燃料や設備管理にかかるコストの高騰、人件費の上昇などで苦しい経営を強いられている鉄道業界。コロナ禍で激減した利用客は回復してきたとはいえ、以前の水準には戻っていない。
特に深刻なのが規模の小さな地方の私鉄や第三セクター鉄道。なかでも青森県弘前市を拠点に2路線を持つ弘南鉄道は、このうち中央弘前―大鰐間の13.9㎞を結ぶ、大鰐線を27年度末で休止する意向を示している。
しかも、雑誌の休刊が廃刊と同義語であるように、こちらも再開を前提としていない事実上の廃止だ。
そこで大鰐線に乗るべく弘前へ向かった筆者。このローカル私鉄で沿線を巡ってみることにした。
まるで時間が止まったかのようなレトロな雰囲気の中央弘前駅
訪れたのはまだ雪深い2月上旬。大鰐線が発着する中央弘前駅は、JR弘前駅から1㎞ほど離れた場所にある。弘南鉄道のもう1つの路線の弘南線は弘前駅から出ており、途中駅でも交わることがない。同じ鉄道会社が運営する路線としてはかなり珍しいケースだ。その理由は、もともと大鰐線が弘前電気鉄道という別の鉄道会社が運営していたから。同じ地域にあっても鉄道会社ごとに離れた場所に駅があるのはよくある話だが、つまりはそういうことらしい。

そんな中央弘前駅の周辺には、鐘塔が印象的な弘前昇天協会、かつての酒造工場を再利用した弘前れんが倉庫美術館といったレンガ造りの建物が並ぶ。

見覚えのある車両は、東急で走っていた車両だった!

弘南鉄道の2つの路線で使用するデハ7000形という車両は、もともと東横線や田園都市線など東急の各路線で走っていた東急7000形。
引退後に一部の車両が譲渡されたのだが、地方の鉄道会社ではJRや大手私鉄の引退した車両が未だ現役として活躍しているケースは珍しくない。現に見覚えのある車両だったため、こういう場所で再会できるのはちょっと嬉しい。


再び列車に乗り、今度は大鰐線のほぼ中間に位置する津軽大沢駅へ。

話を聞くと、彼も27年度末で休止のことをニュースで知ったらしく、「以前から大鰐線を乗りたいと思っていて、有休を取ってきちゃいました(笑)」とのこと。
この日は平日だったが、ほかの駅や車内にも明らかに鉄道ファンと思われる者がチラホラ。皮肉にも休止報道が鉄道ファンを呼ぶPRになってしまったようだ。
終点の大鰐は温泉地。外国人観光客も少ない穴場

それにこの区間はリンゴ畑が広がっており、のんびり歩くにはちょうどいい。季節的に雪で覆われていたが、振り返ると津軽のシンボル岩木山がキレイに見える。
義塾高校前駅からは列車で終点の大鰐駅に。JR大鰐温泉駅との乗換駅になっており、その名前からわかるようにここは温泉地。駅前には大きなワニのモニュメントと無料の足湯がある。


休止まではまだ2年近くの猶予がある。旅行などで訪れる機会があればぜひ大鰐線に乗ってみてほしい。ローカル線ならではの雰囲気も堪能でき、きっと満足してもらえるはずだ。
<TEXT/高島昌俊>
―[シリーズ・駅]―
【高島昌俊】
フリーライター。