孤独死と聞けば、高齢者を思い浮かべるかもしれないが、若者のケースも多々あるという。
「若者が孤独死する原因としては主に自殺ですね」

 そこには、現代社会において若者たちが抱える“生きづらさ”が垣間見られる。


 都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに詳しい話を聞いた。

若者の孤独死現場に見られる“オーバードーズ”の形跡

“若者”の孤独死現場で見えた闇。歌舞伎町ホステスの部屋に遺さ...の画像はこちら >>
 清掃の仕事をしていると、若者の孤独死現場に遭遇することが多々あるという。そこで見たものとは……。

「西東京のほうで25歳くらいの方が風呂場で亡くなられた現場がありました。死因は練炭での自殺とのことだったんですが、部屋を清掃している際に不審なものを見つけました。おそらく、何かの薬物を接種するための吸引具だと思うのですが、ガラス製のパイプですね。それで錯乱して自殺してしまったのではないかと推測しました」

 若者の自殺はドラッグとの関わりがある場合が多いという。

「亡くなられた23歳くらいの女性の両親から依頼がきたことがありました。娘が自殺をしてしまったので、部屋の特殊清掃を頼みたいとのことでした。これも風呂場で亡くなられていて、睡眠薬をオーバードーズ気味に接種してから手首を切って自殺したようでした。浴槽以外のところにも血液が広がっていて、おそらく切った手首を浴槽の外にだしたまま亡くなったのだと思います。まるでドラマや映画のような現場だなと思いました」

過酷な労働環境に疲れ果てて…

 浴室の清掃だけではなく、部屋の遺品整理も依頼され着手することになったが、大きな特徴があったという。

「部屋にはいいブランド品の服などが散らばっていて、某大手企業の社員証がありました。ストレス発散は買い物だったのだろうと思いました。
会社のブラックな労働環境に疲れて自殺してしまったのだと推測できます。

 部屋の中にはウーバーで頼んだ出前の容器が散らばっていてピザの空き箱がひたすら積み上がっていましたね。完全にセルフネグレクトのような状況になっていて、労働で疲れて病んでいるように思える現場でした。本来、自殺現場というものは整理整頓されてる場合が多いのですが、今回の現場は荒れていましたね」

 テーブルの上にノートが置いてあり、見るか迷ったがつい手に取ってしまった。

「B5くらいのノートに『ごめんなさい。ごめんなさい』と、ノート全面に書き殴られていました。何かしら仕事で大きいミスでもしたのでしょうか。さらにゴミ箱の中には大量の睡眠薬の空きシートが入っていまして、おそらく、睡眠薬を飲まないと寝られないくらい精神を追い詰められてしまっていたのだと思います。他にもたくさんの処方箋が入ったピルケースなども見つかりました。20代の女の子をここまで病ませてしまう社会というものに憤りを感じました」

遺品整理で見えた“パパ活女子”の闇

“若者”の孤独死現場で見えた闇。歌舞伎町ホステスの部屋に遺されていたブランド品は「ほとんど偽物だった」
歌舞伎町
 他にも歌舞伎町で水商売に従事していた20代の女性の家を清掃したこともあったという。

「ラウンジ嬢かキャバクラ嬢か、水商売をしている人が亡くなったようで、依頼主はその部屋を借りている“男性”でした。最初はどういうことなんだろうと戸惑いましたが、おそらくパパ活といったものをやっている女性のようでした。

 部屋の中にはブランドバッグがたくさん転がっていて、ホストっぽい男性とのツーショット写真などが飾ってありました。
おそらく、その男性から貢いでもらったお金をホストに貢ぐという状況だったのだと思います」

 遺品整理でブランド品などを買い取ることになり鑑定をしたところ、驚くべき結果となった。

部屋にあったブランド品はほとんど偽物だったんです。財布とか化粧品などの小物は本物もあったのですが、カバンは全て偽物でした。たくさんあるんだから一個くらいは本物があってもいいと思うんです。

 おそらく貢いでもらったカバンを売って、そのお金でスーパーコピー品を買って、差額を懐に入れていたのだろうと推測できました。貢いでもらった人には安い代替品を見せて、『買ってもらったカバンは大切に使ってるよ』とアピールしていたんでしょう」

 遺品整理などの件で彼女の両親に連絡を取ったところ、遺品の受け取りを拒否されたようだ。

両親とは絶縁状態だったようです。こちらで引き取ることができない偽物のブランド品はどうしようかと悩みましたが、受け取り手がいないとなると、捨てるほかありません。マンションの契約者である男性にもどうするか聞いたところ『処分してくれ』と言われました。かなり歌舞伎町の闇を感じる現場でした」

ホストとの間に借金

 次の現場も先ほどと同様にひどく荒れていたという。

「デザイナーズマンションだったのですが、部屋の状態はかなり酷くて、清掃費用などは契約していた男性の支払いとなりました。階段の上の手すりで首を吊ったようで、体液や血液が階段全体に流れてきていて、死後2週間近く経っていたので臭いもすごかったです。
建物の作りもコンクリート打ちっぱなしで、体液がコンクリートの隙間に入ってしまっているので、臭いが取りきれなくて苦労しました」

 自殺の原因は不明だが、ホストとの間に借金があったのではないかと話す。また、若者の孤独死は自殺だけではなく、事故のケースもあるという。

「若者全体の孤独死の割合としては、8割が自殺で2割が事故ですね。病死という現場はいまのところ見たことがありません。病気の若者は入院するので、家で孤独死といった状況にならないのでしょう。

 とはいえ、病死なのか事故死なのか判断が難しい状況の孤独死で、急性アルコール中毒で亡くなった現場はありました。12%とか9%とか強い部類のお酒が散らばっていて、さらに睡眠薬を飲んだ形跡があったのです。最初は自殺かなと思ったのですが、どうやら事故死で、もともと死ぬつもりはなかったようです」

 若者の場合は病気で孤独死する可能性は少ないが、それ以外の複数の原因が重なって、自殺や事故などで亡くなってしまうことがある。その背景に見えてくる“生きづらさ”は複雑で根深い。若者たちに寄り添える社会を作っていくことが今後大切になっていくのではないだろうか。

<取材・文/山崎尚哉>

【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。
地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦
編集部おすすめ