そこで、すこし日本にゆかりのある外国人に「日本の印象」を聞くことで、我々が忘れかけていた日本の素晴らしさに改めて気づくことができるかもしれません。
タイの首都バンコクにあるバー「ロスト・イン・タイスレーション」のオーナー兼ヘッドバーテンダーのスチャダー・ソパラリー(通称ファビアー・39歳)さん。東京の某有名バーで1か月インターンをしたり、その後も日本各地を何度も訪れています。
昭和や平成初期の日本に囲まれてタイで育った
ファビアーさんが子どもだった1990年代のタイでは、日本のドラマやアニメ、ポップスが流行していました。「毎週土曜・日曜の朝はまず『ドラえもん』や『美少女戦士セーラームーン』などで始まり、その後、『TVチャンピオン』や『風雲!たけし城』などが放送され、私たちはテレビにかじりついていました。後で知ったのですが、日本での本放送より数年遅れでタイでは放送されていたんですね。だから私たちは昭和や平成初期の日本にどっぷりハマって育ったんです」
タイが親日国なのは、その影響もあるだろうとファビアーさんは言います。
「それ以外にも、自動車から石鹸、洗剤、殺虫スプレーまで、あらゆる日用品が日本のメーカーの物でしたから、私たちは日本に対して尊敬と憧れの念をずっと持っていましたね」
二歩三歩先を考えた顧客へのサービスに驚き!

「タイですでにバーテニングの修行を始めていて、ツテがあり、そちらのお店で働かせていただくことになりました。日本のサービス業の“奥の深さ”を実感しましたね。
タイでは注文通りに仕事をすれば合格。でも日本ではお客様の求めることを、二歩三歩先まで考えながら提供しているんです。また距離感も個々のお客様によって変えていくというバーテンダーならではの気配り。
また仕事仲間への思いやりの気持ちにも感動したそうです。
「仕事を終えると、いつも『お疲れ様!』と言ってもらえ、そのたびに充足感がありました。日本では、仕事は単なるお金を稼ぐ手段ではなく、お客さんや仲間、そして自分自身を喜ばせるためのものなのだと思いました。私たち(タイ)とはまったく違ったワーク・カルチャーですね」
お洒落な東京を満喫する日々

ファッションやアートにも強い興味があるファビアーさん。インターン中、休みの日には美術館やブティックを見て回ったそうです。


柴又の下町人情に“故郷へ帰ったような気分”

「日本に興味を持ち始めた頃から、日本語についての本を読み漁ったり、映画も観ていました。もちろん寅さんシリーズもです。そこから柴又を知りました。
柴又では上達した日本語を駆使して、たくさんの人と言葉を交わしたといいます。
「私の赤い髪の毛を見たおばさんが『あら、キレイね~』と言ってくれたり、おせんべいをおまけしてくれたり。あと神社でおみくじを引いたのですが、当然、読むことができなくて困っていたら、『これ大吉!ナンバー1グッドラックね』とおじさんが説明してくれたり」

「“微笑みの国”と呼ばれるタイでは、やはり、人々が気さくなんです。柴又のように、『ご飯もう食べた?』とか、いろいろ声を掛け合うんですよ」
四季と食材に旬がある素晴らしさ
東京だけではなく、日本各地をファビアーさんは訪れました。「北海道でスキーに挑戦したり、大阪で食い倒れしたり、京都で着物を着たり、神戸で和牛を堪能したり、別府で温泉でくつろいだり、各地それぞれに素晴らしさがありますよね!」

「タイの季節は基本“暑い”か“すごく暑い”です(笑)。日本では四季折々で風景が変わりますから、何十回来ても新しい発見があります。時期に応じて旬の食材がいろいろあるのも、また楽しいですよね」

<取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ在住ライター)>
【梅本昌男(海外書き人クラブ)】
バンコク在住のフリーライター。タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌スカイワードやアゴラなどに執筆。