―[貧困東大生・布施川天馬]―

 3月10日は東京大学入試の合格発表日でした。合格を勝ち取った人もいれば、涙に暮れた人もいる中で、今年も新たな東大生たちが生まれます。

 結果に納得がいかず、もう一年受験に費やす選択をするものも。いわゆる「浪人」です。何を隠そう、私自身も1年の浪人を経て東京大学に合格しています。

 大学の価値は様々な角度から語れますが、大学が半ば就職予備校と化した現状から言えば、やはり有名大卒のネームバリューがもたらす生涯年収のアップが大きいでしょう。

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生涯年収アップのためには浪人するのもアリ

 労働政策研究・研修機構による『ユースフル労働統計2022』によれば、高卒男性の生涯年収が2億1千万円、高卒女性が1億5千万円となるのに対して、大学・大学院卒男性の平均生涯年収が2億6千万円、大学・大学院卒女性は2億1千万円と推計されるそうです。

 1年浪人しても平均で5,000万程度はアップする見込み。さらに、大学名でも違いが。たとえば、コンサルティング会社AFGの推計によれば東京大学卒業者の平均生涯年収は4憶6千万とされるため、受験を頑張る価値は十分にある。

 とはいえ、浪人は必ずしも成功しない。東京大学の合格者のうち、浪人生はわずか30%に過ぎず、70%は現役生と言われています。1年間余計に勉強しているにもかかわらず、合格率は著しく低い。

 最大の理由は、覚悟がないからでしょう。1年間を勉強に捧げる覚悟を持たず浪人すると、モチベーションがわきません。
周りでは一足先に大学生となったかつての同級生が楽しそうな大学生活を送っている。

 友人から遊びに誘われたことをきっかけに、堕落する自称「浪人生」を、私はたくさん見てきました。

 だからこそ、私は安易な浪人生活突入をよしとしません。本人に覚悟があるか否か、そして「150万をポンと支払う余裕があるか」を問います。仮に支払えないならば、浪人なんてやめたほうがよい。

浪人が150万円を払って享受すべきメリット

 浪人には2種類の方法があります。ひとつは「予備校」と呼ばれる受験専門塾へ通うスタイル。もうひとつは「宅浪」と呼ばれる、完全独学で受験するスタイルです。

 2種類あるとは言いましたが、よほど特別な理由や自信がない限りは、浪人するなら予備校に通うべきでしょう。「150万」は、予備校の通学費用が100~150万程度だからです。

 浪人生がやるべきことは、意外と数多い。大学受験のために勉強するのはもちろんのこと、生活リズムが乱れないように意識して生活習慣を整えたり、出願関連の事務手続き期限を調べて管理したり、書類に必要事項を過不足なく書き込んだりと、勉強以外でもやるべきことはある。

 予備校に通う最大のメリットは、これらの些事を、すべて管理してくれること。


 登校する習慣は生活リズムを朝型に固定し、模試や入試の出願についても細かくリマインドしてくれたり、不備がないかチェックしてくれたりします。さらに、先述した「やる気がない人」でも、授業の出席義務が勉強させる強制力として働く。

予備校に通わないと失敗のリスクが高まる

大学浪人は「150万払えないなら失敗する」と東大生が断言するワケ。「お金をケチるなら浪人なんてすべきではない」
予備校に通わないと失敗リスクが高まる
 もちろん、予備校に通っても必ず合格するわけではありません。結局、サボる人はサボる。ですが、予備校に通ってすら勉強できない人間が、どうして自宅で浪人して合格できるでしょうか。

 そもそもそうした人たちは、浪人に耐え得る精神力を持ち合わせていないのに、身を投じたケースも多い。浪人で合格する人は、努力の時間が足りなくて不合格となった人ばかり。現役で頑張れなかった人は、浪人しても頑張れません。

 もちろん、宅浪でも結果を出した人はいらっしゃいます。ただ、その数は決して多くないですし、十分な才能があるケースがほとんど。「本来なら現役で合格できたのに、何かの間違いで落ちた人」ばかりです。

「予備校に通えば成功できる」のではありません。「予備校に通わないと、失敗のリスクが高まる」と私は考えています。


 100万円~150万円をケチって宅浪するくらいなら、そもそも浪人なんてすべきではない。大抵の浪人生は一度失敗している以上凡人であり、特別な才能に期待するフェーズはとっくに過ぎているのです。

浪人生は「勉強だけできる贅沢」に気づくべき

 私自身、浪人を経験していますが、「浪人生」と呼ばれることに常に違和感を覚えていました。本来ならばバリバリ働ける年齢の無職の男女が、働きもせずひたすら勉強ばかりをしている。

 学生といえば学生ですが、その身分は大変不安定で危うい。一刻も早く安定させなくてはならない。「何者でもないし、何者にもなれない」焦りが、いつも胸の中心で渦を巻いていた。

 SNSを開けば「浪人界隈」などと名前を付けて、アカウントを運営する人がたくさんいます。受かってもいないのに「○○大学志望」を誇り、合格に関係ない模試の結果をアップして、誰も聞いていない実力を誇示したがる。

 私は浪人生に友人関係は不要だと考えていますし、私自身は、学校で一人も友人を作らないどころか、誰とも話さずに勉強しました。私の通った予備校には、ほかにも10人程度の東大志望がおり、私以外は仲良くしていたようですが、私と、特待生待遇だった1名を除き全員落ちました。

 友人関係が足を引っ張ったかはわかりません。
ただ、私が勉強している横で談笑していた様子を思い返すと、やはり余計な人間関係の構築だったように思います。いったい何をしているのか、と思わざるを得ません。

 どの業界も人材不足で悩んでいるのに、勉強だけさせてもらえる贅沢。遊びに出るなど論外で、確実に悲願を達成できるよう努力を重ねるべきでしょう。

 中途半端な覚悟で浪人すると、何年も自称「受験生」を名乗っては、SNSで裸の王様をするだけの侘しい人生を送ることになるかもしれません。己の道を見失わず、一意専心できるか否かを、再度問い直す必要があるでしょう。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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