせる方が今、国の最高権力者である首相をやっているわけです。

政府が民間企業にくぎを刺す方法は、行政による監督でも、税務調査を厳しくするでも、なんでもあります。

それを覚悟して警鐘を鳴らした、日経新聞とみずほ銀行はよくやったと、私は評価したいですね」

穏健勢力だった公明党の連立離脱に、自民党単独での大勝という選挙結果が加わり、高市首相を止める政治的なブレーキは見当たらない。

歯止めをかけられるのは今や米国、あるいはマーケット関係者しかいないのだ。いずれにせよ、そのブレーキ不在のツケを払うのは日本国民であることに間違いない。

取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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