私生活では夫がいる、正真正銘の人妻。数々の作品に出演している一方、撮影現場のエピソードを描いたエッセイ漫画を同人即売会で配布するなど、その活躍ぶりはセクシー女優の枠に収まらない。今年でデビュー12年目を迎える彼女のリアルな人生模様を聞かせてもらった。
44歳でデビュー「はっちゃけるなら人生これが最後かなって」

「ひどく現実的な話なのですが、自営業の夫の税金支払いがきっかけです。夫は経費がない仕事なので、とにかく税金がかかるんですよ。私も働いてお金を貯めるべきと思い、本業とは別にダブルワークで何か副業をやりたいと考えたんです」
――最初から女優になるつもりだったのですか?
「それは全くなかったですね。でも、たまたま求人で『下着姿で官能小説を読むバイト』というのを見つけたんです。時給3000円の金額を目にして、これだ!と面接に向かったのですが、そこで『セクシー女優をやってみませんか?』と言われて……」
――すぐに「やってみよう」と?
「いえ。そもそも私はそういう方面に触れたことがほとんどなかったんですよ。サンプルDVD付きの雑誌を目にしたことくらいはあるんですが、ああいうのって生々しすぎて先に『怖い!』が来ちゃったくらい。『ムリムリ』って断ってたんですけど、そこでマネージャーさんが熱心に口説き続けてくれたんですね」
――それで心が揺れ動いた?
「というよりも、はっちゃけるなら人生これが最後かなって。
――確かに、セクシー女優は思いもよらない職業ではありますね。ちなみに、旦那さんに仕事のことは?
「実は未だにナイショのままです。意外とバレないものなんですね」
両親の世話やコロナ禍で女優活動どころではない状況に

「不定期で描いてはいます。でも、デビュー当時は驚いたことでも、今はすっかり新鮮味が薄れてしまいましたから(笑)。それに、あの漫画って撮影中のアクシデントがあってこそなんですよ。最近の現場はトラブルなんてめったに起こりませんからね。凄まじくキャラの濃いスタッフさんに出会ったりすると、描きたい欲は芽生えますけど」
――2019年頃から、女優活動をしばらく休業していましたよね。
「はい。2019年9月から3年半ほどストップしていました。これは母親が急逝したことが大きかったんです。
――それにしても3年半はなかなか長いような。
「本当は半年くらいで復帰を考えていたんです。でも、ちょうどコロナ禍に入っちゃったので延長したんですよ。これは同年代の同業の方ならあるあるだったんじゃないですかね。介護とまではいかないまでも、高齢者のいる家に定期的に顔を出さなきゃいけない立場となると、撮影はリスクが高いように思ったんです」
休業中に「オーラがなくなった」引退作のつもりが“復帰作”に

「引退するならハッキリと言わなきゃいけないとは、ずっと思っていたんですよ。3年経った時点で私、容姿が完全に衰えてしまっていましたから。
休業中も同人誌即売会には出ていたのですが、ファンの一人から『オーラがなくなった』と言われるようになったんです。セクシー女優として容姿が衰えたのであれば、引退は当然のように頭をよぎりますよ」
――表舞台に立たなくなると、演者の輝きは薄れていくものなのですね。
「私は休業中もずっと髪型を黒髪ロングで固定していたのですが、辞めるなら変えたいと考えていたので、『髪切りたいから引退したい』と事務所に言ったんです。そしたらマネージャーが仕事を取ってきたんですよ。結果的にそれが復帰作になりました(笑)」
――その後、モチベーションは上がりましたか?
「それがぜんぜん。
でも、デビュー10年以上ともなる熟女がコンスタントに仕事をもらい続けるって、本当に難しいことなんだと思うんです。レジェンドと呼ばれる女優さんでも厳しいと言われている世界なのに、私クラスではどうしたものかな、と」
うまくいかない現実に「心が折れかけた」けど…
――復帰後も思い悩むことが増えていった。
「去年の夏には、本当に心が折れかけたことがありました。監督も男優さんも馴染みの人たちだったのに、ものすごく痛かったんですよ。こんなことって初めてで、すごく動揺しました」
――それは、年齢的なことが関係している?
「慣れないシチュエーションでの撮影だったので、力が入りすぎていたのもあるかもしれません。でも、メイクさんから本気で心配されるくらいの状態になってしまって……。これはもう、女優としてはダメなのかもしれないと覚悟したんです」
――プライベートでも痛みを感じることはなかったのですか?
「プライベートはもう数年単位で清らかなので(笑)。もうこの年になると、2ヶ月に1回くらいの撮影では痛みはある程度は伴ってしまうのかもしれません。別の作品でも、温泉に2泊して撮影したら蕁麻疹が出てしまったり……無理が利かない年齢になったということですね」
――それでも、未だに引退の道を選んでいないということは。
「純粋に作品づくりを楽しいと感じているし、何より現場は熟女にとても優しいんですよ。だから、撮影するたびに『まだいけそうな気がする』って気持ちになります。私は撮影が好き。すべてはそれ在りきなんですよ。だから、今は誰も見なくなってから辞めればいいじゃんって考え方になりました」
――少しでも需要があれば、続けていきたいと?
「正直な話、復帰した時くらいから、人気女優を目指す野心を失っていたんです。私は人気女優さんが惜しまれつつ引退する姿に憧れを抱いていたので。でも、やっぱり自分が続けたいと思ったら、続けることに意味があるんですよ。だから、まだ現役でい続けたいと思います」
――ありがとうございました!
<取材・文・撮影/もちづき千代子>