これらの特徴はどこのことかわかるだろうか? 実は、現在の台湾の経済事情だという。中華圏事情に詳しいジャーナリストの奥窪優木さんはこう話す。
「台湾は半導体受託生産メーカーで世界トップシェアを占めるTSMC(台湾積体電路製造)や鴻海など優良企業が多く、高い経済成長率を記録しています。
そういった経済成長に伴い、女性の高学歴化、社会進出が進んでいる一方、低学歴で十分な収入を得ることができない男性が増加、結婚適齢期の未婚率が高まっています。台湾の2022年の合計特殊出生率は0.87と過去最低を更新しており、世界でも最低水準となっています。
近年の経済成長と同時に、台湾では人間関係の希薄化も指摘されています」(奥窪さん)
昨今、台湾では「無体温関係」という言葉が流行っているという。文字通り、「体温のない関係」を揶揄したものだ。日本でも少子高齢化、働き方の変化、スマホやSNSの普及など、人間関係の希薄化や孤立化が問題視されて久しい。日本では意外と知られていないが、実は台湾も同じような状況なのだ。
台湾では結婚できない“草食系男性”が増えて少子化が進んでおり、行政院(台湾における最高行政機関)では「経済的な事情」などが原因だと指摘している。
「このような恋愛弱者の若者の増加に比例するかのように、中華圏では大人のオモチャやラブドールなどのニーズが高まり、成人用品市場が拡大しています。ラブドールなどの成人用品は恋愛弱者や独居老人のQOL(生活の質)を高めることに一役買っているのではないでしょうか」(奥窪さん)
◆コロナ禍にドールカフェをオープンして活況に
台湾のこのような流れを受け、中部都市、台中に一風変わったカフェがある。リアルラブドールが展示されているカフェ「MITICA」(台中市北区中清路167号)を運営する郭さんに話を聞いた。「私が働いていた会社がコロナ禍に営業できなくなって。妻も妊娠で夜の営みができない時期だったので、もともとドールが好きだから1つ買ってみようと思って購入したのがドールカフェを開くきっかけとなりました。
当時、コロナ禍で台湾の夜のお店もほぼ営業できなかったこともあって、『これは絶対にいいビジネスになる』と確信して妻を説得し、ラブドールを展示するカフェを2021年にオープンしました」(郭さん)
2021年にオープンして以来、その人気は口コミで広がり、さまざまな事情を抱えた男性がカフェを訪れているという。
「オープンした当初はコロナ禍で夜のお店が閉まっていて、ドールがどんどん売れていました。今はそういったお店も復活していますが、買いたい人は増えていて、ドールが市民権を得ているのを感じますね」(郭さん)
◆コーヒー代で稼がない喫茶店
郭さんが運営するこのドールカフェはどのようなビジネスモデル、収益構造になっているのか?「お店の家賃は6万元(約27万円)です。対して、カフェの単価は150~170元(約675~765円、1台湾元=4.5円で計算)。お客様の平均的な単価は200~300元程度(約900~1350円)でしょうか。1日平均10人から多くても数十人ほどの来客なので、カフェとしての収益は赤字です(笑)。
ここで売っているドールは6万~15万元(約27万~67.5万円)で、しかも高いドールのほうが売れる傾向がありますね。一番多いときには、15万元のドールが1週間で70~80体売れたこともありました。お客様はやっぱりドールを見に来ているから、別にコーヒーでは稼いでいないんです。お客さんが来たら『飲んでください』って無料であげてもいいくらいです」(郭さん)

「定期的にイベントも実施しています。

◆修理・メンテナンスなど、購入後も継続的に稼ぐ「ストックビジネス」
1体数十万円もするドールだが、収益は販売時だけではない。「ドールをご購入いただいたときに好みの衣装やアクセサリーを買っていくお客様もいますし、ドールを洗浄するお手入れキットなども販売しています。
また、以前は家族などに見られないように部屋で隠すことが多かったドールですが、近年はドール業界もオープンになってきているのでドールを立てるドールスタンドも売れますねドールが壊れた場合もリペアしていて、1つの部位で3000元くらい(約1万3500円)で修理をもしています。また、最終的に捨てるときにも、費用をいただいて分別して処分しています」(郭さん)
購入時だけでなく、購入後の修理・メンテナンスなどでも継続的な収益になっている。いわゆる「リカーリングビジネス」や「ストックビジネス」的な側面もあり、コーヒーで稼がなくてもいいカフェとなっているのだ。
どんな人がドールを購入していくのか?
「成人用品の用途として買っていく人もいれば、ドールの造形美を見て楽しむために購入する人もいます。人間関係が希薄化している台湾で、隣にいて癒してくれたり、寂しさを埋めてくれる存在にもなっているのだと思いますね。ドールといっても、人の目を気にしなくていいんだよと伝えたいですね」(郭さん)

◆リアルすぎるドールと会話ができる「AIドール」の登場
店内に展示・販売されているドールはシリコン製で、触り心地はまさに人肌のよう。細かいところも非常に精巧な作りとなっているだけでなく、今後はドールにAIも搭載されていくという。
ラブドールとしてだけでなく、コミュニケーションが取れるドールとしての進化も著しい。
また、生身の女性では緊張してしまう男性や、HIVなどで性交渉できない方など、さまざまな方の問題を解決する可能性も秘めている。
男性の結婚のハードルが上がり、女性も結婚しなくても済む時代になり、ドール業界にとっては追い風が吹いている。大人のオモチャやラブドールなど、成人用品への高まるニーズ。この潮流は止まらなさそうだ。
<取材・文/日刊SPA!編集部>