中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 元村上ファンドの丸木強氏が率いるアクティビスト、ストラテジックキャピタルが「パズル&ドラゴンズ」のガンホーに狙いを定めました。パズドラ以降のヒット作が生み出せず業績が伸び悩んでいるにも関わらず、森下一喜社長の役員報酬が最大手の任天堂と肩を並べる水準であることなどに疑問を呈したのです。

業績低迷も、役員報酬は任天堂と同水準の3.4億円…「パズドラ...の画像はこちら >>

総資産の大部分を“現金が占めている”

 ストラテジックキャピタルは日本を代表するアクティビストの一つ。日本で「ブルックス ブラザーズ」ブランドを展開するアパレル企業ダイドーリミテッドに株主提案をし、2024年6月の株主総会で取締役選任案が一部可決。しかし、ストラテジックは株主価値の向上を目指すとしていた当初の意向から一転して全株を売却しました。そのことが議論の的となったことで有名です。

 ストラテジックは2024年8月から10月にかけてガンホーの株式を取得。ゼロの状態から5.47%まで持株比率を高めています。アメリカのアクティビストであるバリューアクト・キャピタル・マネジメントが2020年に任天堂の株式を保有していたことが明らかになっていますが、ゲームのベンチャー企業が狙われるのは稀。

 ガンホーは過剰とも言えるほどに現金を積み上げてしまい、株主還元も不十分でした。付け入る隙を見せたとも言えます。
 
 ガンホーは2024年9月末時点で955億円の現金を持ち、売掛金や有価証券、長期性預金を合わせるとその金額は1500億円にのぼります。ガンホーの総資産は1663億円。
総資産のほとんどを現金やそれに近い性格の資産が占めているのです。

アクティビストに狙われる「典型的なパターン」

 一方、ガンホーの直近の配当性向は11.0%。「白猫プロジェクト」のコロプラは2023年9月期が146.9%、「モンスターストライク」のMIXIは2024年3月期が110.3%でした。配当性向とは純利益の中から株主への配当金をどれくらい支払っているのかを示すもの。100%を超えているということは、純利益以上の配当金を出していることになります。

 株価対策や株主還元を重視する経営スタイルが広がったことで、キャッシュリッチな会社の配当性向が100%を超えることは珍しくありません。コロプラは2024年9月期に純損失を出しましたが、配当金の支払いを行いました。

 ガンホーは豊富な現金を持ちながら、株主還元が他社と比較すると弱かった側面があります。アクティビストに狙われる典型的なパターンと言えるでしょう。

社長の役員報酬は任天堂と肩を並べる額

 ストラテジックキャピタルが指摘していることの一つが役員報酬。森下社長の2023年度における役員報酬は3.4億円。前年度は2.3億円でした。

 ガンホーは2023年3月に開催した株主総会で、業績連動報酬を導入。連結営業利益をベースとし、決められた算定方法によって支給を開始しました。
これは業績向上に対する取締役のモチベーションを高めることが目的。一方で、2024年12月期第3四半期累計期間における純利益は前期の3割減でした。

 ストラテジックは森下社長の役員報酬は、ゲーム業界最大手の任天堂と肩を並べるものであり、ソニーのゲーム分野の担当役員を上回るものだと指摘しました。

 ガンホーは収益の大部分をパズドラと「ラグナロクオンライン」シリーズに依存しています。2012年のパズドラ以降はヒット作に乏しく、業績が停滞しているのは確か。

パズドラのリリース時から状況は変化しており…

 

 ただし、ゲームのヒット作を世に出すことと、その人気を長期化させることが至難の業であることはゲーム業界の常識となっています。ガンホーは2023年12月期に23億円、2022年12月期に21億円の研究開発費を投じました。それだけの費用をかけて開発しても大ヒットさせることができないのです。

 これはパズドラを生みだしたころと比べ、時代が変化したことが背景の一つにあります。現在の国内におけるモバイルゲーム市場は縮小に転じています。スキマ時間の取り合いが激しくなっており、モバイルゲームの競合はSNSや動画配信サービス、ECサイト、フリマアプリなどへと変化しています。また、ユーザーはいくつもゲームをする余裕がなく、長く慣れ親しみ、課金を続けていたゲームからなかなか離れようとはしません。

 収益性を長期化することも難しく、グリーが2022年2月にリリースした主力ゲームの一つ「ヘブンバーンズレッド」の人気は早くも陰りが見え始め、gumiが長い時間をかけて開発した「アスタータタリクス」はわずか1年ほどでサービスを終了しました。


 ガンホーはPlayStation向けのゲーム「DEATHVERSE:LET IT DIE」の開発も行いましたが、2023年7月にサービスを停止しています。一部不具合が発生したためです。

 ガンホーはディズニーなどと手を組んだタイトルをリリースするなど、独自性の強いゲームを開発しているのは確かです。しかし、人気に火が付かずに業績が停滞しているとなれば、「運が悪かった」とはならないのがビジネスの世界でしょう。

今後については「非公開化」が最善策?

 ストラテジックは株主価値を向上させるためには、非公開化が最善の選択肢だとしています。事業会社への資本参加を通して、パズドラとラグナロクからの高い依存度から抜け出せるためです。社外取締役2名も選任しました。

 しかし、ダイドーリミテッドの例を見ても、ストラテジックが株主価値向上を目指して中長期的に株式を保有するのかは疑問。役員報酬や配当の見直し、自己株式の消却などの株主提案をしていますが、こちらが本丸でしょう。

 アクティビストと対立すると、経営が混乱して事業活動が停滞する恐れがあります。ガンホーは開発に集中する体制を整えるためにも、早期決着をつける必要があるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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