筆者(田中謙伍)は、Amazon日本法人在籍中に副業でAmazon内で商品を出品し、3億円を稼いだ経験を持っている。現在は、出品側の企業向けにコンサルティング会社を経営している。

本記事では、Amazon内でヒットする商品の成功要因を分析できる立場から、2024年末に始まった新たなサービス「Amazonふるさと納税」について解説したい。

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ふるさと納税の市場規模が拡大するかも?

総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」(令和6年度)によると、現在のふるさと納税の市場規模はおよそ1兆円となっている。

対して、経済産業省「電子商取引に関する市場調査」(令和5年度)によると、日本国内のECの市場規模は約15兆円。そのうち5兆円、つまり3割をAmazonが占めていると言われている。ただ、ふるさと納税についても、同じく3割をAmazonふるさと納税が占めるのか……と考えるのは早計だ。むしろそれ以上のシェアを占める可能性すらある。

なぜなら、Amazonの参入によって新たな購買者が増え、ふるさと納税自体の市場規模も拡大する可能性が高いからだ。

物流網を活かした“翌日配送”

大いに注目されているのが、配送の効率化だ。

返礼品配送にAmazonの倉庫を使うため、配送の手間が大きく削減されると言われている。さらにAmazon独自の物流網を活かし、最短で寄付した翌日に返礼品が自宅まで届く。消費者にとっては大きなメリットだろう。

また、自治体が負担するプラットフォーム手数料にも注目したい。初期費用はかかるものの、他社より安いプランも導入されているのだ。

その結果、2024年末には全国およそ1000の自治体が「Amazonふるさと納税」による寄付を募るようになった。
利用者は30万種の返礼品から自由に選んで自治体に寄付ができるわけだ。

ここまでは、Amazonふるさと納税が発表されてから盛んにニュースメディアで報じられていた内容だが、魅力はこれだけではない。同じくEC業界で大きな売上を誇る楽天と比較してみればわかりやすいはずだ。

ほかのふるさと納税サイトとなにが違うのか

Amazonで「ふるさと納税」が可能に。「楽天、さとふると比べて…」“既存のふるさと納税サイト”と何が違うのか、徹底解説
楽天市場で「アンリ・シャルパンティエ」と検索した結果のスクリーンショット。ふるさと納税の返礼品として購入する商品(左)と普通の商品(中、右)が共存している
楽天にも「楽天ふるさと納税」というサービスがある。ただ、「楽天ふるさと納税と楽天市場」の関係と、「AmazonとAmazonふるさと納税」の関係は似ているようで別のものなのだ。

その理由は、「楽天市場で取り扱われている商品」と、「楽天ふるさと納税にラインナップされている返礼品」を見れば一目瞭然。両者は、互いに商品がリンクしておらず、まったく別の商品が別のサイトに並んでいる状態といってもよい。つまり、別のECサイトなのだ。

Amazonふるさと納税はそうではない。「Amazonのヒット商品」が、そのままAmazonふるさと納税の対象商品となるので、まるで普段の買い物と同様に、「返礼品を買う」ことができる。これは自治体、消費者双方にとって大きなメリットではないか。

魅力的な商品がそのままふるさと納税の返礼品に

Amazonで「ふるさと納税」が可能に。「楽天、さとふると比べて…」“既存のふるさと納税サイト”と何が違うのか、徹底解説
Amazonで表示される猿払村のふるさと納税返礼品のスクリーンショット。右側にふるさと納税の返礼品で購入できることがわかるが、UIはAmazonの通常の買い物をする際とほぼ一緒だ
ふるさと納税専用の大手ECサイトには「さとふる」や「ふるさとチョイス」がある。これらのサイトとは違い、Amazonふるさと納税はあくまで普通に商品を探しているときに「この商品がふるさと納税でも買えますよ」と商品ページでユーザーに示唆して、購入を促すUIになっている。

そのため、適切にAmazonで売れる商品を開発し、さらにAmazonで売れやすいページにデザインをする(筆者の言葉を使えばAmazonマーケティング)をすれば、その恩恵に授かれる自治体は増えるのである。


さらに、この現象は「さとふる」や「ふるさとチョイス」などで返礼品を購入していた層とは違う層を取り込めることを意味する。

Amazonふるさと納税の誕生によって、魅力的な商品がそのままふるさと納税の返礼品にスライドすることが増えるだろうし、ユーザーがそれを望むようになるだろう。

これまでふるさと納税は年末に駆け込みで購入するものだった。「そろそろふるさと納税の季節だ。何を選ぼう?」から、普段のAmazonの買い物において、「これ、ふるさと納税で買えるのか。では買っておくか」という体験になるのだ。

