「責任ある積極財政」をスローガンとする高市首相。その観点で見て、食品消費減税は果たして実施するかいのある政策なのだろうか?
高市首相が意欲を示す「食品消費減税」。
いったいなぜ!? 絶対に見過ごせない論点を厳選して検討してもらった。で、結局、減税はアリ?
【食品消費税ゼロ本当にやるの?】2月20日に行なわれた高市早苗首相の施政方針演説。自民党単独で316議席という歴史的大勝を背景に、意気揚々と「成長のスイッチを押して押して押して押して押しまくってまいります」と自らの持ちネタをこすってみせたその姿は、凱旋スピーチさながらの高揚感に包まれていた。
しかしその中で、奥歯に物が挟まったかのような物言いをした箇所があったことはご存じだろうか。選挙公約の目玉、食品・飲料にかかる消費税を2年間ゼロにするという政策についての発言である。
その内容は「減税実現に向け検討を加速させ、野党の皆さまのご協力が得られれば、法案の早期提出を目指します」というもの。単独で圧倒的多数を押さえているというのに、なんだか実現までのハードルをずいぶんと強調しちゃってない? ここに高市首相の逡巡を読み取らずにはいられない。
実際、衆院選後の最新の毎日新聞による世論調査でも「確実に財源を確保できない場合は(食品消費税を)減税すべきではない」が47%と最多になっている。後述するように、消費減税がもろ刃の剣である以上、首相も慎重にならざるをえないのだ。
とはいえ、スケジュールどおりなら2026年度内には実現する可能性が高いのもまた確か。野党が頼りないからこそ、ここはやはり制度設計やその実効性、影響について、マジメに考えておかねばならないだろう。
まずは基本的なところをおさらい。今回の措置は飲食料品の消費税率を2年間に限定して0%とするもので、その最大の目的は物価高対策だ。食品インフレを緩和するもくろみに加えて、消費活性化による景気浮揚、さらに消費税の問題点とされている、低所得者にダメージが大きい「逆進性」を軽減する意味もある。
夏前の中間取りまとめを経て詳細を固め、開始は今年度内を目指すとした。一見、もしすべてがタテマエどおりに実現するのなら、悪くない政策のように思えなくもないが、油断は禁物。まずは制度設計からチェックしていこう。
【ツッコミどころ① 財源はどうする?】減税が実現した場合、年間約5兆円の減収になるという試算がある。その穴を埋める適切な方法があるのか、経済評論家の佐藤治彦(はるひこ)氏に聞いた。
「首相は赤字国債を発行せず、補助金の見直しや企業向け減税措置の縮小、国有地の売却などの税外収入で財源を確保する方針を示しています。要は、5兆円はどうにかかき集めますと空手形を切った。
ただ、これにはふたつ大きな問題があります。ひとつはその集め方が、与党の政治的な思惑実現に利用される可能性があること。
例えば、自民党を支持しない団体が恩恵をこうむる補助金が優先的にカットされていくのが目に浮かぶ、と佐藤氏は言う。また、後者はさらに大きな問題だ。
「5兆円の税収減のうち、約2兆円が地方の税収の減少となります。先般行なわれたガソリン暫定税率廃止でも、地方税収が約5000億円の減少となったばかり。国は責任をもって穴埋めするとしていますが、財源の手当てが間に合わず、実際に穴があいています。
これに消費税の減収まで一時的にでも加われば、規模の小さい自治体にとっては死活問題。住民サービスにも支障を来しかねません」
さらに、想定できる最悪の事態は、財源を手当てしきれず赤字国債の発行に至ること。そうなれば財政再建路線の放棄とみた内外の投資家が日本国債を売り、円安も一挙に進みかねない。
結果、食品の原材料やエネルギーの価格が上がってしまえば、物価高対策が物価高を呼ぶ悪夢が、現実になる可能性すらある。
【ツッコミどころ② 減税対象は食品すべてでOK?】佐藤氏が解説する。
「ひと口に食品と言っても、お米や食パン、醤油、味噌などの生活の基礎を成すものから、デパ地下で売っているキャビア、100g3000円の和牛すき焼き肉まで含まれます。これらの消費税が一律にゼロになるなら、庶民と富裕層のどちらがより得をするか、考えるまでもないことです」
佐藤氏は品目や食材のグレードに応じて、細かく税率を設定すべきだと強調する。
「消費税の先輩格である欧州では、15~27%もの高率がかけられています。ただし食品には軽減税率が適用され、特に野菜や果物、肉、乳製品、小麦粉などは低率、もしくはゼロ。医薬品や公共料金、教育サービスなども同様です」
その代わり、嗜好品や高級品には高率をかけ、所得が低い人の負担をきめ細かく取り除いているのだ。
「もちろん、先に触れた政治的な思惑や利権が品目ごとの税率に紛れ込む可能性は否めません。それでも一律減税よりはマシでしょう」
一律で減税するのではなく、コメや醤油、味噌といった生活に必須の食品だけ減税するという手もある
【ツッコミどころ③ 2年限定でいいのか?】
これこそが最大の問題だ、と佐藤氏。
「あくまで物価高対策なので、物価上昇がある程度収まったら元に戻すんだと。それで2年の期限付きとしたわけですが、約束どおり食品消費税を8%上げれば、当然ながら景気は失速するでしょう。よりによって2年後の28年には参議院選挙が控えていますから、元に戻せるわけがないという話です」
一度なくしてしまえば、結局は恒久減税になる可能性が限りなく高いということだ。
「欧州を参考に、基礎的な食材のみ消費税はゼロとして恒久化するのが、経済の混乱と歳入欠損を軽減するせめてもの工夫ではないでしょうか」
【ツッコミどころ④ 小売店の事務負担、ヤバくない?】続けて、消費減税が実現した際に現場で起こる問題を考えたい。まずはお店の手間について、フードジャーナリストの山路力也(やまじ・りきや)氏に解説してもらおう。
「スーパーやコンビニなどの小売店はレジの改修や棚札の張り替え、受発注システムの変更などの膨大な対応コストを負うことになります。
消費の活性化を目的のひとつとしていながら、小売店にとってはコスト負担があまりに大きく、メリットが帳消しにされかねないのだ。
【ツッコミどころ⑤ ホントに店頭価格は下がるの?】山路氏が続ける。
「減税分だけ価格が下がると思いたいところですが、おそらくは期待薄。物価高は販売側も当然に対応を迫られていますから、減税分の一部がコストアップの穴埋めや社員のベースアップに回っても、責めることはできないでしょう。そうなれば当然、消費を喚起する効果も限定的です」
われわれが食品を購入するまでには、メーカー→卸→小売りという流れがある。この中で、メーカーや卸は企業間の取引であり、お互いの懐事情もわかるため、減税分を比較的ストレートに価格に反映させるだろう。それで販売数が増えれば利益にもはね返る。問題を抱え込まされるのは小売りだと、山路氏は警戒する。
「小売りでは先ほどの理由から、価格をあまり下げないのが基本線ではあるものの、お客さんは減税で期待が高まっています。その需要を取りにいくお店が価格競争を仕掛ければ、結局は一様に巻き込まれ、小売りがこぞって利益率圧迫に苦しむ展開すらありえます」
消費者の恩恵が少ないパターンと、小売店が負担を抱え込むパターン。いずれにせよ、減税が効果的に機能しなそうだと言える。
「勝者と敗者がくっきり分かれそうです。例えば、富裕層が相手の高級レストランや料亭などは、なんら影響はないでしょう。一方で、苦しいのはラーメン店や定食など、普段使いされてテイクアウトやデリバリーと競合するようなお店です」(山路氏)
スーパーやファストフードで買って家で食べる、いわゆる「中食」の消費税はゼロになる一方で、外食の消費税率は10%のままなのだから、これはたまらない。
「外で食べるより家で済ませる、節約志向が加速するでしょう。ただでさえコストアップと価格転嫁の難しさで倒産続出が報じられている、ラーメン業界などはどうなるのか。ただただ心配です」
* * *
結局のところ、食品消費税の一律カットはあまりにもガバガバすぎる! 「なんか意地悪やなぁ」と言われるかもしれないけど、高市首相、やるならほんまにようよう考えてや~!!
取材・文/日野秀規 写真/時事通信社 PIXTA





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