―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

腕時計投資家の斉藤由貴生です。
今、私が最も注目している腕時計界隈のトレンド変化が「金の腕時計のポジション変化」であります。


これまで、高級腕時計の人気度は「ステンレスが最も高い」という傾向があり、現在でもそういった様子に変わりありません。しかし今、これまで以上に金の腕時計に対する状況が変わっているのです。

これまでのK18腕時計の地位

高級腕時計、上昇相場の新トレンドは「金時計の上昇」。30年遅...の画像はこちら >>
「金の腕時計相場が上昇している」というと、「金相場が上がっているから当たり前」と指摘されることが珍しくありません。

しかし、これまで、金相場と金の腕時計の相場はあまり連動しておらず、特にリーマン・ショック後については、金相場は下落影響を受けなかったにもかかわらず、金の腕時計相場はかなり下がっていたぐらい。場合によっては、K18の地金価格が時計本体価格と同じか、それを上回っているのでは、といったことがあったといっても過言ではありません。

長らく高級腕時計の需要は「ステンレス一強」という時期が続き、K18素材といった豪華なモデルに対する人気度はそこまで高くなかったのです。

日本では、1995年頃から、現行品として売られていた腕時計が「プレミアム価格(定価よりも実勢価格が高い)」となる現象が発生し、年々そういったプレミアム価格状態のモデルが増えていった経緯があります。

しかし、プレミアム価格となるモデルは全てがステンレスで、K18モデルとなると、相場が定価を下回っている、というのが常でした。

私は、2015年に「腕時計投資のすすめ」という本を出したのですが、その1年後の2016年時点でも、定価を上回るK18モデルはなかったといえます。2016年に、池袋西武のロレックス正規店で、プラチナの116506がショーケースに並んでいた(サンプルではなく在庫)様子を目にしましたが、その当時の相場は定価を下回っていたため、「マラソン的なことをして買う」という人は皆無でした。

また、同年に渋谷の東急本店においても、ノーチラスの5711/1R-001が定価で売られているところに遭遇しています。

2016年時点で116506の定価は約730万円。プラチナという腕時計の素材としては最高峰のモデルであるため、定価がすでに高いため、中古相場がそれを上回るということはなかったわけです。


この116506というモデルは、『高級腕時計で最も人気といえるデイトナ、その初のプラチナモデル』であります。文字盤のアイスブルー色は、ロレックスのプラチナモデル専用色で、もとから人気が高いため、116506というモデル自体は「格好良い」と思う人が多かったといえます。

しかし、実際に700万円出す人はそこまで多くなく、中古市場では定価を下回っていたのでしょう。そうであるがゆえに、正規店で在庫販売されており、買おうと思えば誰もが定価で購入する事ができたのだと思います。

そんな116506ですが、現在相場はどうかというと、1480万円が最安値といったところ。2016年時点の定価に対して倍といった相場になっているわけです。

116506は、2019年1月に中古相場が定価を上回るといった現象が起こったわけですが、ステンレスのデイトナの場合、1995年頃から「相場が定価以上」となっていました。また、プラチナ以外のK18モデルについても、2020年といった時期を境目に中古相場が上昇し、プレミアム価格となるモデルが多くなっていったのです。

つまり、K18等のモデルはステンレスに対して、30年近くも遅れて「プレミアム価格」となったことになります。

近頃変わったK18の勢い

長年「K18腕時計の相場はそこまで伸びない」という印象がありましたが、2020年以降は全く様子が変化し、その後どんどん勢いを増していっている様子があります。

特に近頃の大きな出来事は、デイトナの事例。ロレックスデイトナは、2023年春に全モデル(SS・コンビ・K18等)が一斉モデルチェンジしたのですが、そこから今までにかけての相場の変化は、K18が最も優秀なのです。

以前であれば、「ステンレスだけが高値、後は変化せず」などということが珍しくありませんでしたが、現在では「ステンレスよりもK18モデルのほうが値上がりしている」という状態。


現行デイトナは、2023年春に発表されましたが、実際に中古市場に出回るようになったのは2023年の12月頃になってからであります。(その時点で各モデルとも定価超え)

その際の相場と現在相場との比較では、
・K18モデル(YG・WG・RG)はすべてが初値(2023年12月頃)に対して上昇
・ステンレスは白文字盤が下落、黒文字盤は横ばい
・コンビは下落
となっているのです。

以前であれば、K18モデルが「登場から2年ぐらいのタイミングで、初値よりも高くなる」といったことは考えられませんでした。

それが今では、K18モデルだけが「初値よりも高い」といった状態になっているのです。

こういったことからも、K18モデルの勢いが以前とは段違いになっているということが分かります。

相場も伸びている

2023年に出たデイトナが、2023年12月⇒2025年現在で上昇となっているように、こういった期間で「値上がり」となるK18モデルは珍しくありません。

ステンレス製の人気モデルの場合、「2022年春に急上昇後値下がり」となってから、「2022年春水準未満」という状態が珍しくありませんが、デイデイトなどは2022年春超え、つまり『今が最も高い』といったモデルが多々存在します(118238など)。

そういったことからも、K18モデルの勢いが感じられるわけですが、特にブレスレットを採用しているK18モデルが伸びている印象があります。

ブレスレットのK18モデルは、それ自体をラインナップするブランドが少ないため、現在のように、K18に対する関心が以前よりも高まったら「相場も伸びる」ということになったのだと思います。

ロレックスにおいては、K18ブレスレットモデルの展開が珍しくないため、「ブレスレットのK18モデルが多くない」というのは意外かもしれません。しかし、ロレックスの他で積極的にK18ブレスレットモデルを展開するブランドはあまりないのです。

実際、「ラグスポ」を展開する雲上ブランドでも、K18ブレスレットモデルの展開は少なく、元祖ラグスポであるロイヤルオークについてもステンレスが基本であります。

また、オメガやタグホイヤー、ブライトリングといったブランドは、価格帯がロレックスよりも安価な傾向があるため、もともとK18モデルの展開が多くありません。


ですから、K18ブレスレットのモデルをロレックス以外で探そうと思ったら、意外とモデル数が少ないため、そういったことからしても相場が上がりやすいのかもしれません。

今後もK18人気は上がる可能性あり

以上、現在におけるK18腕時計の勢いをお伝えしましたが、今後もK18モデルの需要は伸びるのではないか、と私は思っています。

というのも、K18という素材を展開するのは高級腕時計ぐらい。ステンレスの腕時計は、1万円未満でも手に入りますが、K18の腕時計となると、素材それ自体が高値であるため、安価なものはありません。

ですから、せっかく高級腕時計を楽しむのであれば、豪華なK18を買うといったほうが「実はしっくりくる」といえるため、これまでの「ステンレスが最も人気」という時代が、もしかしたら終わるかもしれないと、私は思っている次第です。

実際、偽物腕時計の世界でも、「本物に引けをとらない偽物」があるわけですが、結局それらはステンレス素材。K18の偽物は見たことがありません。

そういったことからしても、やはりK18腕時計の格は圧倒的といえるわけで、これまで「K18は自分に関係ない」と思っていた人も、徐々に「どうせならK18の高級腕時計を買いたい」というようになっていくのではないでしょうか。<文/斉藤由貴生>

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。
それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある
編集部おすすめ