試合に先立って、16日に渋谷で開催された来日特別トークイベント(主催 Fanatics Japan合同会社)で、MLBで存在感を放っている投手、野球の魅力、ピッチングの奥深さなどについて、マック鈴木氏(元メジャーリーガー)、村田洋輔氏(MLB.jp編集長)、MCのDJケチャップ氏と語り合った。
「今もアメリカの選手は日本人選手を見倣っている」
MCのケチャップ氏が「日本人選手って、野茂(英雄)さんのトルネード投法、イチローさんのバッティング技術など、アメリカで野球の歴史を変えているんじゃないでしょうか?」と投げかけると、フリードマン氏は同意してこう語った。「その通りだと思います。今もアメリカの選手は、日本人選手を見倣っています。多くの日本人投手が活躍していますが、特にスプリッター(※)については日本人投手が基準を作っています。アメリカでは長年の間、スプリッターを投げる投手がほとんどいませんでした。
有名なのはロジャー・クレメンスぐらいで、彼以来、ほぼ途絶えていたのです。ところが今、多くの日本人投手がスプリッターを投げて成功しているのを見て、メジャーリーガーたちがこぞってスプリッターを習得しようとしています。日本人がアメリカより進んでいると思うところですね」
※スプリッター=フォークボールとスプリット・フィンガー・ファストボール(日本では略してスプリットを呼ぶことが多い)を含めた総称。アメリカでは後者をスプリッターとも呼ぶなど区別は曖昧。フォークに比べて、スプリット・フィンガー・ファストボールは、球速が速く落ち幅が小さい。どちらも人差し指と中指の間にボールを挟んで投げる落ちる変化球。
大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の脅威の柔軟性
話はトレーニングの話題にも及んだ。大谷翔平が肩甲骨を背中で合わせてしまうエピソードを皮切りに、柔軟性についても日本人が進んでいるところではないだろうか、と問われたフリードマン氏も同意して続ける。「山本由伸、佐々木朗希、大谷翔平を見ていると、彼らは関節が二重になっているかのような動きをします。アメリカの投手ではあまり見ない動きです。アメリカ人投手は、柔軟性や可動域のトレーニングをあまり重視せず、代わりにウェイトトレーニングをしているからでしょう。体格も大きいので、純粋な筋力に頼ることが多いのです。一方で、日本人投手は関節や手足の使い方が上手いと思います」
ところが、これに元メジャーリーガーのマック鈴木氏が異を唱えたのだ。
「農耕民族は身体の使い方が違う」
「いや、日本人のほうが進んでるというのではなく、身体の使い方がそもそも違うんです。日本人は農耕民族だから、足首と膝をすごく使う。アメリカの人は足首と膝はすごく硬いけど、股関節をうまく使うんですよね」すると、鈴木氏はおもむろに立ち上がると、物を拾い上げる動作をしてみせた。
「消しゴムを拾うとき、僕ら日本人は(膝と足首を曲げて屈みながら)こう拾うでしょ? ピッチングも同じで、日本人は自然に膝と足首を動かす。でも、アメリカ人はこんな風にかがまないんです。身体のつくりと使い方が違うんですよ。楽なのは、そんなに曲げないで拾う欧米人の身体の使い方なんですけどね」
これにはフリードマン氏も「すごく興味深い話ですね。今一つ、私も学ぶことができました」としきりに感心していた。
ピッチクロックの弊害
参加者からの質問コーナーではフリードマン氏の示唆深い見解が、会場を唸らせた。

日本でも導入の議論が進んでいるが、ケガのリスクが懸念されている。そのことを尋ねられたフリードマン氏は、こう懸念を示した。
「ケガとの相関性はあり得ると思います。そう考える理由はいくつかありますが、一つにはリカバリーの問題です。ウェイトトレーニングをする場合でも、セット間に回復の時間をいくらか取ることで、再び出力を上げることができますよね。
もしセット間に休む時間をあまり取らずにウェイトを繰り返せば、疲れてしまいます。同様に、投球間隔を制限して次々と投げることは、ヒジを守るための筋肉も疲労し、それが靭帯に過度な負荷をかけるかもしれません」
登板間隔、ボールも日本を見習ってみては?
フリードマン氏はMLBの登板間隔にも言及した。「また今、ドジャースが取り入れようとしているように、私は登板間隔ももっと長くできればと思います。日本やアメリカの大学では先発は週に一度の登板が一般的ですが、MLBは中4日など短く、身体の回復が追いついていません。
それに、選手たちからはボールの不満も聞かれます。

あくまで「選手ファースト」を唱えるフリードマン氏。MLBが日本プロ野球から学ぶことは少なくないのかもしれない。
取材・文・撮影/松山ようこ 写真提供/Fanatics Japan