前回の記事では、ラブホテルが好きになったいきさつや、閉業したホテルの回転ベッドを引き取った話などを聞いた。
日本の異文化摂取の巧みさが光るホテル
——これまで約380軒ものラブホテルを訪れたなかで、カップルにおすすめしたいところをいくつか教えてください。まず北の雪国だと、どんなところがあるでしょうか?那部亜弓さん(以下、那部):昭和のラブホテルは、内装によってジャンル分けできます。例えば、殿様が出てきそうな荘厳な和室だったり、UFOや宇宙空間だったり。ちなみに、欧州への憧れが人一倍強い私がもっとも好きなジャンルは王朝タイプです。
まず、青森県の「ホテルナポレオン」。「貴賓室に来てしまったのか!?」と錯覚するほど、荘厳な空間のホテルです。

次が、宮城県にあるビル型タイプの「ホテル赤いくつ」。バブル時代のブリリアントな発想力で生み出された、全室異なる27室のお部屋たち。
城とUFOが並ぶラブホテルの名所
——関東から中部にかけては、ホテルの絶対数が多いと思いますが、あえて選ぶとどこでしょうか?那部:関東ですと、千葉県の「ホテルファミー」。日本で一番露出の高いラブホテルではないでしょうか? お城の外観なので、ドラマなどでもよく使われます。私は千葉出身なのですが、「ホテルファミー」がある幕張は異様でした。ちなみにお隣には「ホテルUFO」という、本当にUFOの形をしているホテルがあります。UFOとお城という謎の組み合わせに子供の頃、「あれ、なぁに?」と親に聞いて困らせていましたね。考えてみれば、あれが私の原風景でした。

SNS映えを意識した部屋が光るホテル
——関西もラブホテルが密集しているエリアと思います。そのなかでも、おすすめポイントの高いところを教えてください。那部:1つめが、京都府の「ホテルクロノス」。「シャルマン」というホテルから生まれ変わって誕生したホテルです。

2つめは、大阪府の「ホテル富貴」。昭和ラブホテルの典型を超越した内装です。昭和のホテルは自由度の高さが魅力だと感じておりますが、「富貴」さんは思わぬ場所に丸窓があったりなど細部まで凝っています。日本のどこを探しても、ここにしかないオリジナリティ性が強いホテルです。内装だけでなく、部屋にいくまでの共用部、廊下や階段も目を見張ります。
3つめは、奈良県の「ホテルアイネ五條」。「ラブホテル界のウォールト・ディズニー」といわれる亜美伊新(あみいしん)さんがデザインした内装が光ります。「非日常」を徹底的に極めた部屋で、異次元の煌びやかさを追及したい方は是非。
人生の最期に訪れたいホテル
——最後に、関西以西のホテルをピックアップお願いします。那部:中国地方だと、広島県の「ホテル夢の国」。「夢の国」というと舞浜が思い浮かびますが、私にとっては広島です。お部屋をアトラクションと捉えるならば、昭和の自由な発想から生まれた一種のテーマパークのようなホテルです。ある部屋では、謎の円型カプセルからウォータースライダー兼浴室を覗くことができます。そのほか、殿様部屋、馬車、貝のお部屋、藤の間、宇宙。お姫様ルームなどなど、凝った嗜好の方にもお勧め。新しいアトラクションも増えている点でも、ホントに夢の国なのかも。JR大野浦駅から徒歩圏内なので、車がない人も訪れることができます。
最後に、九州のホテル2か所を挙げます。福岡県の「ホテルR」は、全室異なる内装で、昭和の豪華さなのに、綺麗でサービスも充実。ホスピタリティも高く、宿泊するにも不安がありません。

そして、佐賀県の「ホテルエレガンス」。「一番好きなホテルは?」と聞かれると迷いますが、「死ぬ間際に最後に訪れたい部屋はどこか?」と聞かれると、ここを選びます。超希少な、せりあがり回転ベッドを保有するホテルです。部屋はメゾネットタイプになっており、豪華な構造。上昇スイッチを押すと、「ぐわん!」と音がして、ゆっくり回転しながら上昇。特別な一夜を過ごしたければ、おすすめです。
ラブホテルならではのハプニング

那部:昭和の古いホテルになると、宿泊料金は、ホテルのスタッフが部屋まで徴収しにくるところがまだあります。
とあるホテルで1日の間に3部屋を巡ったときのことです。料金を支払うとき、ホテルに勤務するおばあさんがやってきました。1人であちこち部屋に入って「何だろうなこの人」と思われたかもしれませんが、私から「お部屋のステンドグラスが素敵ですね」など褒めたら、打ち解けてくれました。
それから、SM系のラブホテルでは、通常のラブホテルにはない特異な光景を目にすることが多いです。そういったホテルにて、あるとき廊下でナース服姿の調教役と鎖に繋がれた犬役のゲイカップルを見ました。
従業員が突然部屋に入ってきたことも
那部:それから、とある地方のとても古いホテルへ行ったときも印象的なことがありましたね。そこは老夫婦が営んでおり、お世話になったので部屋を出たあとに挨拶しようとしたら、その老夫婦にみかんとお茶とお菓子をいただきました。そこでなんと「ホテルを売りに出したいのだが、アンタ買わないか?」と相談されたのです。部屋の天井を見上げると、奥さんが若かりし頃の際どいポーズをとった、色褪せたヌード写真が飾られていました。最近では自動精算機が普及して、従業員と触れ合う機会はほとんどなくなりました。それは普通のお客さんにとっていいことでしょうが、私は通常のカップルとは異なる特殊な使い方をしているせいか、不審に思われて従業員が突然入ってきたことがあります……。昭和のホテルは内装だけでなく、従業員と対面ができる機会が多いのは私にとっては魅力のひとつですね。
取材・文/鈴木拓也
【那部亜弓】
千葉県在住。大学在学中、親の死をきっかけに廃墟に目覚める。2015年頃より写真家の活動を開始。2018年から廃墟だけでなく現役ラブホテルの撮影も始める。現在はトークイベント、写真展、ホテル見学会、カップルの出張撮影を実施するなど、昭和のラブホテルの魅力を伝えるべく様々な活動を行なっている。最新の著作は、写真集『HOTEL目白エンペラー』(東京キララ社)。
X:@aisiyon
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki