ラーメンは日本人の国民食とも言える存在で、子供からお年寄りまで幅広い層に人気がある。そのため、ラーメン店は飲食業態としても出店希望が多い。
だが、初期投資額・参入障壁が低く出店しやすい半面、同業者競争が激しく、存続が難しい市場となっているのも事実だ。加えて、物価高騰など仕入れ環境の悪化に加え、人手不足や人件費の上昇が重なり利益を出すのが難しい状況だ。
ラーメンの需要自体は安定しており、行列を厭わない熱心なラーメンファンも多い。また、インバウンド客にとっても、手頃な価格で提供されることや品質の高さが評価されている。
需要が安定しているにもかかわらず、それらを上回る過剰供給の状態で市場のレッドオーシャン化が進んでいる。
ラーメン店は「1,000円の壁」を意識した価格設定を行う経営が主流である。ブランド力が高く、消費者に価値を認められている店舗は1,000円以上の価格で商品の提供が可能だが、そうでない店舗では値上げをためらう傾向が強い。その結果、提供価値の二極化が進んでいる。
このような状況下では、ブランド力がない個人店や経営資源の乏しい店舗が存続に苦しむことが避けられない。
今回はどうとんぼり神座(以下、神座)と山岡家の2社を紹介したい。
フレンチ出身の創業者がつくった神座ラーメン
女優の土屋太鳳さんがブランドアンバサダーに就任するなど、全国展開に向け認知度を強化中の神座。売上150億円・店舗数105店と今はまだ小規模なチェーン店だが、大阪・関西万博へも出店したことでも話題を集めた。東京20店舗を中心に関東圏30店舗、大阪42店舗を中心に近畿圏73店舗、海外2店舗の計105店舗を展開。ロードサイド型大型店、駅前繁華街の小型店、商業集積のフードコートなどに出店するなど立地タイプも多様。3月に入り7店舗を出店するなど急速に勢力を拡大している。
神座は、フレンチ出身の創業者が従来のイメージを払拭する新しい発想のラーメンを提供し、店内の雰囲気にも工夫を施すことで、従来のラーメン店とは一線を画している。創業以来守り続けてきた秘伝のスープを一貫して提供するため、「スープソムリエ」という社内資格制度を設けており、高度な技術を持つ資格保持者だけがスープづくりに携わることが許されている。
独自の秘伝のスープとタレは、オーナー一族など限られた人達にのみ情報が共有され、厳格に管理されているようだ。
白菜など野菜たっぷりの醤油スープをあっさりした味付けで仕上げており、喉ごしが特徴の小麦香る中太ストレート麺と最適のマッチング。幅広い客層に好まれる、飽きずに毎日でも食べられるようなラーメンだ。
より勢いがある企業に進化中

テレビで紹介された回数ランキング4位で認知度も高く、およそ半数が女性客ということである。
運営するのは株式会社理想実業(非上場)で、神座が中核ブランドであり、1975年11月に創業。1986年に大阪1号店「道頓堀店 神座」を開店した。
神座事業、国内飲食事業、海外飲食事業、食品製造事業の4本柱で経営している。連結売上高は128億円(2024年3月期)で、2025年3月期はまだ公表されていないが148億円、+16%増を目標に設定していた。2025年7月19日の39周年に向けて、感謝還元企画を展開している。
2021年、創業者である布施正人氏から次男に事業承継し、新たな逸材の招へいによる組織と事業の再構築、及び、運営の自働化で経営をシステマチックに刷新し、業績も成長軌道に乗せている。
現在、新社長の真之介氏のリーダーシップと一致団結した運営体制で、より勢いがある企業に進化している。「子供の貧困と飢餓の撲滅」を企業活動の目的にもしており、社会貢献への意識が高い企業でもあり、成長性と将来性のある外食企業だ。
老舗の山岡家は確実に店舗数を拡大

