こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

インフレが留まることを知りません。なんでもかんでも値上げでうんざりします。靴の世界においても同様で、過去に見たことがないレベルで値上がりしています。人件費と、終わりの見えない原価の高騰によって、毎年1000~3000円くらいずつ値上がりしているメーカーがほとんどです。気になる靴があるようであれば、新生活を迎える前に買っておくことをおすすめします。個人的な予測ですが、今後大幅な値上げ、もしくは手に入らなくなりそうな靴をピックアップしました。

価格高騰待ったなしのゴアテックス靴

「完全防水・透湿」を謳うアメリカ発の素材ゴアテックス。価格高騰は以前から噂されていました。ゴアテックスは製造段階で有機フッ素化合物を使います。このフッ素がずいぶん前から環境や人体に悪影響を及ぼすと指摘され、規制に厳しい欧米ではかなり前から「脱・フッ素」の動きがあり、ゴアテックスにも波及しています。ゴアテックスでは製造段階でフッ素を使わない新しいアウトドアウェアも開発され、流通し始めていますが、開発費用の影響でコストがだいぶ上がったようです。

もちろんゴアテックスを着用している分には健康面にはまったく心配はありません。あくまで製造段階での問題なので誤解なきよう。
とはいえいずれ大幅に値上がりしてくるだろうと個人的に予想しています。ゴアテックス商品は、梅雨・台風・大雪のシーズン前に購入することをお勧めしておきます。

現在は各靴メーカー・生地メーカーでもコストダウンのため、ゴアテックスに変わる材料が続々と開発されてはいます。「○○ドライ」「○○テック」という名前を目にした方も多いでしょう。しかしまだ発展途上中で、加水分解したり防水機能でもゴアテックスに一歩及んでいないのが実情です。そこで、ゴアテックス仕様の個人的な推しがサロモンとミズノです。

サロモン「スーパークロス4ゴアテックス」

インフレは靴にも直撃。「今買っておかないと手が届かなくなる靴...の画像はこちら >>
フランスのトレイルランニングの名門といえばサロモン。歩行・ランニングにおけるの足の動きが綿密に計算されています。ファッションとしてもこの数年で年中履く方もずいぶんと増えました。軽量で一瞬で履ける、なによりフランスならではの絶妙のカラーリングはほかのブランドには真似できません。靴紐ではなくコードで全体をソフトにまんべんなく包み込む構造のスーパークロスはオンでもオフでもオールラウンダー。ビジネスカジュアルにも溶け込みます。ゴアテックスを使用して、定価がアンダー2万円の1万7600円というのは、良心的以外のなにものでもありません。
この設計と人気具合だと、仮に5000円値上がりしても買う人は買うでしょう。

ミズノ「ウェーブエボークGTX」

インフレは靴にも直撃。「今買っておかないと手が届かなくなる靴」4選
ミズノ「ウェーブエボークGTX」。1万6500円。写真は販売サイト「ヤフーショッピング」より
とにかく足幅が広い、小指が当たって痛いとお悩みの方には安定の国産ブランド、ミズノがおすすめ。歩行時に指が開くことも考慮した、つまさき広めの3E設計。どこから見てもミズノとは思えないほどスマートな外見ですが、ソールには衝撃を吸収~推進力に変えるミズノウェーブを搭載。

スポーツメーカーならではの膨大な足の動きのデータを総動員してつくられたモデルです。ゴアテックス仕様でハイテク技術も満載で1万6500円は破格。サロモンがアウトドア寄りの設計に対し、ミズノはタウン向けに設計されています。濡れた地面へのグリップ力が通常のスニーカーの3割増しと、悪天候のことを徹底的に考えつくしています。足首~ベロ周りはソックス状で、急いでいるときでもループに指をひっかけてズボっと履けるのも嬉しい。紐は「穴」ではなく「ループ」に通っているので、サポーターで包まれているようなホールド感があります。

サロモンもミズノも、未舗装道路でもガンガン歩ける設計です。防災対策としても、1足あると必ず重宝するはず。

「あの時買っておけば…」後悔する前に手に入れたい本格革靴

スニーカーに比べて数倍以上のパーツ数と工程数がかかる本格革靴。メンテナンス・修理をしながら、長年寄り添ってくれるのが「グッドイヤーウェルテッド製法」という150年以上前から続いているつくりかたです。
欧米が本場でしたが、今では日本以外ではつくる工場も職人も激減。最大の理由のひとつはまちがいなくコストです。片足50を超えるパーツひとつひとつが値上がりしているので、掛け算になると、とんでもない額になります。よって世界的には崖っぷちの絶滅危惧種になりつつありますが、日本にはまだ職人がいるのが救いです。伝統とハイテクを掛け合わせたおすすめがこちら。

スコッチグレイン「シャインオアレインⅣ」

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スコッチグレイン「シャインオアレインⅣ」。3万9600円。写真は公式HPより
半世紀近くにわたって一貫してグッドイヤー一本で勝負してきた国産ブランドの雄がヒロカワ製靴のスコッチグレイン。なかでも一番人気は名前の通り晴れでも雨でもどんとこい!の「シャインオアレイン」シリーズの「シャインオアレインⅣ」、3万9600円。

なめしの段階で撥水加工された子牛の革を使うことで極めてきめ細かい、素人が見ても極上の見た目。なのに雨ははじくという、伝統とハイテクをミックスしたアッパーが特徴です。革も本当に高いんです今……。革靴離れ+職人不足+継承者不足と、プラスの要素がひとつもないのが本格革靴業界の現状です。

しかし、「それはそれ!」と振り切っているのがこのブランドです。「匠ジャパン」という専門のリペア会社まで立ち上げ、その技術の高さ・アフターケアの盤石体制は世界一といっても過言ではありません。
スコッチグレイン自体が、当たり前に「直されるもの」を前提に設計されているので、直しやすい。

具体的には、ボトムフィラーと呼ばれる充填剤に、通常は練りコルクを使うのですが、スコッチグレインは穴の開いた特殊スポンジを一貫して採用しています。理由はシンプルで、練りコルクは数年でボロボロに劣化するから。こういう柔軟な発想でクラシック靴の世界でも生き残っているブランドですが、革靴淘汰の時代にいつまでも良心的価格で手に入る保証はありません。あの時買っておけばと後悔する前に、ぜひ実物を試してみてください。

名作エアフォースワンもついに2万円時代へ?

 

インフレは靴にも直撃。「今買っておかないと手が届かなくなる靴」4選
ナイキ「エア フォース 1 '07 フライイーズ」。1万6500円。写真は公式HPより
ナイキの名作・エアフォースワンのホワイト。筆者と同じくらいのアラフィフ世代なら、一度は履いたことがある方も多いでしょう。人気はますます加速してして、去年・おととしと「世界で一番売れたスニーカー」としてファッション誌では報道しています。シンプルでボリュームのある存在なので、筆者もワンマイルシューズとして去年買いました。意外と存在が知られていない、手を使わずに履けるフライイーズというタイプです。

外見からはわからないギミックですが、カカトの芯が踏みつぶせる→履くと同時に立ち上がるシステムなので、足元を見ずにノールックで脱ぎ履きが可能。甲の低い筆者は紐を限界まで縛り上げてますが、履くのは1秒。
これがもう想像の二回り以上はラクで、最近はどこに行くにも本当にこればかり。

適当な服でもなんとなくサマになる逸品

しかし! お値段が1万6500円。ノーマルのエアフォースワンも1万6500円です。数年前まで実勢価格が9000円~1万1000円あたりで推移していたのが、もれなく原価高騰・輸送費・円安のトリプルアタックでガツンと値上がりしました。現在でも値上がりし続けています。ナイキも過熱しすぎたスニーカーブームの沈静化を見るや、回帰路線のシリーズは今後絞っていくようです。となると在庫が減るか、さらなる値上がりはまちがいありません。個人的な読みですが、このペースだと数年後にはエアフォースワンをはじめとするナイキのバッシュはのきなみ2万円を超えてくると考えています。

この靴、履き始めの1週間はかたいです。履き慣れると意外に歩きやすく、適当な服でもなんとなくサマになってしまう変な力があります。デザイナーの重鎮・菊池武夫氏もインタビューで「100足以上のスニーカーを試しましたが、90年代以降はこればかり」とオールホワイトのエアフォースワンを絶賛していました。実は私もこの発言の影響を受けて買ったのですが(笑)。


しかしこれ以上の値上がりは厳しい! 取り扱いショップもどんどん減っているので、シンプルで履きやすいおしゃれ履きをさがしているならギリギリの価格ですがおすすめできます。

大人になると、自然と人生の残り時間を考えるようになるもの。歩けるうちに、人生であと何足の靴が履けるだろうかと考えると、意外とその少なさに驚きます。とはいえ価格も品質のうち。高嶺の花にならないうちに、後悔のない「いつまでも相棒」の1足を手に入れましょう。<文/シューフィッター佐藤靖青>

【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』
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