返礼品を提供する自治体の手間も削減される

ややマニアックな話になるがAmazonは1商品1ページしか出ないSDP(Single Detail Page)というページデザインが採用されている。簡単に言えば、楽天市場のように一つの商品名を検索したときに同じ商品が複数ページ出てこないということだ。

このSDPというページデザインによって通常商品の販売とAmazonふるさと納税の販売の掛け持ちがユーザーにストレスのない形で実現できているのだ。

こうしたユーザー体験を下支えするのが、筆者が再三強調している「Amazonで普段買いものをするようにふるさと納税の返礼品が買える」状態である。

当然、この状態をつくるためには、返礼品を提供する自治体(実際はメーカー)側にとっても、ふるさと納税の返礼品を配送する際、その手続きが煩雑でない状態である必要がある。

実はこの点もAmazonふるさと納税は整備されている。従来は、自治体がふるさと納税のECサイト(「さとふる」「ふるさとチョイス」など)でアカウントをつくり、自治体の“中の人”が注文を受けるたびに配送する仕組みだった。


しかし、Amazonふるさと納税では一度Amazonの倉庫に返礼品を預けてしまえば、そのAmazon倉庫から消費者に直接配送が可能となっている。つまり、出品者(自治体)にとって配送の手間が大幅に削減されるのだ。

ふるさと納税もAmazonの得意なビジネスモデルに落とし込む

Amazonで「ふるさと納税」が可能に。「楽天、さとふると比べて…」“既存のふるさと納税サイト”と何が違うのか、徹底解説
ふるさと納税
このAmazonふるさと納税のシンプルな購入体験、そして出品設計はAmazonがもっとも売上を伸ばすうえで得意とするビジネスモデルだ。

Amazonふるさと品揃えが増える→顧客体験があがる→ユーザーが増える→さらにAmazonふるさと納税の出品者が増える→品揃え充実するーーといったような好循環がAmazonふるさと納税においても起きるのだ。

今後は、Amazonでふるさと納税に限らず売れているヒット商品がふるさと納税の返礼品に参入することでさらにヒット商品になっていくだろう。

だが、ここまで説明したAmazonふるさと納税の未来はまだまだ未完成というのが現状だ。

現在、Amazonふるさと納税の返礼品をAmazonのサイト内で購入する場合、2つの方法がある。1つはAmazonふるさと納税から買うパターン。そして2つ目はAmazonの商品ページから購入方法として「Amazonふるさと納税の返礼品として購入」を選んで購入するパターンだが、現状において後者のデザインはまだわかりにくい。

だが、今後Amazonフレッシュの商品を買う際と同じように、Amazonの商品購入ページと縦に並ぶ形で「Amazonふるさと納税の返礼品として購入」が表示されるデザインに改良されることは時間の問題だろう(おそらく、ふるさと納税返礼品注文のニーズが高い2024年末にはデザイン実装が間に合わなかったためと考えられる)。

Amazonふるさと納税のヒット商品は何になるか?

最後にAmazonふるさと納税でヒットする返礼品とはどのようなものか言及する。それはAmazonで1位を取れる商品、あるいはAmazonの商品検索結果で上位に位置する商品だ。

そんなの当たり前だろうと思うかもしれない。
だが、これは従来のふるさと納税の返礼品では“普通”ではなかった。

これまでほかのふるさと納税専用サイトでは、地元の名産品を包み隠さず出品している返礼品が少なくなかった。だが、これらは、普通にECサイトで買ったら売れる商品であるとは限らなかったはずだ。それがAmazonふるさと納税の場合、純粋にAmazonで売れる商品である必要があるのだ。

自治体がAmazonで売れる商品を作れるようになれば、大きな税収がもたらされる可能性が高い。ふるさと納税に突如現れたAmazonという黒船だが、敵にするも味方にするのも、各自治体しだい。Amazonの生態系をどれだけ攻略しているかにかかっていると言えるだろう。

<TEXT/田中謙伍>

【田中謙伍】
EC・D2Cコンサルタント、Amazon研究家、株式会社GROOVE CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazonスポンサープロダクト広告の立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。
Youtubeチャンネル「たなけんのEC大学」を運営。紀州漆器(山家漆器店)など地方の伝統工芸の再生や、老舗刃物メーカー(貝印)のEC進出支援にも積極的に取り組む。幼少期からの鉄道好きの延長で月10日以上は日本全国を旅している
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