歯医者さんからは「フッ素」の入っている歯磨き粉を使うとむし歯予防になると聞いたことがあると思います。ただ、フッ素がなんなのかいまいちわかっていない人がほとんどかもしれません。その一方で、「フッ素は危ないから歯磨き粉は使いたくない!」という患者さんが一定数いらっしゃるのも事実です。そこで今回は、歯磨き粉のフッ素について、あらためて解説していこうと思います。
歯を強くしたいなら「フッ素」が有効

フッ素の基本的な働きは、まず歯質を強化してくれます。歯は、ハイドロキシアパタイトという物質で作られているのですが、フッ素を継続的に使用することでこの構造は、フルオロアパタイトという構造に変化していきます。フルオロアパタイトはむし歯菌が放出する酸に強く、歯の表面が溶けだすことを防いでくれます。
むし歯菌は、糖を摂取して酸を放出するエネルギー代謝を行っているのですが、この酸に歯が溶けることによってむし歯は作られます。フッ素は溶けだした歯を固めるような働きも持っています。
実際に、むし歯リスクの高い患者さんに、歯磨きの徹底と合わせて、フッ素の継続使用を行ってもらうと、初期むし歯に改善が見られました。進行したむし歯の改善は難しいですが、初期のむし歯には効果的と言えます。

フッ素は身体に毒なのか!?

例えば、フッ素を大量に飲み込むと下痢や嘔吐などの中毒が起きたり危険だと言われていますが、体重10kgの1歳の子どもで、歯磨き粉を20g飲み込むと腹部症状が生じ、致死量としては320~640gと言われています。ただ、通常のサイズの歯磨き粉の容量は約120gなので、3本分以上ということになります。
また、歯が全体的に不自然に白くなるフッ素症や骨折などは、過剰に飲まない限り基本的に生じないものです。
一時期テレビでフッ素の発がん性が報じられ、フッ素への警戒が強まった時期がありました。しかし、NHMRC(国立保健医療研究評議会)では、むし歯予防に対する適切なフッ素の使用であれば、骨折や癌など全身への影響はないと結論付けています。発がんの可能性があるフッ化物はパーフルオロオクタン酸(PFOA)という物質で、フライパンのテフロン加工に使われていましたが、むし歯予防のフッ素とは違う物質です。
フッ素の含まれる歯磨き粉の適切な使用において、普段診療を行っていて、全身の健康に影響が出ている方は一度も見たことがありません。フッ素に限らず、水も過剰摂取で中毒を起こすように、どんなものでも過剰摂取すれば、健康に異常を生じる可能性があるのです。
現状「フッ素はむし歯予防に有効」と言える
これから様々な研究や論文が出てくると、結論が変わる可能性も全くないとは言えません。しかし現状、むし歯予防に有効だとする論文や研究が多いのが事実です。心配な場合は、適切な使用法を歯科医院で確認して使用しましょう。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari