今年の集英社文庫「ナツイチキャンペーン」でマスコットキャラクターを務めたAKB48の精鋭85人が書いた直筆読書感想文が、単行本『AKB48×ナツイチ直筆読書感想文集』になりました。

そこに収録される特別企画より、ほの暗くてエグい描写で知られる芥川賞作家・田中慎弥と、AKB48のど真ん中・大島優子による“異色”対談をどうぞ! 

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田中 大島さん、普段『共喰い』のような純文学系の小説はあまり読まれないでしょう。
読みづらかったんじゃないですか?

大島 読みづらかったというわけではないんですけど、読んでいて頭がコリました(笑)。普段は機能してない頭の部分を動かしてもらった感じがします。私は小説を読むとき、自分が今まで見たことのある光景だとか、記憶を小説に当てはめて読むということはまずなくて。文章に書いてあるとおりに、情景やイメージをそのままストレートに頭の中につくり出して読んでいくんですね。今回は、なかなか手ごわかったです(笑)。

田中 褒め言葉だと受け止めます(笑)。
今まで読者の頭の中になかったものを引っ張り出す、というのが作家の役割だと思うので。

大島 でも物語というのは、見たことがある光景とか実際の体験がないと書きにくいんじゃないのかなと思ってしまうんですが。

田中 『共喰い』は私が子供の頃に住んでた家の近くの光景を、ほぼそのまま登場させているんですね。でもそれは土台の部分で、その土台の上にどんな人物を配置して、どう動かしていくか、それはもう虚構の世界なんです。原稿に自分の感情をぶつけるんだという作家もいるでしょうけど、むしろ感情を出すのが、僕は怖い。

大島 それはなぜですか?

田中 私は山口県の下関で母と暮らしているんですが、高校を卒業してからデビューする32歳ぐらいまで、いわゆる引きこもりの状態でした。
普通には生きてこられなかったというコンプレックスがある。日本語の読み書き以外何もできない、その唯一の取りえに、しがみつくようにして書いてきたんです。そもそも小説を書く人間というのは弱い人間だと思います。結局、私は臆病者なんですよ。小説という鎧(よろい)を着て、その中で生身の自分を守っている。


大島 私は真逆だなって思います。
今のアイドルって、さらけ出さないとやれない仕事だと思うんです。自分の中身を出して出して出して、どんどん出していくことによって、ファンの方が応援してくれる。

田中 自分の中身を出す、ということに恐れはないですか?

大島 恐れは、あります。

田中 それでもやらざるを得ないんだ、と。作家っていうのは、ものを見る職業なんですね。世の中にあるものを徹底的に見て、どう描写したら伝わるかを考えて書くのが仕事なんです。
でも、アイドルは徹底的に“見られる”存在だと思うんです。人間としていろんなものを見たり聞いたり食べたりしてるはずなのに、それが消えてしまうぐらい人から見られている、そういう存在なのかなと思う。

大島 私は、人からどう見えるかなって意識することで初めて、自分がつくられていく感覚があるんです。自分は見られているんだという意識がなくなったら、私はダメになっちゃう気がします。でも、「AKB48をアイドルと自称していいのかな?」って、疑問を感じることもありますね。

田中 アイドルでしょう?

大島 たぶん自分たちでアイドルと言っているからアイドルなんです(笑)。
いわゆるアイドルってどこか雲の上の存在というか、AKB48みたいに自分をさらけ出してはいなかったと思うんです。

田中 確かにファンとの距離は近いと思います。でも、近ければ近いほど絶対に越えられない一線を感じるというのはあるんじゃないか。遠くで見ている分には、ただ仰ぎ見ていればいいし、好きなように妄想する自由もある。でも、近づけてしまえることは、とても残酷な現実が見えてしまうことでもあって……。ファンはそこに熱狂してるんじゃないですか。


大島 田中さんはAKB48のことをすごく「見ていらっしゃる」んですね(笑)。

田中 それが作家の仕事ですから(笑)。

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田中 大島さんが感想文で書いてくださったのは、「喰い」は、悔いるの「悔い」なんだと。登場人物3人が、それぞれ悔いているんだと。この感想に出会ったのは初めてでした。そもそもこの小説は、ストーリーだけで突っ走ろうと思って書いたので、感情描写には至っていないんですね。

大島 父親の円、母親の仁子さん、そして高校生の遠馬という3人が、「事件」の前後でそれぞれどんな感情になったかは、確かに小説の中には書かれてないですね。でもきっと、「やってしまった」とか「あのとき、ああしていれば」と思ってるんじゃないかなって。


田中 実は、私はこの母親は自分のしたことをそれほど後悔してないんじゃないかと、どこかでそんなふうに思いながら書いたんです。

大島 確かに仁子さんは自分が夫を殺したことは全然悔いてないと思ったんです。でもそれによって周りにいた人たちに起こったことや、そもそも自分が守り切れていなかったということに対して悔いていると思ったんですね。

田中 なるほど……そうかもしれない。書いた本人ながら今、初めてそう思いました(笑)。最後の一文もよかったです。「私は、後悔しないように足下の石を拾い、川を渡り、夢に向かって喰らいついていきたいと思った」

大島 ……実はその最後の文章、AKB48の曲の歌詞なんです。

田中 あっ、『RIVER』だ!

大島 早いですね、気づかれるの(笑)。私が歌っているフレーズなんですよ。「足下の石をひとつ拾って がむしゃらになって 投げてみろ!」。それから、「川を渡れ!!」。けっこう無理やりなんです。

田中 いや、無理やりではないですよ。私は小説の中で事件の結末をほっぽり出して終わっちゃったんですが、あんなひどい目に遭った女性がどうやって生きていくのかというところまで想像を働かせてくれたんだと思いました。

大島 頭はコリましたけど(笑)、書き終えたときはものすごい達成感で気持ちよかったです。

田中 悩ませてしまいましたね。次はもっと読みやすい、感想を書きやすい小説を書きます(笑)。

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“共喰い”対談の完全版は発売中の文集に収録しています!

(構成/吉田大助 撮影/中川有紀子)

●田中慎弥(たなか・しんや)


1972年生まれ、山口県出身。高校卒業後、古今東西あらゆる本を読みあさり独学で小説を学ぶ。2005年、『冷たい水の羊』で新潮新人賞を受賞し、デビューを果たす。2012年、『共喰い』で芥川賞受賞。同作は青山真治監督によって映画化され、現在絶賛公開中

●大島優子(おおしま・ゆうこ)


1988年生まれ、栃木県出身。AKB48チームKキャプテン。2006年2月、「第二期AKB48追加メンバーオーディション」で合格。2013年の「総選挙」は第2位。2012年に映画『闇金ウシジマくん』で第36回日本アカデミー賞話題賞(俳優部門)を受賞している

■『AKB48×ナツイチ直筆読書感想文集』


「ナツイチキャンペーン」でAKB48のメンバー85人が執筆した、85冊の集英社文庫の読書感想文を完全収録!! 発売中(定価998円・税込み)


【http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780702-8&mode=1】

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