「ブラジルとはやったことないけど、何かを起こしたい。今はウイングバックをやることが多くて、逆からのクロスに入っていくことでチャンスがある。
基本、攻撃になったら張ってることが多いので、ゴール前に行けるのは多くないですけど、逆からのクロスに入ってきて、こぼれてきたら、しっかり決めたいですね」

 これは10月14日のブラジル代表戦前日練習後の中村敬斗のコメントだ。彼はその言葉通りの大仕事を強敵相手にやってのけたのである。

 そのシーンは後半17分、渡辺剛から伊東純也へのパスがスタートだった。後半9分から登場した背番号14は右タッチライン際にいた堂安律にパス。そのまま縦に動き、スペースに侵入した。次の瞬間、伊東はDFの位置をよく見ながら中央にクロスを供給。そのタイミングを見逃さず、中村はゴール前へ突き進み、右足を豪快に振り抜いたのだ。結果的にはDFファブリシオ・ブルーノに当たってネットを揺らす形にはなったが、もともとシュート自体は枠には飛んでいた。まさに“点が取れる男”の真骨頂ともいえる2−2の同点弾だったのである。

「伊東選手が持った時にアイコンタクトというか、結構距離があったんですけど、ずっとスタッド・ランスで2年間やっていたので『来る』って分かっていた。正直めちゃくちゃいい球が来たんで、フカさないように打ちました。手前でバウンドしましたし、相手が触ってっていうのもありましたけど、とりあえずゴールできて良かった」と本人も安堵感を吐露した。


 この得点に至るまでの日本は、自分たちの戦いが完全にできていたわけではなかった。前半は5−4−1のミドルブロックで引いて相手にやらせないようにしていたが、わずか6分間の間に2失点。0−2で折り返すことになった。「前半は最低でもゼロで終えたい」とキャプテンマークを巻いた南野拓実も話していたが、正直、誤算だったのは間違いない。

 ただ、日本にはカタールW杯のドイツ代表戦、スペイン代表戦で大逆転勝利した経験値があった。もちろん中村はそこに立ち会ったわけではないが「キャプテンの南野選手、代表歴の長い堂安選手たち先輩が中心となってハーフタイムに声をかけてくれた。前から行くっていうふうにやり方を変えたので、自分はそれに沿ってやっただけでした」と言う。力強い先輩たちに背中を押されたことで、「本来のアグレッシブさを出そう」といい意味で割り切れたのは大きかっただろう。

 その中村の2点目からチームは一気に加速。上田綺世も「2−2になって一回落ち着いてしまうと3点目を取りに行けないのかなという思いがあったので、緩めないように鼓舞してやってました」と言うように、そこから畳みかけてエースFWの逆転弾まで持ち込んだ。その流れは本当に痛快だった。

 試合後、日本サッカー協会宮本恒靖会長も「日本がブラジルを焦らせたのは初めて見た」と神妙な面持ちで話したが、自身がガンバ大阪時代に指導した中村がその原動力になったのだから、感無量だったに違いない。
中村自身も三笘薫不在を逆手に取り、強烈インパクトを残すことに成功。これで8カ月後の北中米W杯メンバー入りに大きく前進したと見て良さそうだ。

 実際、今夏の移籍騒動や長期間の練習離脱により、中村の日本代表定着に暗雲が立ち込めたのは事実だ。W杯1年前に困難な状況に追い込まれ、そこから這い上がるのは非常に難しいと思われた。それでもリーグ・ドゥで一から出直すことを決意し、9月にチームに合流。先輩・伊東も「もうやるしかない」と話していたが、本人も「チームをリーグ・アンに上げてやる」と目の色を変えて取り組んでいるに違いない。

 正直、体のキレはアジア最終予選を戦っていた頃よりも良い様子。最大の強みであるフィニッシュの精度も戻ってきたようにも見受けられる。ここから再びリーグ・ドゥの戦いに身を投じ、若い集団をけん引していくのは大きなハードルに他ならないが、中村が人間としても一段階成長できるチャンスでもある。同僚・関根大輝とともに目覚ましい働きを見せて、「やはり森保ジャパンには中村敬斗が絶対に必要だ」と思わせることが肝要だ。

「僕個人はチャレンジャー精神を持ってやってましたし、失うものはないと思っていたので。ボールを持ったらガンガン仕掛けようと思ってやってました。
点が入って、もう1本仕掛けることもできたんで、まあまあ良かったです」と本人は前向きに話したが、この先も挑戦者精神をつねに忘れずに持ち続けるべき。ここまで泥臭く這い上がってきた中村はそれができる人材なのだから。

 この日のように強気のマインドで上昇曲線を描いていけば、三笘から定位置を奪い取ることも可能ではないか。今回のブラジル戦で勝利のキーマンになったのだから、森保監督の評価も上がったはず。それをこの先も継続していけば、中村は本当に攻撃の絶対的主軸になれるかもしれない。野心溢れる男にはより貪欲なトライを強く求めたいものである。

取材・文=元川悦子


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