今年はじめ、アメリカのネット通販最大手アマゾンが、電子書籍端末「Amazon Kindle」向けの自費出版著者印税を70%に引き上げることを発表した。

 値段は1部につき3ドルから10ドルで、アマゾン以外の電子書籍店でその本を売る場合、アマゾンでの価格が一番安くしなければいけないこと、宣伝などのマーケティングが全て著者側が行うことなど、非常に厳しい条件はつくものの、この破格ともいえる著者印税70%は、誰もが「おいしい」と思える数字であるはずだ。


 しかし、『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(大原ケイ/著、アスキー・メディアワークス/刊)の中で描かれているのは、アメリカで起きている「著者印税70%」の過酷な現実だった。

 著者の大原ケイさんは、自費出版における電子書籍がヒットするのは「いわば宝くじが当たるようなもの」だと指摘する。

 キンドルの印税70%ある主婦が10年も書き溜めていた原稿をアマゾンで自費出版したところ、1年も経たないうちにキンドル版で36000部も売れ、映画化権のオプションが売れたというニュースがあった。しかし、そもそも滅多に起こらないからニュースになるのであり、こうした成功のケースは、ほとんど見られない。
 さらに驚くべきは、この主婦が書いた電子書籍の値段が2ドルにも満たないことだ。そして、紙の本として出版されて、はじめて作家としてスタート地点に立てるという筋書きなのである。

 こう考えると、電子書籍の自費出版における「印税70%」は数字だけはおいしいと思えても、実際はとても微妙なところだろう。 本を執筆するためには、余程の労力と時間をかけないといけないし、それが全く売れない、もしくは多少売れても元値が低いためほとんどお金にならないとすると、コストパフォーマンスとしても疑問符がつく。

 「Amazon Kindle」や「iPad」といった電子書籍端末の登場は自費出版を容易にしたが、アメリカの混沌とした状況を見させられると、「本を出版するとはどういうことなのか」を考えさせられてしまう。
 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』ではアメリカで電子書籍が広がっていく様子が克明にレポートされている。この「自費出版の変化」はその中のトピック1つに過ぎないが、それだけでも出版に形が大きく変わることを想像させる。電子書籍の波は確実に日本にも押し寄せてきている。
少し先の電子書籍を取り巻く日本の状況を予想したい人は是非読んでおいて欲しい一冊だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)


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