「人は見かけによらぬもの……とは言いますが、あのときほど、見かけで判断しちゃダメだなぁって思ったことはないですね」
 そう話してくれたのは、都内に住む主婦の岩田順子さん(仮名・37歳)。岩田さんは当時、1歳半の息子さんと一緒にバスで起きた出来事を振り返ってくれた。


満員のバス車内に居合わせた迷惑老人客

「テメェのほうが迷惑だろ!」満員のバスで赤ちゃんを怒鳴る“迷...の画像はこちら >>
「子供の通院のため、中野と渋谷を結ぶバスに乗り、渋谷へむかったんです。バスに乗ると雨だったこともあって満員。私はベビーカーを畳んで、息子を抱っこして立っていました。車内はけっこうギュウギュウ詰めで座れず、ベビーカーを持ちながら息子も抱っこで、かなりツラかったんです」

 すると、目の前にいた男性が立ち上がり、岩田さんに席を譲ろうとしてくれたという。

「バンダナを巻いてキャップを被って、金のネックレスをジャラジャラ。見た目から『ザ・Bボーイ』という感じで、タトゥーも入っていて、近寄りがたいな……って感じの男のコだったんですが、スッと立ち上がって席を譲ってくれました。ですが、私じゃなくて私の隣にいたおじいさんが、その席に座ろうとしまして……。すると、その男のコは『あ、お母さん、大変そうだからどうぞ』って制してくれたんです」

 この行為が老人の怒りの導火線に火を付けてしまうことになる。

「そのおじいさん、私に席を譲られたことがよほど気に食わなかったようで、席の横に置いたベビーカーを足で押してきたり、舌打ちをしたり、ため息を付いたり……。なんか気まずいなって思いながら乗っていました」

泣き始めた息子を睨む老人

 すると間が悪いことに抱っこしていた息子が泣き出してしまったのである。

「もともと寝起きは機嫌がよくなくて、さらに抱っこして座っていたことで窮屈だったことも重なって、ギャン泣き状態になりました。一生懸命あやしたんですが、もう、何をしてもダメ。一度、前に座っていたおばあさんが『おなか空いちゃったのかしら?』って心配そうに声を掛けてくれたんですが、子供ってスイッチが入ると、とにかく泣き続けちゃうんですよね。雨が降ってましたが、降りて落ち着かせたほうがいいかなとも思い始めていました」

 ふと、岩田さんは視線を感じて顔を上げると、そこには席に座れなかった老人が、鬼のような形相で睨んでいたのであった。


「もう、気まずくて気まずくて……。これはもう、びしょ濡れになることを覚悟で降りるしかないと思いました」

泣いている子供に怒鳴りつける老人

 腹をくくった岩田さんに対し、その老人はあろうことか罵声を浴びせ始めたのである。

「ビックリしました。『静かにさせられないのか!ギャアギャア泣いて迷惑だ!』って。他にも『ちゃんとしつけろ!』とか『こんな雨の日に出歩かなきゃいいだろ!』といった感じで、ひたすら怒鳴り続けたんです。誰も助けてくれず、私も泣きたくなってきました」

 周囲は見て見ぬ振りで、気まずい空気がバスの車内に漂い始める。すると、さらに大きな怒声が車内に響いた。

声の主は老人ではなく…

「テメェのほうが迷惑だろ!」満員のバスで赤ちゃんを怒鳴る“迷惑老人”…隣にいたイカつい男性が放った「痛快すぎる一言」
画像はイメージです ※画像生成にAIを利用しています
「うるせぇんだよ!」

 ビックリして岩田さんが声がしたほうを向くと、そこには席を譲ってくれたBボーイがいたのであった。

「みんなキョトンとしていると、その男のコは『テメェは赤ん坊の頃、泣かなかったのか?迷惑かけたことねぇんか!』って」

 だが、老人も怯むことなく「うるさくてみんな迷惑してんじゃねぇか」と言い返したのだが……。

 Bボーイは続けて「テメェのほうがよっぽど迷惑だろ!オレに同じこと言えんのか!自分より弱いヤツにしか言えねぇんだろ!」と老人を一喝。

 車内は静まり返り、岩田さんは助けてくれて嬉しい反面、何となくバツの悪さを感じてしまったという。

居合わせた女性の一言で救われる

 そんなとき、前に座っていたおばあさんが声を掛けてきた。

「おばあさんが『そうそう、赤ちゃんは泣くのが仕事だからね。でも、お母さんも大変なんだから』って笑顔で言われて、それでなんか車内もなんとなく落ち着きました」

 これにて一件落着。
岩田さんはバスを降りた際にBボーイに「ありがとうございました」と伝えると。「オレ、ああいうエラそうなヤツ、嫌いなんで」とのこと。

「カッコよかったですね(笑)。最初はちょっとイカつくて怖そうって思ったんですが、人は見かけによらぬものってことを実感しました」

 日本は子供に優しくないとも言われるが、こんな話があるならばまだまだ捨てたものではないのかもしれない。

文/谷本ススム

【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター
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