セントラルキッチンを持たず、各店舗でスープを仕込むなど手作り感のあるラーメンへの思いが強く愚直に取り組んでいる店だ。
100店舗以上のラーメンチェーン店で、セントラルキッチンや濃縮スープを使わず、手作りによるスープの仕込みや、食材の店内調理を実施していることが大きな特徴であり強みとなっている。
店舗立地は主要国道沿いで、店より広い大型駐車場を併設した店舗が中心で24時間営業を基本としている。
2025年1月期の決算資料を見ると、売上は、345億8,500万円(前期比30.5%増)営業利益は37億800万円(前期比79.7増)、営業利益率10.7%(前期比2.9%増)である。
山岡家も食材費の度重なる上昇に対処するため、24年7月と11月に一部商品の価格改定を実施しており、原価率は29.6%と抑制できている。財務の安定性の高さは、自己資本比率が前年の34.6%から46.1%と増したことからも分かるだろう。
アプリの登録者数は110万人を突破

直営による出店にこだわり、直営店だからできることとして、①肉本来の旨みを味わえる肩ロースを使用した焼豚、②新鮮で高品質なネギ、③本物の濃厚豚骨スープ、④豚骨スープに合うように開発されたスープなどをアピールポイントにしている。
強固な顧客基盤に向けた販促策の一環として山岡家公式アプリがあり、クーポン配信や来店ポイント付与、期間限定商品の情報発信などを積極的に行っている。現会員登録者数は今年1月末時点で約110万人に達している。
25年1月期(24年2月~25年1月)は、ラーメン山岡家を関東エリアに3店舗、関西エリアに2店舗、北陸エリアに1店舗、計6店舗を新規出店し、店舗数は188店舗(25年1月末時点)となった。
県内初となる和歌山県へも出店し、全国31都道県への進出を達成しており、他にも、味噌ラーメン山岡家 (3店舗)煮干しラーメン山岡家(5店舗)、餃子の山岡家(1店舗)も運営している。
レギュラーメニューは全29種類で、バリエーションの豊富さは、山岡家の強みだ。醤油ラーメン・塩ラーメンは690円(税込)から安く提供されており、平日のランチタイムはお得感満載のサービスセット(お好みのラーメンと人気のサイドメニューのゴールデンコンビはボリュームがありリーズナブルな価格で大人気だ。
朝ラーメンも朝5時~11時まで、24時間営業店舗のみだが、550円(税込)で提供されており話題である。今後もこの勢いは止まりそうにないチェーン店だ。
吉野家ホールディングスもラーメン事業を拡大中
ラーメン店の倒産が増えている環境下でも、ラーメン人気は盤石で、新規に参入する外食企業が相次いでいる。その参入手段としてのM&Aも活発だ。吉野家ホールディングスも今年に入り、ラーメン店「キラメキノトリ」などを展開するキラメキノ未来を子会社化した。
昨年からラーメンの麺やスープなどを製造する会社を買収するなど、ラーメン事業の運営基盤を強化している。これらによって吉野家のラーメン事業の店舗数は合計129店舗になる(国内95店舗、海外34店舗)。
コア事業の牛丼の業績が成長余地が限定される中、成長余地が大きいラーメン事業を次なる柱と位置付けており、成長の基盤づくりを進めている。
競争による品質向上と価格低下が期待できる
このように外食大手が、今後の事業ポートフォリオ戦略の最適化に向けて、ラーメン業態に参入してくるのが増えている状態だ。でもラーメンチェーン上位企業の事業構成を見ると、丸源ラーメンは別として、ラーメン業態の単一事業に集中するか、若しくは、しても関連事業に限定し、効率経営を目指す企業が多い。
経営資源を分散させず、ラーメン業態に絞って開発・調達・製造・店舗運営など各機能を垂直統合している。
複数業態を展開すると、リスク分散にはなるが、コングロマリットディスカウント状態(多くの事業を有する企業の価値が各事業の価値の総計より小さくなる状態)になり、どれも中途半端になりやすい。
ラーメンを本業に経営資源を集中し、効率経営を展開するラーメンチェーンが多いみたいだ。どういった戦略を策定するかは企業によって異なるが、今後もラーメン市場への参入は増えそうだ。
お客さんは競争による品質向上と価格低下を期待したいものである。
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan