「変わろう」と思ったきっかけは?

ゆり:学生時代の私はアニメに熱をあげていました。高校生になると声優の養成所に通うなど、アニメ関連の仕事に就くことを希望していました。もちろん、今でもアニメは大好きです。ただ、違うところは、当時は身なりに関心がなかったことです。何しろお小遣いは全額アニメに注ぎ込んでいました。目の前にアニメさえあれば幸せだったんですね。
変わったきっかけというか、「見た目は大事なんだな」とわかった瞬間なら覚えています。高校時代、球場でアルバイトをしていて。一緒に働いていた女子大生たちはみんなキラキラしていて、可愛い人たちで……。
ギャルの同級生に「メイクしてみない?」と…
――なるほど、それがきっかけでメイクなどに関心が出てくるわけですね。ゆり:いや、当時はまだそれでエンジンがかかったわけではなく(笑)。本当に「きれいな人は得だなぁ」くらいのぼんやりした感じでした。ただ、メイクに少しだけ関心を持ったのは、高校のクラスメートにメイクをされたときですね。同級生にギャルがたくさんいる学校のなか、私は生徒会に所属するような、見た目通りの真面目キャラでした。
ある日、ギャルの子たちが「メイクしてみない? やってあげるよ」と(笑)。天然パーマなので、アイロンで伸ばしてくれたりして。鏡で対面した自分に、「そんなイケてなくはないかも?」と少しだけ自信が持てたんですよね。ギャルの同級生たちのからっとした明るさが、違う自分を見せてくれました。
「実家のスナック」で働いてみたものの…

ゆり:そうですね。実は実家は四谷でスナックを営んでいます。母がそのスナックのママで、父は中卒で黒服などをやっていた水商売の生き字引みたいな人です。
結局、父から「銀座のスナックであれば勤務してもいい」と言われ、自力でお店を探して入店しました。しかしメイクの研究などをして、見た目の印象は少し変わったはずなのですが、なかなか会話は上達しませんでした。コミュニケーションが苦手で、出勤前にお酒を飲んでテンションを自分であげないとお客様としゃべれないダメなホステスでしたね(笑)。
「結婚できない男女」をサポートするワケ
――そんなゆりさんがホステスとしても人気になり、婚活で悩む男女をサポートする事業にまで手を広げたのは、なぜでしょうか。ゆり:私は途中で昼職などを経験して、一度はホステスを辞めたのですが、この世界に戻ってきました。それは、「コミュニケーションで悩んでいる人の助けになりたい」という思いが根底にあるからだと思います。銀座の夜はさまざまなお客様がいらっしゃいます。私たちホステスも、お客様に育てられた部分が大きいと感じます。だからこそ、学んだことを困っている誰かに伝えていけたらと思っているんです。
――結婚ができなくて悩む人はそんなに多いですか。
ゆり:多いと思います。
――銀座できれいに遊べるお客さんのなかには、いわゆる“モテ”がたくさんいますよね。
ゆり:私が見ていて感じるのは、「異性にだけモテる」という人はあまりいないということです。モテる人は必ず、同性からも支持されています。それは、信頼されている証拠だと思います。私は、“モテ”とは信頼のことではないかと考えています。たとえば仕事ができる人は一般的にモテますよね。それは、任された「この人なら任務を全うしてくれる」という信頼があるからだと思うんです。銀座のお客様のなかには、そうした期待を持たせてくれる素敵な男性がたくさんいます。
“銀座で飲む男性”の共通点とは

ゆり:仕事ができるのは先ほどお話した通りですが、最も感じるのは「愚痴を言わない」「周囲に感謝している」ということでしょうか。ビジネスの最前線にいる方ばかりなので、緊張感のある場面を幾度も経験していると思いますが、ほとんど愚痴は聞いたことがありません。お酒を飲んでも、楽しいお酒になる方が多いです。また、「いい部下を持った」といって、立場にかかわらず相手へのリスペクトがあり、感謝できる人が多いといつも思っています。
――どんな仕事においても通じる話ですね。
ゆり:そうだと思います。それこそ私たちのような水商売においても、ナンバーワンなどの成績を残せる人は、お客様はもちろんスタッフにも敬意があるし、日頃から仲良くしていますよね。「キャスト同士がいがみ合っている」というイメージを持たれる人もいるのですが、実際には、軋轢があると売上は伸びていきません。ある意味で水商売もチーム戦のようなところがあり、キャスト同士が仲が良く、スタッフとも信頼関係で結ばれているお店が順調に売上を伸ばせる世界だと思います。
――結婚相談所の経営者としては、これからどんな展望がありますか。
ゆり:かつての私のように自分のコミュニケーション能力が低いと悩む人たちに対して、克服するきっかけになれれば嬉しいですよね。
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人とコミュニケーションするのが苦手でも、アニメがあるから幸せだったゆりさんの学生時代。けれども人とのつながりがあれば、好きなものについて語り合うこともできる。人生を深め、豊かにしていくために、人は人と語る。銀座の一等地で対話を売り物にして生き抜いてきたひとりのホステスの挑戦が、結婚できずにくじける若者たちの未来を明るく照らす。
<取材・文/黒島暁生>



【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki