一般的なマンションやアパートではなく、“団地”と呼ばれる公営住宅の清掃現場では少々特殊な経験をすることがあるという。
「公営住宅ごとに、ここはサバサバしたコミュニティだな、ここは結構みんな仲良くやってるんだなって個性を感じます」

 都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに、公営住宅ならではの特徴について話を聞いた。


業者によって作業内容に“制限”がある

特殊清掃員が明かす「公営住宅ならでは」の苦労。大量のゴミにエ...の画像はこちら >>
 近年、人口の高齢化による死亡者数の増加により、公営住宅を清掃する仕事も増えてきたという。

「公営住宅の作業は特殊で、一般的には亡くなられた方の親族からの依頼があって清掃をしにいくのですが、匂いを取ったり遺品整理しかできないんですよ。風呂を作ったり壁を直したり、内装を作り替えるといった作業工程は、入札で指定されている業者じゃないとできません。なので匂いは取れても、畳がなくなっていたり、床が解体されている状態で作業完了となり、指定された業者に引き継ぎます」

 公営住宅は自治体が貸しているものなので、このような“制限”があるのだ。その中で、今まで通りの手順が踏めずに苦労することも多いようだ。

「風呂を掃除していて、『ここまでひどくなっている場合は、もう全部壊して全取り替えをしたほうが作業工程としては楽だぞ』と思うことがあるのですが、“縛り”があるので、わざわざ清掃をして匂いを取るだけというふうにしなくてはいけません。

 壁も匂いが染みついている部分を壊して修理すれば通常2、3日で終わる作業も、壁紙を剥がせないので、強い薬品は使えないなど、結構気を使います。匂いを取るために5、6日かけて、ゆっくり時間をかけて作業を行う必要があります」

公営住宅ならではの特徴「通常よりも手間がかかる」

特殊清掃員が明かす「公営住宅ならでは」の苦労。大量のゴミにエレベーターで嫌な顔をされることも多々…
バランス釜のお風呂
 また公営住宅は建物や内装設備が古いものが多く、対処に困ってしまうこともあるとか。

「ふすまとか障子とかを使用している建物が多く、匂いが染み込んで取れないので全取り替えになる場合が多いんです。ふすまって大きいからノコギリとかで解体して持って行かなきゃいけなくて、そういう作業に手間がかかります。

 お風呂もバランス釜が多く、設備を変えたいからバランス釜を持っていってくれとか言われます。これがめちゃくちゃ重い!しかも風呂場が狭いので一人とか二人で持ち運ばなくてはいけないんです。浴槽も出してくれとか言われると、いったん解体しないと扉を通れないのでかなり大変です」

特殊清掃員が明かす「公営住宅ならでは」の苦労。大量のゴミにエレベーターで嫌な顔をされることも多々…
エレベーター
 また、公営団地特有の事情に苦戦することもあるという。

団地って車が置けるところが遠くて、搬出経路が長い場合が多いんですよ
家財道具の搬出にかなり苦労します。また、土日の作業では、時間帯によっては家族連れがひっきりなしにエレベーターを使うので、全然エレベーターが捕まらないです。さらに年式の古いものが多いので遅い。捕まったとしても人がいっぱいで見送ったりと、なかなか作業がすすみません。大量のゴミや家財道具を乗せて、管理組合から指定されたエレベーターに乗ってると、たまたま居合わせた家族に『うわっ……』と嫌な顔をされることも多々あります。

 高齢者が多い都営住宅だと、平日でも病院に行く人が多いのか、ひっきりなしにエレベーターが動いていて作業が進まないこともあります。たまに『エレベーター呼んでおいたぞ』って手伝ってくれる方もいたりして、そういうときはかなりありがたいです。

 また、『ここの団地では決められたエレベーター以外は使わないでくれ』と指示されることが多いです。一度、団地の11階のゴミ屋敷を清掃したことがあったのですが、エレベーターが現場より遠いし、なかなか捕まらないしで、通常よりも完了が遅れてしまったこともありました」

 都営住宅は孤独死による清掃案件よりも、遺品整理をしてくれといった依頼の方が多いという。

「都営住宅の場合は公的なサービスを受けている方が多いんですよ。定期的にヘルパーさんがくるとか。なので体調が悪くなっていくと老人ホームに入ったり病院に入院したりして亡くなる方が多く、遺品整理だけの依頼というのも多いです。
逆に孤独死をする団地住みの人のパターンとしては、田舎が遠かったり、親族がいても疎遠だったりする人ですね。訳ありの人が住んでいるのも団地の特徴だと思います」

田舎に行けば行くほど濃厚な公営住宅のコミュニティ

特殊清掃員が明かす「公営住宅ならでは」の苦労。大量のゴミにエレベーターで嫌な顔をされることも多々…
近所付き合い
 公営住宅を清掃していると、団地のコミュニティの強さを目の当たりにするという。

「やっぱり特殊清掃業者って防護服を着ていたり、見た目に特徴があるじゃないですか。だから『どうしたんだ? 人が死んだのか?』みたいに話しかけてくる人が結構多いですね。公営住宅ごとに、ここはサバサバしたコミュニティだな、ここは結構みんな仲良くやってるんだなって個性を感じます。団地同士の会合をする所もあって、そこでお互いの生存確認をしているみたいです。

 また遺品整理をしていると勝手に中に入ってきて『いま親戚の家が遺品整理中だから名刺ちょうだい』って言ってくる方とか、自由な人が多いですね。あと、清掃中の部屋で孤独死された人の情報を教えてくれたりもします。たとえば、『この人、昔はキレイ好きだったのに。集まりも積極的だったのに、どんどん顔出さなくなって、体調が悪いって聞いてたけど、まさかこんな感じで死んじゃうなんて』みたいな」

 じつは、孤独死の発見もかなり特徴的だ。

「チャイムを鳴らしてもでない、ドンドン扉を叩いても出てこない。鍵が空いていて扉を開けたら倒れていたなど、近隣住民が孤独死を発見するパターンが多いみたいです。
地域ごとの特徴としては、駅に近い東京23区だと現役で仕事をしているファミリー層が多くコミュニティが希薄になりがちですが、郊外とか田舎の方に行けば行くほどご老人が多く、つながりが深まっていくので、かなり濃厚なコミュニティになっていますね」

 こういった世間話から仕事につながることも多々あるのが公営住宅の面白さだという。

「ここで名刺交換した人から連絡があることが多いんですよね。『最近来てるあの業者、特殊清掃業者らしいぞ』『遺品整理やってくれるみたいだぞ』って口コミで広がって連絡があったりします。最近は、交流のあった自治会長さんから連絡があって、何度か同じ団地に清掃をしにいったこともあります。個々のつながりが濃いのが公営住宅のおもしろいところですね」

<取材・文/山崎尚哉>

【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦
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