

この制度にチャレンジする2人1組のペアは、1年契約の業務委託契約書を締結し、4年で2,000万円近くの貯金も可能になるという(報酬や貯蓄金額には個人差あり)。

省人化と理念浸透でホテル改革を推進

事業の立ち上げ当初、ビジネスホテルの相場は1泊7,000~8,000円ほどだったのに対し、スーパーホテルは1泊4,980円で朝食付きという“価格破壊”のプランを打ち出し、シェアを獲得していく。
しかし、店舗数が20店舗規模にまで拡大したタイミングで、稼働率が80%前後で頭打ちになり、伸び悩んでいたという。
そんななかで、創業当時から導入していた「自動チェックイン機」による省人化のメリットを活かし、顧客満足度の向上を図るための“おもてなし”を重視する戦略へシフトさせたと山本さんは話す。
「顧客満足度を高めるために、単にホテル運営や人材育成の仕組みを作るのではなく、それがしっかりと現場で運用され、スタッフたちの業務が成果につながっているかどうかを“見える化”することを意識していました。
組織において『仕組みの浸透』と『理念の浸透』を並行して実施していきながら、スタッフのモチベーション向上へと繋げ、結果として顧客満足度の向上へとつながるというサイクルを生み出せるように取り組んできたのです」(山本さん、以下同)
日常の癒やしや安らぎを届ける“21世紀型のホテル”を目指す

シャンデリアのある空間や特別なディナーなど、非日常のラグジュアリーを追求する「20世紀型のホテル」は、見た目の華やかさや豪華さを演出するものだった。
一方、スーパーホテルの考える「21世紀型のホテル」は、“日常の中で感じるラグジュアリー”を掲げているという。
「省資源・省エネルギーの取り組みを通じて環境に配慮した空間づくりを意識しているほか、オーガニックな食事や天然温泉を提供し、五感を通して“心地よさ”や“癒し”を届けることを心がけています。
さらに、コロナ禍を機に「ビジネスホテル」から「ライフスタイルホテル」へとブランドの転換を図り、多様なライフスタイルやニーズに対応した宿泊体験を提供する体制を構築してきたと山本さんは述べる。
以前は出張を中心としたビジネスユーザーが主なターゲット層だったが、コロナによるリモートワークの進展によって、出張需要が大きく減少した。その代わりに、ファミリー層やインバウンド、女性同士の旅行といった新しい客層が増えているという。

また、ユニークな取り組みとして話題になったのが、『ビジホ飲み』の施策です。当時、都内で一人暮らしをしている女性の間で、『仕事終わりにビジネスホテルでゆっくりお酒を楽しむ』という過ごし方がSNSで注目を集めていました。そこに着目し、スーパーホテルで『ビジホ飲み』を発信してもらうためにインフルエンサーを起用したプロモーションを実施したところ、多くの反響が生まれ、全国的な広がりを見せたのです」
独立志向の強い人材は目標達成のモチベーションが高い

たとえば、将来は飲食店を開きたい。夫婦でペンションを運営したいなど、具体的なビジョンを持っている人材をターゲットに据えている。
なぜ夢を持った人が重要かというと、「日々の業務に対する高いモチベーションと継続力に直結するから」だと山本さんは説明する。
「もともと、当社のホテル運営はすべて本社スタッフが管理していた時期もありました。
だからこそ、『あと1室をどう埋めるか』『どうやって売り上げ110%を目指すか』というのを自ら考え、工夫し、自然と行動に移していくわけですね。なので、私たちは『夢を持ち、独立志向のある人材』を積極的に迎え入れ、ともに成長していける環境を整えているのです」
1年間の報酬が2人1組で4000万円近くなる事例も。“住み込みホテル経営”という新たな働き方

これまで26年間で、約500組(1,000名)のベンチャー支配人・副支配人が誕生し、夢の実現や起業・独立を数多く支援してきたという。
ベンチャー支配人制度への応募は夫婦、カップル、友人など同居可能な二人一組のペアが条件。基本的には1年更新の業務委託契約を締結し、4年契約を継続された場合には、約2000万円程度の資金を貯蓄することも可能である。なかには顧客満足度や稼働率向上に対するインセンティブを含めて、1年間の報酬が2人1組で4000万円近くなる事例もあるとか。
これは、一般的なサラリーマンではなかなか到達できない金額感ではなかろうか。
賃貸マンションの「住み込み管理人」から着想を得た

また、ペアで住み込みが基本ということから、税制面のメリットもあり、結果的に手取りが一般のサラリーマンより多くなるケースも。
このような常識にとらわれないユニークな取り組みが生まれたのは、「私たちが『ホテル屋』ではなく『賃貸・分譲マンションの運営』からスタートしたことに由来している」と山本さんは語る。
「たとえば、100室規模の賃貸マンションであれば、夫婦2人の住み込み管理人で十分に運営が可能です。ですが、ホテルになるとチェックイン・チェックアウトの業務があるのでそうもいきません。
そこで、住み込み管理人でも回せるホテルを理想として、人手に頼らずに運営できる仕組みを構築するために、自動チェックイン機の設置や客室の固定電話の撤去を行ったわけです。無理に“ホテルらしさ”を追わないという発想の転換こそ、現在のスーパーホテルの礎になっていて、それが未経験のペアでも支配人が務まる体制を支えていると言えるでしょう」
全国に展開するスーパーホテルのほとんどの店舗が業務委託の支配人で運営されているというから驚きだ。今後は、各支配人の現場からのアイデアを積極的に取り入れ、新たな価値の創出にも取り組んでいくと山本さんは展望を話す。

そこで私たちは、民間企業としてのマーケティング力や営業力を活かし、自治体と連携した形で、DXやAIといった最新テクノロジーを駆使しながら、地域資源を国内外へ広く発信していき、ひいては交流人口の拡大を見据えています」
従来のホテル業界の常識を打ち破る「ホテルを超えるホテル」として、独自の進化を続けるスーパーホテル。
夢を持つ人の背中を押し、地域と人を繋いでいくその歩みは、これからも新たなホテルのあり方を示してくれるだろう。
<取材・文・撮影(インタビュー)/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。