男性諸子なら少なからず格闘技に憧れた経験はあるだろうが、その中で疑問に思うことも多いはず。そんな格闘技の疑問に、力学と解剖学の見地から答えてくれるのが『格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析!』(吉福康郎/著、ソフトバンククリエイティブ/刊)だ。


 最も初歩的な科学として、打撃技の衝撃力はどのように発生するのかを考えてみよう。衝撃力は、つまり運動量だ。「運動量=質量(m)×速度(v)」である。質量が多くて、速度がある打撃が強い衝撃となって、相手にダメージを与える。

 では、よく耳にする「打撃の鋭い・重い」とはどういうことなのか?
 本書によれば衝撃発生時間が短く、衝撃力の最大値が高いほど、打撃は鋭くなる。反対に衝撃発生時間が長いが、衝撃力の最大値がそこそこの打撃が重くなるという。

 目標が顔面などといった硬い部位の場合、衝撃は短時間で伝わる。逆のボディなどの柔らかい部位である場合、目標が変形しながら衝撃を受け止めるので衝撃発生時間は長くなる。
 本書の中では、この「鋭い・重い」の関係を、打撃の衝撃(F)を縦軸、衝撃発生時間(t)を横軸とした衝撃力曲線グラフに表している。衝撃(F)の最大値(Fm)を頂点とした衝撃力曲線と、衝撃発生時間(t)で表されるグラフ上の面積を力積(I)とする。そうすると鋭い衝撃も重い衝撃も、力積、つまり総衝撃量に大きな違いがないのがわかる。力積は目標の硬さや柔らかさに無関係に等しい。

 つまり、同じ運動量の打撃でも、目標物と衝撃の最大値、衝撃発生時間によって打撃の「鋭い」「重い」が変わってくるというわけだ。

 他にも「拳は引くつもりで出せとはどういう意味?」「空気投げとはどんな技?」「ヒットマッスルとはどの筋肉のこと?」など、格闘技の基本的な疑問が力学、解剖学の見地から解説されている。
 経験者なら感覚的にわかっていることかもしれないが、これから格闘技を始めようとする人たちには面白い一冊だろう。
(ライター/石橋遊)